アリーナの建設・運営で“機能”を超えた価値をつくる

(写真:鈴木愛子)
[画像のクリックで拡大表示]

――横浜のみなとみらい地区にオープン予定の「ぴあアリーナMM」*2に関していえば、どんな動機があったのですか。一企業が1万人規模のアリーナを自前でつくって運営していくというのは、国内ではおそらくこれまでに例のない取り組みです。

矢内 私は、興行ビジネスといいますか、エンタテインメント・ビジネスが成立するために必要な要素は4つあると思っています。

 まずはいいコンテンツがなければ始まらないわけですよね。次に、そのチケットを流通させる、売っていくという要素も必要になるわけです。そして、興行が実現するためには“小屋”、つまり場所が必要になります。さらに、プロモーションをするメディアが欲しい。大きく言うと、コンテンツ・流通・場所・メディアという4つの要素が必要なわけです。

 今、我々は興行をつくるということもどんどんやっています。チケット流通はずいぶん前からやってきました。メディアは、雑誌「ぴあ」を休刊したので一旦なくなりましたが、スマホアプリ版の「ぴあ」として2018年11月に復活しました。1年で100万ダウンロードと、順調に進んできています。

 あとは、“小屋”がない。我々にとって、“小屋”は埋めなければいけない最後の1ピースだったわけです。これがようやくスタートできるということになります。

――アリーナはいつごろから必要だと思っていましたか。創業したときからそう思っていたのでしょうか。

矢内 思っていましたね。

――2020年は、ぴあ創業から48年目です。ずいぶん時間が掛かりました。

矢内 自己資金でやろうと考えていましたから、当然のことながら、資金的な余力が出てこないとできないですよね。一方で、2020年の東京オリンピック・パラリンピック大会が近づいてきて、劇場、ホールの建て替えや改修工事で小屋が足りなくなってきていた。こうした時代背景も、自前でアリーナを持つタイミングとして悪くないという判断でした。


注)

*2 「ぴあアリーナMM」の概要
音響、照明、客席、機材搬入口など、すべてを音楽専用としてつくり込んだアリーナ。2020年4月25日に地元・横浜出身の「ゆず」がこけら落とし公演を行う予定だったが延期となっている。
▼計画地:神奈川県横浜市西区みなとみらい3-2(38街区)▼規模:地下1階、地上4階▼敷地面積:1万2000m2▼延べ面積:2万3139.81m2▼構造:鉄筋コンクリート造 一部鉄骨造▼収容人数:着席時 約1万人、立見時 約 1万2000 人▼公式サイト: https://pia-arena-mm.jp/

「ぴあアリーナMM」外観イメージ(資料:ぴあ)
[画像のクリックで拡大表示]

――ライブ・エンタテインメントのプラットフォーマーとして、4要素(コンテンツ・流通・場所・メディア)のすべてが自社でそろいましたね。この分野に、例えばGAFAのようなグローバルなプラットフォーム企業が競合として進出してくるとお考えですか。

矢内 機能性の競争、使い勝手の競争は、これからもIT技術の進歩とともにずっと続くと思っています。ビジネスというのは、何か新しいことをやっても、その後を追い掛けてくるところが出てくるのが常ですからね。

 ですから、どこが競合になるにしても、さらにまた先を行けばいいと思っています。ただ、そこだけにとどまらず、さらにその次は情緒性が必要になってくると僕は思っているんです。

――情緒性について、もう少し詳しくお聞かせください。

矢内 エンタテインメントや文化が人生を豊かにする――。そういう考え方をする社会を、我々は望ましいと思っているわけです。ただ、その社会は機能性だけではやっぱり到達できません。

 我々の今のビジネスは、いわば、文化を消費してビジネスにしているんです。でも、だからこそ、消費だけではなく、新しい文化をつくるということも必要です。若い映画作家の才能を発掘するための自主映画コンペティション「ぴあフィルムフェスティバル(PFF)*3」では、そういうことを何十年もやってきました。「消費だけじゃなくて創造もしますよ」という人が増えていく。その大切さがもっとちゃんと理解されていく時代が来るんじゃないか。僕はそう思っています。

影響を受けた本はピーター・ドラッカー氏『マネジメント』。映画関係の本としては、高井英幸氏(元東宝社長)の『映画館へは、麻布十番から都電に乗って』がオススメだと話す(イラスト:宮沢洋)
[画像のクリックで拡大表示]

 我々は「バリューチェーン」という言葉を使っているのですが、アリーナも持てるようになりましたので、エンタテインメントの4要素(コンテンツ・流通・場所・メディア)をつないでいって、機能性に情緒性を加えて、ある種の世界観をきちんとつくっていこうと思っています。それぞれのバリューがチェーンのようにつながり合うことによって、今までできなかった新しいことがいろいろできるようになってくるはずだと思っています。まだ詳しくはお話できないので抽象的かもしれませんが…。


注)

*3 ぴあフィルムフェスティバル(PFF)
「映画の新しい才能の発見と育成」をテーマに1977年12月に「第1回自主製作映画展」として開催(「ぴあフィルムフェスティバル」という名称は81年から)。2017年4月に運営母体として一般社団法人化。「PFF(ぴあフィルムフェスティバル)」を設立。