ものづくりやエンジニアリングをテーマにした "男泣き!" シリーズの漫画をご存じだろうか。作者は見ル野栄司氏。かつて町工場などに勤務した経験を強みに、ものづくりの奥深さや技術者のやりがいなどを独特の視点で描き出していると評判だ。「理工系漫画家」として現場モノや技術モノの取材漫画という新境地を切り開いた見ル野氏に、豊富な取材経験で得た日本のものづくりの一片を聞いた。(取材・文:関行宏)

たとえAIやロボットの時代になっても、どんな課題でも即座に解決してしまうようなカッコいい "スーパーエンジニア" を描きたいと展望する見ル野氏。「ものづくり未来図」のためにイメージを描き下ろしてもらった。

――見ル野さんはものづくりやエンジニアリングをテーマにした数多くの "男泣き!" 漫画を描いていらっしゃいますが、経歴を簡単に教えていただけますか。

見ル野 漫画が好きで子供のころからずっと描いています。一方で機械いじりも好きで、原付バイクをバラバラにしたり、自転車を改造したりといったことは若い頃からやっていました。専門学校(日本工学院専門学校)で当時流行っていたメカトロニクスを勉強して、卒業後は半導体製造装置を手掛ける町工場に就職しました。リードフレームと呼ばれる半導体の部品に生産管理コードなどを捺印して搬送する、いわゆるリードフレーム搬送装置などを作る小さい会社です。最初に旋盤やフライスやボール盤を使った機械加工をひととおり経験して、その後に電気配線や電気設計も担当しました。お客さんのところに行って装置を据え付けて、テスト印字でノーエラーになるまで徹夜する、なんていうのも当たり前でした。町工場ですから、いわゆる "何でも屋" ですね。

見ル野栄司氏 漫画家
(撮影:栗原克己)

 入社して5年目ぐらいに、人に直接喜んでもらえるものづくりをやりたいなと思って、ゲーム機やプリントシール機(いわゆる「プリクラ」)を作る会社に転職したんです。町工場での経験を生かして、電気設計、機械設計、組み立て、設置など技術関連の業務を幅広く担当しました。残念ながらその会社は倒産してしまったんですが、会社に勤めながら漫画はずっと描いていて、そんなタイミングで「東京ソレノイド」(小学館 月刊IKKI・未単行本化)という漫画でデビューが決まったんです。

デビューからほどなくして取材系の仕事が増える

――デビュー作の「東京ソレノイド」はコミック化されていないので拝読していないのですが、見ル野さんご自身が、あるインタビューで、「ノイズジャンクスラッシュな工員音楽ユニットの悲劇のバンドストーリー」と説明しています。

見ル野 そんなこと言ってましたっけ?(笑)。ソレノイドって電気部品の一種ですが、「東京ソレノイド」はそういう技術とは全く関係がなくて、バンドをやっている主人公が竜巻に飲み込まれて終わるとか、おならで空を飛ぶとか、そういうバカなギャグ漫画ですね。

 その後に「東京フローチャート」(小学館)という漫画を連載させてもらったんです。プログラムのフローチャートみたいにコマとコマとが矢印で結ばれていて、ループになったり戻ったりするという、描きにくいし読みにくい漫画なんですけど、それを読んだリクルートのリクナビNEXT Tech総研の方が巻末の僕のプロフィールを見て、元エンジニアだったら技術系の取材漫画を描けるんじゃないかと連絡をくれました。2001年頃のことです。

(撮影:栗原克己)

 技術系漫画のような企画は、漫画雑誌の編集部からはまず出てこないと思うんですよね。ものづくりの感覚とか工場の現場の雰囲気が分かる人は編集部にはほとんどいませんからね。ですから、技術者としての知見を生かした作品を書けたのはリクルートさんのおかげです。作品はウェブ・メディアに掲載していました。ただリクルートさんは漫画の出版部門を持ってませんので、ウェブに載せた一連の作品をまとめて別の出版社に持ち込んだんです。そうしたら、対応してくれたやり手の営業マンの方が、面白そうだからと単行本にしてくれました。2010年のことです。リクルートさんの仕事が始まってから本になるまで8年かかりました。

――それが2010年に出版された「シブすぎ技術に男泣き!」(中経出版)というコミックですね。ところで、技術のすごさや技術者の苦労を知って主人公が男泣きをするという、今や見ル野さんの代名詞にもなっている "男泣き!" のキャッチフレーズは、どうやって考えついたのですか。

見ル野 実はリクルートの女性の担当さんが考えてくれたんです。僕自身は特にものづくりで泣いたことはないんですけどね(笑)。

――それ以来、ものづくりやエンジニアリングをテーマにした取材系の仕事が増えていくわけですね。

見ル野 自分がそうだったんで、エンジニアのツラさが分かるんですよ。生み出す苦しみだとか、行き詰まったときにどう行動するかだとか、トライアンドエラーしてやっと答えを見つけたときの喜びとか、そういう気持ちが。それを漫画で表現できるので、"男泣き!" のお仕事をいただいているんだろうと思いますね。今は週刊プレイボーイ(集英社)に社会見学ルポマンガ「技術見分で男泣き!秘密組織プレイメーソン」を連載していますが、すでに作品の数は160本を超えています。最近は、部品メーカーなどからタイアップ広告のお仕事をいただくようにもなりました。

(撮影:栗原克己)

 本音は他の漫画も描きたいんですよ(笑)。築城をものづくりに見立てながら、城攻めについて描いた「なわばりちゃんお攻めなさい!」(メディアファクトリー)とか、タクシードライバーの悲哀を描いた「シブすぎ! 男の人生哀歌 ~涙無線タクシー~」(ぶんか社)なんかも出してるんですけど、まったく売れてなくて(笑)。やはり技術やものづくりの取材モノが僕のお役目みたいです。

 ちなみに、取材で企業を訪問したときは、できるだけ現場で作業を体験させてもらって、その時の感覚を漫画で表現するように心がけてます。会議室で説明を聞いただけでは面白い漫画は描けませんからね。木工を手がける山形県の企業を訪問したときには、イスを作るプレス工程を体験させてもらいましたし、耕うん機のブレードを専門に扱う高知県のメーカーでは、塗装工程に入れる前にブレードを吊るす作業に加えてもらいました。実際に体験してみると、ほんのわずかな時間でも難しさが分かります。いつもずうずうしく、やらせてくださいとお願いしています。