新しいことを切り開いていく、起業家精神を持った人間を育てたい

――「高専」のどこに魅力を感じたのでしょうか。もう少し詳しく教えてください。

大南 高校だと3年間通って、それから大学入試があるわけです。その時に「理系にしようか文系にしようか」といった形で進路を決めていくわけですが、(子どもが自分の進路を念頭においた上での教育のスタートが)15歳か18歳かということには、非常に大きな差があると思っています。やっぱり頭の柔軟さということでは若いほど有利ですから。

 それに、中学校卒業時点で、ある程度自分のやりたいことが明確になってきている子もいると思うんです。そういう子どもたちが、高校3年間で普通科の勉強をしながら改めて18歳で進路を決めるというのは、ある意味もったいないと言うか、時間の浪費でもあるかなと思います。

 だからそういう子どもたち、例えば世界の人を驚かすようなゲームをすぐにでもつくりたいという子がいるなら、その実践ができるような場を用意する。逆に、何をやっていいか分からないという子も当然いるはずですが、そういう子たちにとっては、周りの人たち見聞きすることによってヒントを得ることができる。この高専では、「これをやろう!」と決められる子どもが出てくれば最終的にはいいのかなと思っています。

(写真:千葉 大輔)
(写真:千葉 大輔)
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――町に足りないパーツと、寺田さんや大南さんの思いを合わせたら、それが「高専」だったというわけですね。ここではどんな教育を目指していきますか。

大南 僕らは「次世代型高専」と呼んでいるのですが、高専の枠組みを使いながら、起業家精神を持った人間を育てるような教育をしていきたいと思っています。それを15歳から始めることができれば、日本の高等教育に変化を生み出せるのではないかという意識はありますね。

 これは僕のイメージですが、これまでの高専は製造部門の現場のトップになるような人間を育てようという意識があったのではないかと思います。そして、高専はその機能をうまく担ってきたと思うんです。一方で、人が使いたくなるようなデザインであるとか、そういった面の教育との融合がもっとあってよいのではないかと思ったんです。

 これからつくる高専では、強みであるテクノロジーと同時に、デザインやデザイン思考なども一緒に学べるようにしていきます。それがある子どもたちは起業という形に開花していってもいいし、もっと学びを深めたい子は大学に編入をしてもいい。もちろん、すぐに現場で働きたい子は、現場で働ける力を持てるようにしていく。起業家を育てるのではなくて、起業家精神を持った人間を育てていく。それができれば、いろいろな面で新しいことを切り開いていく子どもたちが育っていくのではないかと思っています。

――高専と言いつつも、その中身は再定義しようとしているわけですね。

大南 文部科学省の設置基準をクリアする中で、「あそこまでやれるんだ」というモデルを提示することができれば、これまで行動を制御してきた思考の枠や固定観念が崩れ、学校としての可能性を拡げられると思うんですね。そうした動きを先駆する役割を期待されている意識はありますね。

――企業版ふるさと納税を活用した資金調達の手法*3も、注目を集めています。

大南 2019年の12月から、個人版ふるさと納税の中で教育応援事業という枠組みを神山町につくってもらいました。そこを通してのお金を高専の設立にも使えるような形になっているんですね。今年からは、日本で初めて、学校設立のために企業版ふるさと納税を受けられるようになりました。

 今ある仕組みを最大限に活用するとともに、新たな公民連携の形が作られ、そこから調達された資金を投入することによって高専ができるということになれば、プロセス自体がすごいクリエーティブですよね。もちろん、最初から開設資金が十分あればそれで間に合うわけですが、不足しているからこそ、当然苦労も多いけど、新しい何かが生み出せるんですよね。


――高専をつくることによって、若手人材が地域に残ってくれる、神山の人口減少に歯止めがかかるといった期待はありますか。

大南 おそらく町の人たちはそれを期待していると思います。けれど、もしそうなったとしても、それはあくまでも「結果として」ということだと僕は思っています。例えば「地方創生を目的にこの学校をつくります」と言ってしまうと、とにかく最初から「地域貢献のために」という枠の中での議論になってしまい、広がりを持たなくなってしまいますよね。

 地方創生は究極の目的の一つではありますが、あまりそこに絞り込みすぎると、「現時点で何か役に立つのか」「何がプラスになるのか」みたいな方向に結局すぐに行ってしまう。これだけ世の中の先が見えない時代なのに、その時々の現実解ばかり追い求めていたら、絶対に時代から放り出されてしまいます。ですから、地域貢献についての意識は常に持ちながらも、そこに向けての目標は、あえてぼんやりとしたままでいいと思っています。

――変化し続ける余地を残しておく、ということですね。

大南 僕のすべての物事に対するモチベーションは、「変化の向こうにある変化をのぞいてみたい」ということなんです。この向こう側には何があるのかを常に探り出したい欲求があるんですね。ですから、高専ができたら、高専のできた向こうに起きるであろう変化をのぞいてみたいんです。それが1つのモチベーションになって次の展開に進んでいく。そんなところがありますね。