「言葉よりも実行」で人はついてくる

―― 医師からアプリ開発ベンチャーの経営者になって、人材集めはどのように工夫しましたか?

佐竹 私自身はコードが書けないのですが、幸い、大学の後輩の鈴木晋が医師でありながら学生時代からプログラミングをやっていたので、彼を共同創業者に迎えました。

 当社の治療用アプリは、単なるソフトウエア開発とは違って、医師の思考回路を一つひとつ解きほぐしてアルゴリズム化しているところが技術的な特徴です。鈴木が加わってくれたからこそ、実現できたことだと思います。

 勧誘してすぐにいい返事がもらえたわけではないですが、当社の事業が進むにつれて、意義を感じ取ってくれたようです。研究者としてのキャリアを歩むはずが、気づいたらベンチャーに入っていたなんて、彼にしたらだまされたような気分かもしれません(笑)。

―― 何か決定打になるような言葉はありましたか?

佐竹 そういったものはありません。ベンチャーは、言葉よりも実行すべきことを実行して、その姿を見せることで人がついてくるんじゃないかと思います。かっこいいことを言うよりも愚直にやって、やり進めると、その方が説得力や求心力を持つんだろうと思います。

(写真:鈴木愛子)
(写真:鈴木愛子)
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―― 社内では、ビジョンに関して話し合うような習慣がありますか?

佐竹 会社のバリューを話すような機会はありますね。ミッション、ビジョンは、全社会議などで私から話すことはあるので、かなり浸透しているかと思います。

―― 自立したメンバーを会社に招き入れるための工夫はしていますか?

佐竹 採用手法は、本当に泥臭いですよ。地道にスカウトを送り、地道に(採用候補者に)会わせてもらって勧誘して――。そういうことの積み重ねです。

―― スキルはもちろん必要だと思いますが、どんな人物を採用したいと思っていますか。

佐竹 自分で考えを持って動ける人、当社のミッションに共感してプロアクティブに自分から動き出せるような人という基準で勧誘しています。個人的には、ポジティブシンキングであることを大事にしています。ベンチャーって事件ばかり起きるというか、事件しか起きないものです(笑)。それに対して常に前向きに考える姿勢が大事だと思っています。

―― 佐竹さんご自身も、日頃からポジティブシンキングな方だとお聞きしています。

佐竹 そうですね。会社では「なんで、いつもあんなに前向きなんだ」と思われているようです(笑)。

―― 起業前も含め、不安で追いつめられたり、余裕なくピリピリしたりしたことはありませんか?

佐竹 ありますよ。MBA留学受験のとき、私は普通の人の何倍も時間がかかりました。英語が得意じゃないけど海外に出たいので、英語力判定テストに何度も挑戦したんです。TOEFLなんかは何十回も受けました。1回の受験料が3万円ほどで、例えばそれを50回受けるとすると100万円単位の出費です。当時は20代ですから、食費を削って受験しました。英語ができる人は2~3回も受ければ合格する(希望の留学先の基準点に達する)ものを、毎週末、早起きして4時間テストを受けてダメで、3万円が消えるし休日もつぶれるという、その繰り返しで…。あれはつらかったです。

 10回目ぐらいで「これは絶対無理だ」と思ったんですが、諦めるべきかの葛藤を経て、意志として「受験し続ける」ということを決めました。50回受けてダメだったら100回受けたでしょうね。最終的には何とかぎりぎりゴールの得点に達しました。でも、この経験のおかげで、新しい価値観を自分の中で醸成することができた気がしました。それは、勝てるか勝てないか分からないようなときに、勝ち筋が少しでもあるのなら迷わず勝ちを目指すという考え方が身に着いたかもしれません。かっこ悪いのであまり記事に書いてもらいたくないですが(笑)、価値観が変わるような体験ではありました。