いまや製造業に関連するベンダーの多くが顧客のDX(デジタル・トランスフォーメーション)支援するビジネスを展開している。こうした中で、自社が率先してDXを推進する姿勢が目立っているのが、安川電機だ。同社が進める「YDX(YASKAWA Digital transformation)」では、データを軸にあらゆる業務を可視化することを目指しており、そのために各部門で異なるコードの統一化などを進めている。こうした取り組みの狙いやDXに対する考え方などについて同社代表取締役社長の小笠原浩氏に聞いた。(取材・文:松尾康徳)

―― YDXとはどのような取り組みなのでしょうか。

小笠原氏 YDXは現場の情報をすべてデジタルのデータで表し、経営の高度な見える化を進めるものです。私は社長就任時、「データが共通言語」と社内に呼びかけ、データに基づく経営を進めていく方針を示しました。その背景にあったのは、当時は勘定科目の定義が社内でバラバラだったことでした。同じ「原価」、同じ「価格」という言葉でも、事業所や部門によって指す内容が違っていたのです。

(撮影:若宮祐)

 本来、同じものを示すデータは、1カ所にまとめられていなければなりません。それがデータベースの原則であるはずなのですが、実際の現場では守られておらず、それぞれの事業所や部門が独自に定義していたのが実情でした。これでは現場の状況を正しく把握できません。数字に基づいて的確な意思決定を行わなくてはならない経営サイドにとって大きな問題です。

 そこで当社は勘定科目の定義を標準化することに取り組みました。その成果の一つが、2020年下期に連結約70社の四半期決算を1週間で確定させることを実現したことです。YDXではその取り組みを拡大します。全ての業務を具体的に定義して標準化すると同時に、同じコードを割り当ててデジタルで見える化することを目指しています。

 業務の中には、同じことを目的とした業務であるにもかかわらず、事業所や部門でその手順や内容が少しずつ異なるなど「似て非なる」ものが数多くあります。特にその傾向が顕著なのが開発部門です。設計に使うCADのバージョンが事業部でバラバラだったり、同じような機器でも事業部によって作り方が違っていたり。それら似て非なる業務を同じコードのもとで標準化すれば、同じ仕事でも、同じ機器を作るのでも、事業部ごとに比較することができるようになり、最適なところを基準に改善を進めるようなことが可能になります。また業務が標準化されているから、異動しても異動先で業務のやり方の違いに戸惑うことがなく、引き継ぎなしで異動初日から仕事できるようになります。経営サイドから見れば人の最適配置も進めやすくなるわけです。

 業務の標準化は想像以上に大変です。過去の歴史があり過ぎるからなかなか変えられないのです。一度会社をなくしてしまって最初から作り直すことができるならば、その方が早いかもしれません。

集計に人手がかかるようではデータを活用する気になれない

―― データを社内の共通言語とするために、データが意味するものを全社で統一しようというのがYDXなのですね。

小笠原氏 データの定義がバラバラのままでは、データを集めても信頼に足るものになりません。統一的な定義のもとでデータをきちんと集めて、業務を正しく示した形で見える化すれば、従業員は同じデータを見て意見を出し合うことが可能になり、どう対応すべきか考えるようになります。つまりデータが見えれば人が動くようになるのです。

(撮影:若宮祐)

 データの定義を統一すると同時にコードも統一するのは、共通言語としてのデータがすぐに見えるようにするためです。今まではあるデータを知りたくても、コードがバラバラのため手集計しているのが実情でした。集計に2週間かかったり、時には担当者が深夜まで残業したりしているのです。これではデータを活用しようという気になるはずもありません。

 業務の標準化とコードの統一で、原価を正しく比較するようなことが容易になります。販売単価だけ比較して、ある製品では他の製品よりも大きな利益を得ていると思っていたものが、実はカスタマイズの工数の扱いがその製品だけ違っていて、本当はほとんど儲かっていなかったことが分かったりするかもしれません。何が儲かっているのかを正確なデータで把握し、そこに大きな経営資源を注ぎ込んで競争力を上げていくというわけです。