「読み替えること」「自分の目で確かめること」が大事

――このコラム(Disruptive Innovators Talks ~新たな価値の創造者たち~)では、毎回皆さんにしている質問なのですが、これからベンチャー、スタートアップを目指す人、新しいことに取り組もうとしている人にメッセージをいただけますか。

大南 抽象的なことですが二つあって、まず「読み替え」をすること。これは僕自身、習慣的にずっと心掛けてやっています。例えば、昔からずっと日経(日本経済新聞)のシリコンバレー支局から送られてくる記事は漏らさず読んでいるのですが、その中で「Googleがあることを始めた」といった記事に出会ったら、必ずGoogleをグリーンバレーに読み替えたり、自分自身に読み替えてみたりするわけです。

(写真:千葉 大輔)
(写真:千葉 大輔)
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 要は、常にシミュレーションを繰り返すわけです。日々、いろいろな人が自分の前を流れ星のように通過しているものですが、その時に読み替えによるシミュレーションができていれば、自分にとって重要な人が通過した時に「あれ?この人!」ってすぐに反応ができる。「この人、自分がずっと探していた人だ」「この人がプロジェクトに入ったら絶対面白いことになる」といった感じに、必要な人と出会える確率が格段に高くなります。これは実感しています。この読み替えはトレーニングなので、誰でもやろうと思えばできます。習慣化していれば、そういう物事の捉え方っていうのはできるようになるものです。

 もう一つは、世の中にある情報とか、あるいはデータとかを鵜呑みにしないことです。必ず自分の目で確かめることが重要です。常に反芻しながら疑ってみる。「本当に当たり前のことなの?」「ほかに道はないの?」といったような自問自答を常に繰り返していますね。だから僕は人の噂にはほぼ反応しないんですよ。

インタビューを終えて
物静かな佇まいでありながら、一たび話し出すと強烈な熱量で自らの思いを分かりやすく話してくれる人――。大南さんに会うのは5年振りですが、見かけも中身も良い意味で全く変わっていませんでした。

大南さんに初めてお会いしたのは、本連載を掲載するウェブメディア「新・公民連携最前線」で、BSジャパン(現・BSテレビ東京)とのコラボ企画「まちづくりマスター」の取材で2016年夏に神山町を訪ねたときでした(関連記事)。当時も今も、大南さんのビジョンは、「シリコンバレーを神山町につくり出す」ということでした。「IT産業が集積する町をつくりたい」という意味ではありません。インタビューで語っている通り、小さなガレージで創業したヒューレット・パッカードを源流とするシリコンバレーのスピリッツを持った、起業家精神にあふれる町をつくりたい、ということです。

様々な自治体が、その町づくりの秘訣は何かと視察の要請が後を絶たない神山町。日本の地域創生のカギを握っている神山町――。しかし、神山町の活性化の立役者でありキーパーソンである大南さんは、「人が来ればよい」「賑いが創出できればよい」ということで地域創生に取り組んでいたわけではありません。

「変化の向こうにある変化をのぞいてみたい」――。大南さんの思いは明快です。まさに、変化することを楽しみ続けるシリコンバレーのスピリッツそのままに、神山町を舞台として活動してきたのです。結果として、人口わずか5000人の神山町が日本中から注目されるに至ったのです。

しっかりとしたビジョンはとても大切です。しかし、明確なビジョンはその目的がはっきりとしすぎるがゆえに、時として枷にもなり得ます。

大南さんは明確なビジョンを持ちつつも、そのビジョンをあらゆる角度から絶えずシミュレーションし、新しい可能性を探っていました。まさにシリコンバレー型のディスラプティブ・イノベーターといえるでしょう。
高橋博樹(たかはし・ひろき)
日経BP 総合研究所 戦略企画部長
高橋 博樹(たかはし ひろき) 日経BP入社後、インターネット草創期のビジネスモデルづくり、ICT、建設など幅広い分野を担当。2015年9月、日経BP総合研究所の発足と同時に戦略企画部長に就任、現職。「新・公民連携最前線」「Beyond Health」の2つのメディアを創案して立ち上げた(写真:栗原克己)