組織の意思統一を図るには、トップのフォローが不可欠

―― リーダーが「方向」と「理念」を打ち出したうえで、プロジェクトを実際に動かすには組織も重要です。「組織」については、どんなお考えをお持ちですか。

川淵 1人の掛け声だけで世の中は動かないからね。やっぱり、組織というものがしっかりしていないと。その中で、機関車役というのか、そういう人が組織にいると、やっぱり世間に対する発信力が違うよね。僕の存在価値というのは、そういうところだと思う。

―― 確かに、並外れた発信力ですよね。

川淵 いやいや(笑)。まあそれなりの役割を果たせたかなとは思うけどね。

 でもやっぱり、僕が目標に向かって「みんなでこういうふうにして行こう」と言っても、その考え方に沿って意思統一ができていないと、物事はちゃんと動かないよね。JリーグでもBリーグもそうだけど、僕が具体的に「こうしよう」ということに落とし込んだら、それを具現化してくれる人は絶対必要になってくる。そういう組織の形というのは、改革において最も大事だと思うね。

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(写真:4点とも加藤康)

―― 意思統一は、実際にはすごく難しいですよね。

川淵 そうだね。やっぱりあとはフォローをどうしていくかだよね。

―― フォロー、ですか?

川淵 例えば始めにサッカーのプロリーグをつくるときには、広報や選手の育成といったいくつもの委員会をつくった。僕は、それぞれの委員会がどんなふうに進んでいるかを全部インプットして、指示を出していた。やっぱりトップの考え方に現場が理解を示さないと、ミスリードする可能性があるからね。

 これは1つの例なんだけど、米国の自動車メーカーが「川淵さんに車を提供したい」と言ってきたことがあったんだよね。そうしたら、専務理事だか常務理事だかが、「Jリーグのクラブの親会社に自動車メーカーが多いのに、チェアマンが、そうした会社を差し置いて米国車に乗るのはおかしい」ということで、僕の許可を得ずに断ってしまった。でもそれを後から聞いて、「クラブの出資会社ではない外国車のほうが支障がない」と思ったんだよね。その辺の判断が全然違う。

 「もう伝えたんだから」ということでほったらかしにして、現場が何をしているかさっぱり分からないという状態はよくないと思うよ。幹部は「川淵さんが言っていた」という口上を安易に使うんだよね。そう言ったほうが楽だから。だから、そういうところも常にフォローしておかないと。

―― フォローするために、どうしていますか。

川淵 僕のところには、「こういう話がありましたよ」とか、そんな話がたくさんインプットされるんだけど、それを総合判断して――。でも、その情報も常に正しいかどうか分からない。特に悪口雑言の場合には、それを安易に受け取ることは絶対になかったな。

 逆に「おまえのことを、あいつはこう言ってたよ」といったようなことも、僕は一切言ったことがない。そういう言い方をすると情報が入ってこなくなる。愚の骨頂だよ。

 人の悪口を聞くと、(悪口の対象となっている)その人が全部悪いように感じてしまいがちだけど、そのあたりについては、僕は割合冷静だね。間接的なところで情報を収集できるような人を、いかに数多く身辺に置いておくかということを心掛けている。とにかく、情報が一番大事だよね。