大手と中小が対等関係になる

――顔の見えるデータ共有で、どのような産業構造の変化が期待できますか。

西岡氏 期待できることの一つが、中小製造業の存在感が増すことです。大手メーカーが大きなリソースを抱えて、同じモノを大量に生産してコストを下げるという従来からの手法では、もはや多様化する消費者の嗜好を満たせません。

 そこで注目すべきが、小ロットでも対応できる中小規模のメーカーです。メーカー同士をデジタルでつなぐ環境が整えば、独自の強みを持つ複数のメーカーが連携して、一貫した製造プロセスを構築することができます。しかも、状況に応じて構成を変えることができるので、全体の工数は増やさずに、多用な製品のバリエーションに対応することができるでしょう。つまり、顔の見えるデータ共有の仕組みがあれば、大手企業がすべて取り仕切るものづくりから、中小企業のネットワークが支えるものづくりへと移行するわけです。

 製造業のようなB to Bの世界では発注者側の発言力が大きく、下請け企業がそれに押し切られがちです。しかし、つながった中小企業ネットワークが製造業をリードする時代になれば、関係は対等なものになるでしょう。世界的な受託生産大手の鴻海精密工業は、その先行事例だと思います。ポジションは下請けですが、顧客は同社のリソースがなければ、市場の要求に応じた製品をそろえることができません。このため大手メーカーであっても同社と対等な立場で協調する必要があります。

(撮影:栗原克己)

――そうした力関係の図式が広がると、業界構造は大きく変わるでしょうね。

西岡氏 球技に例えるならば、今までのものづくりは有力選手が力に任せてゴールまでボールを運んでいくものでした。それに対し多数の選手が細かいパス回しを繰り返しながらゴールを目指すのが、デジタル化が進んだものづくりです。パスを効率よく回す技術が確立できれば、相手の動きに柔軟に対応できます。小柄な選手でも独自の技術さえあれば、そのパス回しの中に入って自らの力を発揮できるわけです。

 様々な業界でスタートアップ企業がもてはやされていますが、製造業においては、強力なスタートアップ企業が、なかなか生まれていないのが実情です。製造業の場合、機械や設備などに大きな初期投資を伴うからではないでしょうか。しかしデジタル技術でつながった企業によるものづくりの仕組みを利用して他社と連携することで、少ない投資で必要な生産システムを構築できます。そうなれば新規参入のハードルは下がり、ベンチャーの台頭も進むと思います。

(撮影:栗原克己)

共通の接続仕様は国プロで実装段階へ

――つながる時代の製造業を支える仕組みの実現を、ベンダーに中立的な立場で目指してこられたのがIVIです。IVIを立ち上げた西岡先生が、最終的な目標として掲げているものは何なのでしょうか。

西岡氏 デジタル技術はあらゆる業界で産業構造を変えてきました。AmazonはITで小売業を変え、GoogleはITでマーケティングを変えました。それぞれの仕組みは業界のメガプラットフォームになっています。私は新しい製造業のメガプラットフォームは、日本から生み出したいと思っています。

 また若い世代が製造業に興味を持ってくれないという事実は、少子化と相まって業界にとってさらに深刻な問題となっていますが、データを軸に製造業が変われば、製造業を目指す若い人たちが増えるのではないかと思っています。例えば工場をフランチャイズのように多数展開し、それらをデジタルで結んで一括して管理するといった新しいビジネス・モデルが考えられています。こうした仕組みが実現すると、製造業の中核を担う人の仕事は、データを扱う科学者のようになるでしょう。ひょっとしたらその時の工場管理者は、科学者のように白衣を着てるかもしれません。

 製造業というと様々な機械が並ぶ中で人や機械がせわしなく動いている現場をイメージする方が多いと思いますが、データが製造業の進化のドライバの役割を担うという認識が広がれば、そのイメージは大きく変わるでしょう。

――IVIとしてその構想を、どのように具体化していく方針ですか。

西岡氏 IVIは工場と工場を接続する仕組みの仕様策定を進めています。郵便に例えるなら、個々の企業が取り組んでいる工場内のつなぎ方は国内郵便で、IVIが作っているのは国際郵便の仕様です。仕様はまとまり、実際に動かした実績もできているのですが、まだコスト的に見合わないところに課題が残っています。IVIの会員は製造業が中心ですが、今後はITベンダーも巻き込んでいかなければならないと考えています。今、その仕掛けを作っているところです。

 具体的な接続仕様として、今年3月に「Connected Industries Open Framework」 (CIOF)を公開しました。IVIの業務シナリオワーキンググループで仕様を固めたもので、共通のAPIの定義などを行っています。今後は実装するフェーズへと作業を進める方針です。CIOFに関する活動は国の研究開発プロジェクトとして進めたいと思っており、現在申請中です。

 実装の局面では、大手よりもむしろ中小の製造業の皆さんの取り組みに期待しています。大手製造業は短期思考になりつつあり、時間をかけて業界全体の大きな仕組みを作るような活動には、少し及び腰になりかかっているからです。その点、中小製造業の皆さんは、必要性を認識して積極的に取り組んでくれています。工場同士をつなぐ、新しいものづくりを実現するプロセスをリードするのは、中小企業が担うことになるのかもしれません。

(撮影:栗原克己)