デザイナーとしても売り上げにはこだわりたい

――デザイナーと経営者、どのようにバランスを取っているのですか。

山口 むちゃくちゃ難しいんですよ。先輩を見つけたいなと思っているんですけど、なかなかいらっしゃらなくて…。

 コストのことはどうしても考えてしまいますし、生産効率も重要です。けれど、それを考えながらデザインをするのは非常に難しいなと思っていて、経営者をやめてデザイナーに専念したいと思ったことは何度もあります。

 それでもやっぱり、デザインしたモノを届けられるかどうかは、お店のお客様の目の前まで動線を引けるかどうかにかかってくるんです。そう考えると、私は売り上げにはこだわりたいんですよね。

(写真:加藤康)
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――売り上げを伸ばすには、経営やマーケティングの要素が必ず入ってきますよね。

山口 そうなんです。で、そうなってくると、お店の空間づくりにも口を出したいし、そのお店に立つ人の採用も非常に重要になってきます。お店には笑顔がすてきな人に立ってもらいたいですし、その人が愛着を持ってバッグを売ってくれるようになってほしい。すると、「理念研修をしましょう」といった話にもなってくる。最近だと、SNSの文章一つ一つにちゃんと愛がありますか? みたいなことも大事ですし。

 (先に触れたように)サプライヤーの力をすごく信じているというのは確かです。でも、売り上げを伸ばすためには、デザインの努力だけでは届かないことがたくさんあるんだということも感じています。そう思えるようになって、経営もちょっと頑張れるようになりました(笑)

情報発信とデザイナーの育成が課題

――マザーハウスで今後ここを強化していこう、みたいなポイントはありますか。

山口 つくる・売る・伝えるという3つの大きな要素のうち、マザーハウスは「伝える」が一番弱い会社だなって、私は自覚しているんですね。

――そうなんですか? 山口さんは書籍を次々と出版したり、ウェブサイトでもメッセージをたくさん出していて、情報発信はかなり戦略的なのかと思っていました。

山口 今まで一生懸命利益を上げることだけに忙殺されてきたので、2008年の「情熱大陸」出演から始まって、来たお話を受けるのに一生懸命なだけで何の戦略性もなかったんですよ。

 それでもコロナ禍の中で、ウェブサイトの売り上げを3倍くらいに伸ばせたんです。「伝える」ことについてもだんだん力強くなってきていて、YouTubeを初めSNSで連携してコミュニケーションを取っていこうとリーダーシップをみんなが取ってくれたり、商品の裏側を動画で表現できるチームができたりとか新しい動きも出てきています。けれどまだまだですね。つくる力に比べたら、伝える力は10分の1くらいです。

――それがつくる力と同レベルになってきたら、ものすごい情報発信になる、と。

山口 そうです。システムも含めて「伝える」という部分は本当に弱いです。だから、これからの投資は「伝える」に関するところに重点を置きます。人も採っていきたいと思っています。

 それともう一つ、デザイナーの育成という面も、できていません。

――そこは今後、どうしていこうとお考えですか。

山口 このコロナ禍を機に、「次のデザイナーを育成するぞ」と思いまして、バングラデシュの250人の工員たちに向けて「みんなデザイナーになろう」という企画をやったんですね。ツーウエイのバッグを企画するという課題で、絵を描いて私に提出するようにしてもらったんです。工場が動いていなくて彼らは家にいたので、職人なので手が鈍らないように、ということもあったんですが。

――絵の出来上がりはどうでしたか。

山口 みんなから上がってきた絵が思っていた以上にすごくよくて――。もし現地でデザインを担えるような人が出てきたら、それが一番理念に近いかなと思っています。