工場そのものを顧客への提案に

―― いまの話を伺っている限り、YDXはDXを進めたい製造業への提案というよりも、社内的な取り組みのように思います。

小笠原氏 おっしゃるとおりYDXはあくまでも会社として経営を安定させるための活動です。製造業への提案は、当社が以前から提唱しているソリューションコンセプト「i3-Mechatronics」の方です。これをYDXと使い分けています。i3-Mechatronicsは「integrated」「intelligent」「innovative」の3つのステップで、自動化を追求して高度なものづくりを目指すというものです。「integrated」で現場の機器を統合し、そこから生み出されるデータを「intelligent」に解析。現場にそれをフィードバックして、ものづくりを「innovative」なものにしていくという考え方です。

(撮影:若宮祐)

 ただYDXがお客様への提案と無縁というわけではありません。YDXで経営効率を高め、競争力のある製品やサービスを提供していくことは、提案の幅を広げていくという点でお客様にもつながると言えます。

 当社は2018年に埼玉県入間市に開設したACサーボモータ工場「安川ソリューションファクトリ」を、i3-Mechatronicsを実証する場と位置付けています。i3-Mechatronicsの世界を具現化した工場として、工場そのものをお客様への提案にしているのです。その工場を経営する基盤を強化するのがYDXと考えるなら、YDXもお客様への提案を形作る1つの要素と言えるでしょう。

安川ソリューションファクトリ
(画像提供:安川電機)

セルの外に手を出すつもりはない

―― YDXで実現する経営は、他の製造業にとっても関心の高いことだと思います。社内だけにとどめず、YDXのアプローチをコンサルティングサービス化し、社外に提供するようなお考えはないのでしょうか。

小笠原氏 それはないですね。コンサルティングは人に依存するサービスです。当社が最終的に売るのは「モノ」であり、モノにつながらないところのビジネスに乗り出すつもりはありません。

 コンサルティングになると、生産現場のシステムだけでなく、基幹のITシステムにも手を広げることが必要になります。しかしITシステムの部分はITベンダとの協業で提供していく方針です。自社でソフトウエアを開発して直接ITシステムも提供していくという考えはありません。ITシステムは巨大なビジネスです。そこに新たに打って出るには、商材や人材に相当な規模のリソースを注ぎ込まなくてはなりません。そもそも生産現場のセルを中心にビジネスを展開してきた当社には、こうしたビジネスは基本的に向いていません。

 私は社長に就任するまで、安川電機の中でもあまり注目されないコンピュータ関連の仕事にかかわってきましたが、その私でさえ「当社はITシステムのビジネスに向いていないし、やるべきではない」と思っていました。社長になった今ではその思いは強くなり、「ITシステムは絶対にやらない」に変わっています。セルを超えたところに、当社が進出していく考えはありません。

―― でもそうすると、ITシステムのベンダの方から逆に浸食されたりしませんか。IoTでDXの可能性が広がっている製造業の市場を狙っているITベンダは多いです。

小笠原氏 それは心配していません。製造業は現場の機器を動かしてなんぼの世界です。動かし方を知っているのは、お客様である製造業と、動かす機器を持っている当社であり、外からITベンダが入って来ることは容易ではないからです。省力化や生産性向上など実際の効果を生み出すのは現場の機器であり、そこは当社が直接携わっています。ITシステム側のコンピュータから現場を改善するとしても間接的なものにならざるを得ず、できることには限りがあるでしょう。

 ただITの中でもAIについては、自社で持っておきたいと考えています。とは言ってもAIを開発するというわけではありません。AIは、ベースのエンジンの多くがオープンソース化されています。重要なのは、AIそのものよりもAIの利用技術の方です。現場の改善にセルから出るデータを活用するうえで、AIの利用技術は社内で持っておきたいと思っています。2018年に製造業や産業用ロボット向けAIソリューションの子会社「エイアイキューブ」を設立したのは、利用技術を社内に蓄積するためです。

 蓄積した利用技術をもとに、AIは「DIY(Do It Yourself)」で活用していきたいと考えています。外部の力を借りるばかりではなく、自分たちの現場で試行錯誤しながら組み上げていくことを社内に呼びかけています。それは自分たちの製品の価値を高めると同時に、その製品を使うお客様に新たな付加価値をもたらします。ただしその前提として、AIで活用する社内のデータがきちんとしていなくては始まりません。だからこそYDXでデータを共通言語とした社内基盤を確立することが重要と考えているのです。

(撮影:若宮祐)