独立行政法人中小企業基盤整備機構は2020年12月1~18日、中小企業のビジネスマッチングイベント「新価値創造展2020」を、オンラインで開催する。中小企業の意欲的かつ革新的な取り組み、技術、商材を一覧できるこの企画のハイライトの1つが、ローランド・ベルガー シニアアドバイザーで、ファクトリーサイエンティスト協会理事も務める、きづきアーキテクト代表取締役の長島聡氏が登場する基調講演である。「手触りのあるデジタル化と新価値創造 ~ファクトリーを科学する~」と題した講演に先駆けて同氏に、講演テーマの前提となる中小企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)について聞いた(特別広報企画)。

長島聡氏
きづきアーキテクト 代表取締役
ローランド・ベルガー シニアアドバイザー
ファクトリーサイエンティスト協会 理事

 コロナ禍で人の動きが制約される中、製造業は機械の遠隔監視などに関心を持つようになりました。そういう意味でコロナ禍は、DXを推し進めることになったかもしれません。しかしDXの本来の目的は、ビジネス全体を俯瞰し組み替えて、デジタルを活用した新しい現場を作ることのはずです。遠隔監視など個別の手法にとどまる現在は、DXを“味見”している段階に過ぎません。

 本格的にDXを進めるならば、最初に必要なのはデジタルに興味を持った「仲間を作る」ことではないでしょうか。新しいデジタルな現場のアイデアをたたき台としてまとめ、それを掲げて興味を持つ人を集めるというアプローチです。集まった仲間で意見を交わしながらアイデアをブラッシュアップし、デジタルを使った現場の姿を具体化していくわけです。

 仲間作りで重要なことは、企業単位ではなく個人単位で集めることです。最終的にアイデアを共同で事業化する段階では企業単位になるかもしれませんが、最初から企業単位では個々の人が持つ特技が活かせません。未来を作りたいなら、企業など肩書きにとらわれることなく、さまざまな得意技を持つ人を集めて、企業単位では見つからなかった多様な能力を取り込んでいくべきです。

 製造業では、そうした活動になかなか時間を割くことができないという声は少なくありません。現場では手を動かしてものを作ることに忙しく、新しいアイデアを考える暇がなかなかないからです。したがって、日々の生産活動を維持しながら、アイデア創出に使える時間を捻出していくことが求められます。デジタル技術を使って、人がしなくても良い作業から少しずつ解放できれば、空いたリソースを社外との仲間作りやアイデア創出に充てられるようになるわけです。

おもしろいことには周りが寄ってくる

 ものづくりのデジタル化にはさまざまなソリューションが展開されています。「スマートファクトリー」という言葉でデジタル化した工場の全体像を示すところもあります。しかしそうしたソリューションは、大企業はともかく中小の製造業にとってはオーバースペックなものがほとんどです。中小製造業がデジタル活用を志向するなら、ベンダーが広げるイメージにとらわれず、何をやりたいのかを考えてから道具を選ぶという基本に立ち返るべきでしょう。

 最初はトライアルでもいいので、ちょっとしたデジタル化から取り組むのがいいかと思います。機械にセンサをつけてデータを取ってみるだけでも構いません。それだけで人を機械に張り付けなくても済むという効果を実感できるはずです。

 それ以上に期待できるのが、周りへの波及効果です。いつもと違うことを現場で始めると、周りから「何かおもしろいことが始まったぞ」と首を突っ込んでくる人はいるはずです。そういう人も巻き込んでいけば、デジタル化に弾みがつくでしょう。私が理事として参画しているファクトリーサイエンティスト協会では、その起点となる人の育成に取り組んでいます。

各社の強みを見える化し組み合わせる

 デジタル活用で社内リソースに余裕ができれば、社外の人と交わる余裕ができます。交流をきっかけに会社同士の交流に発展し、それが広がれば、これまでにない様々な能力と触れ合うことができます。各社の強みをまとめたデータベースを作るのもおもしろいかもしれません。強みを検索して、組み合わせて新しいもの、おもしろいものを作ることも可能になるでしょう。コロナ禍ではマスクやフェイスシールドなどの需要が急増しましたが、各社の強みを見える化したデータベースがあれば、そうしたものを作るのに必要な強みを持つ企業が連携し、生産システムを垂直立ち上げすることができます。垂直立ち上げなので現金化も早く、需要がなくなればすぐに連携を解消できる自由度があるのも、この仕組みの利点です。

 尖ってフットワークの軽い中小製造業には、大手の製造業もネットワークを欲しています。それも調達部門に限らず、あらゆる部門が中小製造業との直接的なコネクションを持ちたがっているのです。仲間をたくさん集め、得意技をデータベースにどんどん載せていく。それらを広く流通させることで、今までの凝り固まった関係を解き、新しいデジタルなネットワークを築くことが、中小製造業ひいては日本全体を元気にできる有効な手段だと考えています(談)。