東芝は現実世界のデータ収集で有利

――日本には世界に通用するプラットフォーマーはいません。東芝は現実世界のデータを基にしたプラットフォーマーになれるのでしょうか。

島田氏 なれると思います。理由は簡単で、プラットフォーム・ビジネスを生み出す素地となる有力な顧客基盤を日本市場で持っているからです。ビジネスとして成立する数の顧客を得るには、Google、Facebook、Amazonでさえ、長い年月を要しました。

 日本でプラットフォーマーになれないのなら、海外でもなれません。日本の顧客をベースに、日本にしか適用できない部分を削ぎ落し、残った仕組みを標準化すれば、世界中どこでも通用するのではないでしょうか。今までの日本企業は逆のことをしていました。日本で成功した仕組みの上に、海外固有の機能をどんどん上乗せしていって、一貫性のない収拾不能なビジネスにしてしまっていたのだと思います。

(撮影:栗原克己)

――現実世界のデータの収集や活用において、生かせる東芝の強みは。

島田氏 市場で高いシェアを誇る東芝テックのPOS(Point of Sales)システムを通じて扱う消費者の購買データが最たる例だと考えています。POSシステムのビジネスは、日々使い続けてくれるデイリー・アクティブ・ユーザーが多い、極めて良質なビジネスだと思います。この領域のデイリー・アクティブ・ユーザーを活用する仕組みを作れば、プラットフォームとして広く浸透させることができるでしょう。

 PayPayやLINE Payなど、決済の仕組みを通じて消費者の購買データを集め始める動きが活発化しています。ただし、こうした新しい決済の仕組みを使ったとしても、購買データはすべてPOSシステムで扱うことになります。POSシステムを押さえている東芝は、価値のあるデータを手中にできる可能性を秘めた有利な立ち位置にいるといえます。

 POS以外にも、電力などインフラ系や街の施設、ビルの管理、さらにはヘルスケアの領域でも良質な顧客を保有していると思っています。これらの領域からは得難いデータが出てくることは確かですから、どのような方法でマネタイズできるかが重要になってきます。

――なるほど、POSシステムは現実世界の人の購買行動やそれに伴うモノの動きをつぶさに把握できます。ただし、これまでも東芝は、そうしたデータを得られる立場にいたのだと思います。収集したデータを価値あるビジネスの創出に活用するためには、何を変えなければならないのでしょうか。

島田氏 東芝の中には、様々な製品やサービスを提供している事業部門があります。ところがサービスを商品とするDXを推し進めるためには、他社製の製品で得たデータも活用できるようにした方が、顧客にとってのメリットが高まることでしょう。しかし、自社製品を販売してきた事業部門からすれば、「なぜ好き好んで、自社製品と競合する安価な製品に利するようなことをするのか」といった意見が出てきます。ある意味当然の意見ですが、ここに折り合いをつけないと、DXによって会社全体の利益を最大化することはできません。顧客にとってのメリットの提供が、結局は東芝の利益につながると考えるべきでしょう。

(撮影:栗原克己)

全体の利益を追求

――会社全体の利益を最大化させるために、どのようなビジネスモデルが必要ですか。

島田氏 個々の機器やサービスを提供するビジネスとプラットフォームから生まれる価値を提供するビジネス、それぞれの顧客をズラすことが重要になります。料金を取らずに顧客を集める事業領域と収益を上げる事業領域を分離することを前提にプラットフォーム化し、全体のビジネスモデルを描きます。これは、地図情報やAndroidなどを無料で配って人のデータを集め、それを解析・活用したサービスの提供で莫大な利益を得るGoogleのビジネスモデルです。

 東芝には、多くのビルで人を運ぶエレベーターのビジネスを行っています。ここでは、エレベーターそのものの販売やそれを管理するサービス提供などと、そこから得られるデータを活用するプラットフォーム・ビジネスの顧客を分離して定義し、ビジネスモデルを描いてもよいのではと考えています。もちろん、他社製エレベーターをプラットフォームに組み込めるようにした方がよいでしょう。

 ただしその一方で、やみくもにプラットフォーム化を目的化してはいけないとも考えています。会社全体の利益向上につながらないのならば、プラットフォーム化を無理に進める必要はありません。例えば、現状のプリンターのビジネスは、本体とインクカートリッジをクローズな仕様で対応させるビジネスモデルを取っています。これを無理にオープン化しても、ニーズが高まることもなく、プリンタービジネスの利益を向上させることもできないのではないでしょうか。

現場を見つめなおすことこそが原点

――しかし、機器や設備、管理サービスなどを提供している既存ビジネスと折り合いをつけることは簡単ではないと思います。何か策はあるのでしょうか。

島田氏 会社全体の利益の最大化を追求するビジネスモデルを取るためには、縦割り組織の壁を取り払う必要があります。そして、顧客が製品やサービスを使う現場では、本当は何が必要とされ、何にお金を払ってもらえるのか。各部署の人たちが、実感できている必要があります。東芝では、こうした顧客視点に触れ、現場を知る取り組みが既に始まっており、成果が出てきています。

 そのための取り組みの1つが「みんなのデザイン」です。設計者とデザイナーがそれぞれ個別にベストを尽くしても、最終的に出来上がる製品の価値が高まるとは限りません。スペック上の機能や性能がいかに優れていても、それを現場で使う人が違和感を覚えたり、愛着を感じなかったりする製品ではすべて台無しです。「みんなのデザイン」は、設計者とデザイナーが一緒に現場に出向いて、そこで必要とされる製品のデザインを一緒に考えるというものです。既に、こうしてデザインされた水素ステーションや、見た目もかっこよく現場に取り付けて使いやすい水道メーターの読み取り装置などが「グッドデザイン賞」を受賞しています。現場を見て、設計者もデザイナーもそこで求められていることを基に論理的にあるべき姿を追い求めるからこそ、よい製品になるのだと思います。

――利害がぶつかる者同士が、共に顧客が製品やサービスを活用する現場に触れるというのはよい案ですね。部門ごとに立場や価値観の違いがあっても、顧客には逆らいようがありません。

島田氏 私は、こうした取り組みを拡大して、「みんなのDX」という活動を推進していきたいと考えています。社内のあらゆる部署の人たち全員がDXを考えるようになれば、自らの部署の利益を上げることに汲々とすることもなくなると思います。社内で、各事業にワークショップを設けて、事業のトップ以下社員全員がDXやDEについて考え、多角的な見地からアイデアを出して、イノベーションを量産できるようにしていきたいのです。東芝の人たちの潜在能力は極めて高く、既に多くのアイデアが出てきています。その中で優先順位などを精査して、半年後にはDXに関する何らかの具体的な取り組みにメドを付けたいと考えています。

――会社内の組織やガバナンスの改編も視野に入れているのでしょうか。

島田氏 はい。ただし、組織を先に変えてしまう方法には反対です。すべきことと目的を明確にすることをまず優先させたいと考えています。ここが定まらない限り、新しい組織を作っても意味がありません。何より、社員全体にプラットフォーマーを目指す意識付けを徹底して、そのうえで最適な組織を考える必要があると思います。

(撮影:栗原克己)