ICTは“飛び道具”

―― 加飾や機能加飾の場合、金型を製造する時に使う加工装置を制御するプログラムは、かなり複雑になるはずです。そのようなプログラムを開発できる中小企業は、まだそれほど多くはないと思います。IBUKIでは、ICT(情報通信技術)の強化に、かなり力を入れているのでしょうか。

(撮影:栗原克己)

松本氏 会社の規模にかかわらず、ICTは積極的に活用すべきです。IBUKIでは、企業の競争力を高めるために積極的にICTを活用しています。また会社を次のステージに進めるための新規事業創出は重要な課題ですが、それを実現するための“飛び道具”としてもICTを重視しています。こうした私たちが創り出した事例の1つが、時間をかけて蓄積してきた現場のノウハウとAI(人工知能)を組み合わせて実現した「工具摩耗判定システム」です。

AIを利用した工具摩耗判定システム
左:測定部 右:表示部 (撮影:栗原克己)

 金型加工に使う工具は摩耗が避けられません。摩耗が進むと加工精度が低下するため、寿命を迎えるまでの間も、摩耗がある程度進んだところで工具を再研磨して形を整える必要があります。この再研磨のタイミングは、ノウハウを身に着けた熟練の技術者でないと判断できません。ただし、これができる技術者を確保するが難しいのが現状です。そこで、この作業をAIと画像認識の技術を利用して自動化することを考えました。

 あらかじめ多数の摩耗パターンを記録した画像ライブラリを構築し、これをもとに学習させたAIを使って、検査対象の工具を撮影した画像から再研磨の要否を判定します。このようなAIを使った判定システムに加えて、使用済みの工具を検査カメラの前に置いたり、判定後の工具を仕分けしたりする一連の作業もロボットを使って自動化しました。4カ月で開発して、今年4月から運用を始めたところです。グループ会社で、AIを手掛けるLIGHTzと共同で開発しました。

工具摩耗判定システムの構成
(図提供:IBUKI)

 樹脂を成形する金型内部の状態をセンサーで計測し、最適な成形パラメータを効率よく探る「IoT金型」のシステムも、自社のノウハウにICTを掛け合わせて実現したものです。

「IoT金型」を実装したプレス機
左:プレス機の外観 右:指さしているところがセンサーの1つ (撮影:栗原克己) 

 プレス機では同じ製品を同じパラメータで作っても、周囲の環境や機械の状態などによって仕上がりが変わります。このため熟練技術者が、勘と経験をもとに臨機応変に現場でパラメータを調整することで品質を維持してきましたが、加工時の金型の温度やプレスの圧力、樹脂の流速など様々なデータを実際の加工プロセスからリアルタイムで取得し、これをAIやCAE(Computer Aided Engineering)システムを利用して解析すれば、熟練技術者の暗黙知をデータ化できるはずです。これを実践するために開発したのが、金型にセンサーを実装して加工時に様々なデータを取得できるようにした「IoT金型」です。すでに試作ラインに組み込み、AIを使って成形条件を自動調整するシステムの開発を進めているところです。

IoT金型のシステム構成
(図提供:IBUKI)

緩くつながってバーチャルな“大企業”に

―― 最近、製造業の生産性向上を目的としたICT活用の事例が数多く発表されていますが、生産性向上にとどまらないICTの使い方があるというわけですね。

松本氏 従来の技術の延長だけでは革新的なソリューションに、なかなかたどり着けません。ICTを融合することで新たな価値が生まれる可能性がグッと高まります。

 さらに新しい価値を創出するために欠かせないのが「構想力」です。社会の困りごとや課題といった観点と、人の欲求や欲望といった生物的な観点の交点に、自社が持つ強みが加わるとビジネスチャンスが生まれます。ここを起点に、ゴールを設定し、そこに到達するプロセスや戦略をあらかじめ描くことが重要です。

 この構想を描く際に、自社のリソースだけで考える必要はありません。様々な分野の企業とフォーメーションを組んで、技術領域を広げるべきです。早い話が「オープンイノベーション」ですね。いろんな会社を巻き込んで、相互が緩くつながったバーチャルな“大企業”を作ることができれば、開発力や競争力が高まるでしょう。つまり「1+1+1」が「3」ではなく「3以上」なるフォーメーションを編み出すことが構想の重要なポイントになります。複数の企業がそれぞれ持っている得意な技術を融合することで、他社の追随が難しくなるのもオープン・イノベーションの利点です。1社でできたことは、競合他社にすぐに追いつかれる可能性が高いです。

(撮影:栗原克己)

 強力な構想を立てるうえで注目しているのが、スタートアップ企業です。スタートアップ企業は、素晴らしい着眼点と高い志。さらにそれらを実現するためのカギとなる技術を持っています。それぞれ優れた商品企画、実現に向けたプロジェクトをけん引するリーダーシップ、イノベーションをもたらすものですが、いずれも私たちのような中小企業が弱いところです。一方でスタートアップ企業の多くは、量産に必要な設備や、品質管理や価格設定のスキームやノウハウを持っていません。その部分は、私たちのようなものづくりの企業が力を貸せばお互いが補完できる関係になります。

「中小だから」は言い訳

―― 実際にIBUKIは、いろいろな会社を巻き込んで新しいプロジェクトを展開していますが、これはコンサルタントとして多くの企業とかかわってきた松本さんだから実現できたことのようにも思えます。他の中小企業には難しいということはないのでしょうか。

松本氏 他の会社の方に、そう言われることがあります。その時は、「だったら、私を使って新しいビジネス始めればいいじゃないですか」と返しています。ただ、中小だから他社とのコラボレーションが難しいというのは言い訳に聞こえます。

 コラボレーションに消極的な企業やコラボレーションがうまくいかないという企業の経営者の多くは、自社が有利なポジションに立てるかどうかを気にしているように思います。つまり、価値軸で議論せずにメンツを軸に相手と議論しているのではないでしょうか。私は企業が連携するうえで、メンツ、規模、会社の歴史もあまり重要ではないと思っています。大事なのは、勝つための価値を一緒に生み出せるかどうかです。そのためのビジョンが共有できたならば、レベニューシェアのモデルを決めておけばよいだけです。中小製造業に追い風が吹き始めた今は、下請けのポジションから脱却し、世界で活躍する企業を目指して事業を発展させる絶好の機会です。こうした大きなチャンスを早く生かすことの方が重要だと思います。

(撮影:栗原克己)