人生を賭けて、ありとあらゆることをやる

(写真:鈴木 愛子)
[画像のクリックで拡大表示]

――すべてが「お菓子をつくる」ということにつながっているわけですね。最後に、辻󠄀口さんから、新規事業を立ち上げようとしている人たちへの応援メッセージをいただけないでしょうか。

辻󠄀口 僕自身について言えば、お菓子づくりを極めていくという経験、そのプロセスそのものが、事業を広げていくときにものすごく役に立ちました。形のないものを形にしていくこと、ゼロからイチを生み出すことって、これはもしかしたら一つのビジネスモデルをつくるのと同じことなんじゃないか。そんなふうに思っています。

 まず、自分が「これだ」「自分は人生を賭けてこれをやれるんだ」というものを早く見つけるということ。そして、それを見つけたら、やっぱり10年間はもう24時間、とにかく浸かっていれば絶対に世界は見えてくると思います。若い頃の私は、デートといえばお菓子屋さんばかりなので、何人もの女性に振られました。「つまらない」って。お菓子屋さんに行って経営者と2~3時間ずっと話をしていて、横に彼女がずっと座ってる(笑)。振られても仕方ないですよね。

――多大な犠牲を払ってきたわけですね(笑)。

辻󠄀口 それはもう、自分が「これだ」と思う仕事に就けば、ありとあらゆることをやりますよね。そのぐらいの気持ちで10年やれば、絶対に何かが見えてくると思います。

インタビューを終えて

お菓子づくりから、まちづくりにまで乗り出した辻󠄀口さん。

なぜか?

もっとおいしいお菓子をつくるため――。パティシエである辻󠄀口さんはそう考えました。

実は私自身モンサンクレール(自由が丘にある辻󠄀口さんの経営する店舗の一つ)のファンで、クリスマスケーキやプチガトーをよく購入しています。

気が付くと自由が丘一帯にロールケーキ専門店や豆のスイーツ専門店など、いつの間にか辻󠄀口さんの展開する個性豊かなお店が増えていました。

スイーツに研究熱心な人なんだと漠然と考えていましたが、今回インタビューをさせていただき、スイーツのためにスイーツの外側の世界にまで思いを馳せ、そして実現していくディスラプティブ・ノベーターだと考えを改めました。

お菓子づくりから、なぜ、まちづくりを目指したかは本文で詳しく紹介していますが、テクノロジー、教育、不動産とパティシエの領域を躊躇(ちゅうちょ)なく飛び越え、“やりたいこと”に“やりたいこと”が重なり、ついにはまちづくりにまで着手する――。

言うのは簡単ですが、そこに至るまでの苦労は想像を絶すると思います。

それなのに、お菓子作りに没頭しすぎ何人もの彼女にふられたと、軽口をたたく辻󠄀口さん。

好きなことを自由に極める、その思いは苦労を苦労とすら感じないほどの熱量を持っているのでしょう。

新規事業を生み出す原動力を、しっかりと見せていただきました。

高橋博樹(たかはし・ひろき)
日経BP 総合研究所 戦略企画部長/ソリューション・アーキテクト
高橋 博樹(たかはし ひろき) 日経BP入社後、インターネット草創期のビジネスモデルづくり、ICT、建設など幅広い分野を担当。2015年9月、日経BP総合研究所の発足と同時に戦略企画部長に就任、現職。「新・公民連携最前線」「Beyond Health」の2つのメディアを創案して立ち上げた(写真:栗原克己)