ジャンルを問わず、世の中に新しい価値を創出したDisruptive Innovator(ディスラプティブ・イノベーター:破壊的創造者)の生の声をお伝えするインタビューコラム「Disruptive Innovators Talks ~新たな価値の創造者たち~」。第6回は、生まれ育った大阪を拠点に、国内外で活躍し続ける建築家、安藤忠雄氏が登場します。

住宅機能を分断する中庭で自然と共生する住まいを実現、賛否両論を呼んだ「住吉の長屋」(1976年)、スリットから差し込む光で十字架を表現した「光の教会」(1989年)、瀬戸内海の小さな離島をアートの“聖地”として活性化させた「ベネッセアートサイト直島」の主要施設の設計(1992年~)、PPP(公民連携)による運営スキームも含めて設計した「こども本の森 中之島」(2020年)など、安藤氏は、数々のイノベーティブな空間をつくり続けています。

安藤忠雄(あんどう・ただお)
建築家
1941年大阪生まれ。独学で建築を学び、1969年安藤忠雄建築研究所設立。代表作に「光の教会」「ピューリッツァー美術館」「地中美術館」など。1979年「住吉の長屋」で日本建築学会賞、1993年日本芸術院賞、1995年プリツカー賞、2003年文化功労者、2005年国際建築家連合(UIA) ゴールドメダル、2010年ジョン・F・ケネディーセンター芸術金賞、後藤新平賞、文化勲章、2013年フランス芸術文化勲章(コマンドゥール)、2015年イタリア共和国功労勲章グランデ・ウフィチャ―レ章、2016年イサム・ノグチ賞など受賞多数。1991年ニューヨーク近代美術館、1993年パリのポンピドー・センターにて個展開催。イェール、コロンビア、ハーバード大学の客員教授歴任。1997年から東京大学教授、現在、名誉教授(写真:菅野 勝男)
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――今年7月にオープンした子供のための図書館「こども本の森 中之島」を大阪市に寄付しました。このプロジェクトについての、安藤さんの思いを聞かせてください。

安藤 建物というのは、宝石箱なんです。大事なのはその箱の中に入れる宝石、つまり人間なのです。箱それ自体の良し悪しの議論は無意味でしょう。我々がつくる建物の成功は、それがいかに人に使われていくか、いかに街に息づいていけるかにかかっているんです。

 その点、「こども本の森 中之島」ではやりがいがありましたね。利用するのは子どもたち、文字通りの「宝石」ですから。20代後半から今日までずっと仕事を続けてきて、私にも何か社会に返したい、次の世代に何か残したい思いが湧いてくるようになりました。そう考えたとき、子どものための図書施設がいいだろうと考えたのです。人間の心の成長にとって、最高の栄養は本ですから。10人の子どもが図書館に来て、そのうち2~3人にでも心に響くような本との出会いがあればいい。そうして、宝石たる子どもの輝きが増していくような場所になればな、と。

堂島川の対岸から見た「こども本の森 中之島」の外観(写真:小川重雄)
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「こども本の森 中之島」の内観(写真提供:2点とも安藤忠雄建築研究所)
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寄付の運営をあらかじめ想定

安藤 5年ほど前、大阪市の吉村(洋文)市長と大阪府の松井(一郎)知事(当時。現在は吉村氏が府知事、松井氏が市長)に、「大阪の真ん中に子どものための図書館をつくりたい」と、率直に持ちかけました。唐突で無謀な提案でしたが、2人とも果敢に「いこう」と言ってくださった。

 ただ、「敷地は準備できますが、お金はないですよ」と。それで「分かりました。設計・建設の費用は私が責任を持ちましょう」と答えたら、今度は「完成後に運営していく費用もありませんからね」と(笑)。

――ないものばかりだったわけですね(笑)。

「こども本の森 中之島」では子どもたちが思い思いの場所で本を楽しむことができる(写真提供:安藤忠雄建築研究所)
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安藤 運営費は大体年間5000万円ほど必要です。でも、1口30万円を払ってくれる企業が200社あれば6000万円集まりますよね。そう考えて、JR西日本、ヤンマー、大和ハウス工業、積水ハウス……あちこちに話をしに行きました。85社くらい、全部一人で回りましたよ。こういう話は、一人で行かないと上手くいかないんです。事前に打診することもなしに、私1人でフラッと訪ねて行って協力を頼んで、「どうですか」と(笑)。他人を自分の仕事に巻き込んでいくにはこれくらいの覚悟、気合がいるんです。

 ケチで知られる大阪人ですが、子どもたちのためというと皆さん快く応じてくれましたね。江戸の八百八橋や昭和の大阪城天守閣復興など、民の力で街をつくってきた歴史を持つ大阪人には、そういう気概はあるんです。そのほか、チャリティーパーティーの企画などもあり、最終的には施設を10年以上維持できるくらいの寄付金が集まりました*1。このお金がある限り大阪市は図書館を放り出せないですよね。そんな計算もちゃっかりとしながら(笑)、図書館づくりを進めていったわけです。


注)
*1 2020年2月25日の会見において松井一郎大阪市長は、6億4000万円(約12年分の運営費)の寄付金が集まっていることを公表した。

――大阪は安藤さんの地元でもあり、大阪のために、という思いもあったのではないかと思います。

安藤 そうですね。駆け出しの頃、学歴も人脈もなかった私を大阪の人々は普通に受け入れてくれて、チャンスをくれた。私は大阪に育てられた建築家ですから。恩返しの気持ちと同時に、私自身もまた大阪人だというプライドみたいなものもありますね。民の力で橋を架け、道路を通し、市民ホールをつくって、城を建て直してきた公共精神の遺伝子、それを受け継いでいるんだという――。

 大阪の中之島の風景には、そんな大阪人のプライドが詰まっているんです。中央公会堂、中之島図書館、東洋陶磁美術館、バラ園がある。「こども本の森 中之島」は、その島の公園の一角につくられました。

 「子どもがあちこちからやって来るときに、車道があると危ないな」と思っていたら、建物入口に面して公園を貫くように走っていた道路は、市が歩行者空間にしてくれましたね*2。吉村さんと松井さんが動いてくれたのかな。なかなか行政でここまでやるところはないですよ。「次の時代の大阪を支える子どもたちのために」という我々の思いがつながったんだと思います。


注)
*2 市は、中之島通の堺筋(難波橋)から中央公会堂前を車両通行止めとし、歩行者空間化した(現在工事中)。
現在、「こども本の森 中之島」前の車道は通行止めになっており、歩行者区間とする工事が行われている(写真:日経BP)
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