ジャンルを問わず、世の中に新しい価値を創出したDisruptive Innovator(破壊的創造者)の生の声をお伝えする新コラム「Disruptive Innovators Talks ~新たな価値の創造者たち~」。第4回は、パティシエ=菓子職人の活躍の場を大きく広げた辻󠄀口博啓氏(アーシュ・ツジグチ代表)が登場します。

辻󠄀口氏は、クープ・デュ・モンドなど国内外の数々の洋菓子コンテストで優勝経験を持ち、今も現場の第一線に立つパティシエ、ショコラティエです。様々なスタイルの菓子店を展開するだけでなく、プロデュースシェフとしてリゾート施設(アクアイグニス)の開発に関わり、スーパースイーツ製菓専門学校や国際調理専門学校のプロデュースや運営、さらに大学の開設も進めています。辻󠄀口氏は、「職人」の概念を拡張したイノベーターといえるでしょう。

辻口博啓氏
辻󠄀口博啓(つじぐち・ひろのぶ)
アーシュ・ツジグチ代表
1967年3月、石川県七尾市生まれ。和菓子屋「紅屋」の長男として生まれる。高校卒業後、都内のフランス菓子店で修業。現在、オーナーパティシエとして、モンサンクレール(自由が丘)をはじめ、コンセプトの異なる16ブランドを展開。1990年、史上最年少(23歳)で全国洋菓子技術コンクール優勝。その後、パティスリーの世界選手権「クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリー」の飴細工部門で優勝(97年)、フランス・パリで開催される「サロン・デュ・ショコラ」内で発表されるショコラ品評会では、2013年~2018年の6年連続で最高評価を獲得するなど受賞歴多数。石川県観光大使、三重県観光大使、あいちスイーツ大使、一般社団法人日本スイーツ協会代表理事、スーパースイーツ製菓専門学校校長、金沢大学非常勤講師、産業能率大学客員教授も務める(写真:鈴木 愛子)
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――辻󠄀口さんはパティシエとして成功してから後もずっとコンテストに挑戦し、賞を受賞し続けています。それだけでなく、リゾート開発、教育事業など、常に新しいことに挑み続けています。挑戦し続けるその原動力は、どこから来るのでしょうか。

辻󠄀口 やっぱり、お菓子づくりという仕事そのものが楽しい、ということですね。

 もちろん、やれること・やれないことはあるわけですが、僕は、「これはやれる」と思ったら、その「やれる」ということに関してはとことん命懸けで頑張るというシンプルな考え方で生きています。

クオリティの差=クリエーティブな部分に掛ける時間の差

――辻󠄀口さんは、ずっと好きなお菓子づくりの現場に立ち続けながら、様々なスタイルの店舗を展開し、事業そのものを大きくしてきました。お菓子職人的な部分とマネジャー的な部分は、どんなふうに両立させているのですか。

辻󠄀口 お菓子づくりというのは、奥行き75センチ、幅1メートル80センチのテーブルの上で、水とか粉とか卵とか、液状のもの、粉もの、全く形のないものから形に仕上げていくという一連の流れがあるわけです。

 ところが、同じ大きさのスペースを与えられている人間が、8時間なら8時間という同じ時間を掛けてつくり上げているにもかかわらず、お菓子のクオリティ、飴細工やチョコレート細工の美しさには、人によって限りなく大きな差が出るわけです。このことは、修行時代、18歳の頃から厨房に立って来た中で学ぶことができました。クリエーティブな部分に掛ける時間の差が、クオリティの差となって現れきているのだ、と。

 では、チームのマネジメントを考えたとき、僕はそこでどう動くべきか。僕の前にあるテーブルは僕だけのエリアですが、同じ厨房の空間には、ほかにもテーブルを持っている人たちがいる。一つのチームですよね。このチームをうまく走らせようと思ったとき、どうすべきか。

 僕は時間を有効に使うためのコミュニケーションを考えました。自分が何か取りに行くときに、ほかのテーブルにいる人に「いま材料庫へ行くけど、何か要るものある?」って声を掛ければ、その人は動かなくて済むんです。ところがこのときに、何のコミュニケーションもなく、自分の欲しい物だけを取りに行ってしまったら、5人のチームだったら5人ともが、無駄な動きをすることになるわけです。

 僕が動いたときに5人分の何かを取って来れば、動くのは僕1人で済む。誰かが何かを取りに行くのであれば、「ついでにあれを持ってきて」と頼めば自分は動かなくて済む。そういうことをしながら、無駄をなくしていくことによって、仕事のクリエーティブな部分に掛ける時間を増やしていくことができるんです。

 そういった小さなことを積み重ねて、マネジメントというものが回りだし、お菓子づくりが事業として大きくなっていった。そういうことなんだと思います。