ジャンルを問わず、世の中に新しい価値を創出したDisruptive Innovator(ディスラプティブ・イノベーター:破壊的創造者)の生の声をお伝えするインタビューコラム「Disruptive Innovators Talks ~新たな価値の創造者たち~」。第7回は、「途上国から世界に通用するブランドをつくる」をミッションに成長をつづけるファッションブランド、マザーマウスを創業した山口絵理子氏が登場します。先進国の多くのアパレル企業が「下請け」あるいは「社会貢献」としてしか考えてこなかった途上国とのビジネスシーンにおいて、山口氏は現地の素材を見出し、現地で生産し、デザインと品質を磨くことで、従来の枠組みを超えた高付加価値ビジネスを途上国で創造・確立しました。

マザーハウスは、当時24歳だった山口氏がたった一人で立ち上げたバングラデシュの工場からスタートしました。今では、途上国6か国に生産拠点を持ち、日本国内36店舗、台湾6店舗、香港2店舗、シンガポール2店舗、フランス1店舗(2020年09月時点)で販売を展開するまでに成長しています。今年7月には、使わなくなった自社製品を回収・解体して新たな商品に仕立て直す「ソーシャルビンテージ」をスタート。さらなるサステナブルな製造小売りサイクルの確立に挑んでいます。

山口絵理子(やまぐち・えりこ)
マザーハウス代表取締役社長兼チーフデザイナー
1981年埼玉県生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。ワシントンの国際機関でのインターンを経てバングラデシュBRAC大学院開発学部修士課程終了。2年後帰国し「途上国から世界に通用するブランドをつくる」をミッションとして、2006年に株式会社マザーハウスを設立。現在、途上国6カ国(バングラデシュに加え、ネパール、インドネシア、スリランカ、インド、ミャンマー)の自社工場・提携工房でジュート(黄麻)やレザーのバッグ、ストール、ジュエリー、アパレルのデザイン・生産を行う。国内外47店舗で販売を展開(2020年9月時点)。世界経済フォーラム「Young Global Leader (YGL) 2008」選出。ハーバードビジネススクールクラブ・オブ・ジャパン アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー2012受賞。著書に『裸でも生きる』『裸でも生きる2』 『裸でも生きる3』(いずれも講談社)など。(写真:加藤康)
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――山口さんは創業以来、「途上国から世界に通用するブランドをつくる。」という理念の下、発展途上国の素材を使い、現地生産することにこだわったSPA(アパレルの製造小売業)を展開してきました。途上国を豊かにしていこうと思うようになったのは、どのようなきっかけがあったのですか。

山口 大学(慶応大学総合政策学部)のときに、竹中平蔵先生のゼミで「経済成長理論で途上国が豊かになるためには教育が必要」というシンプルなことを教えていただいたんです。それで、途上国の教育を支援するために国際機関とか国連といった組織で働くことが私の夢になりました。

 これは本にも書いてあることですが*1、私は小学校の時にいじめにあって学校に行けなくなったことがあって、それで教育システムを何とかしたいという思いを持っていました。でも、途上国には社会システムが原因で学校に行けない子どもが何億人もいることを知り、国内よりも途上国の教育システムを良くしたいと思うようになりました。

 そんな思いから、ワシントンの国際機関でインターンとして働いたりしていたのですが、支援が行われている現地を知るべきだと考え、バングラデシュの大学院に進みました。

 当時のクラスメートたちは本当に優秀だったんですが、職がない。大学院を卒業しても、2年も3年もの間、みんなずっと就活をしているんです。それで「学校をつくる以前に、働き口をつくりたい」と思うようになりました。

 そんなときに、ジュート(黄麻)という麻の素材に出合ったんです。バングラデシュの大学院にいたころ、商社でインターンをしていたのですが、そこでの仕事で展示会に行ったときにボロボロのバッグが目について。それがジュートのバッグだったんです。調べてみると、バングラデシュはジュートの世界有数の生産国で、二酸化炭素の吸収が多いなど環境にやさしく、耐久性も強い。この素材でかわいいバッグをつくって途上国のブランドを立ち上げよう。そう考えて起業しました。


注)
*1 山口氏の最初の著書『裸でも生きる』(講談社)には、波乱に満ちた起業までのストーリーが綴られている。小学校でいじめを受け、中学に入ると不良グループに加わる。柔道に出合い男子に混ざってハードな練習漬けの日々を過ごした高校時代。そして、一念発起して入学した大学で開発経済学と出会い、米国の国際機関でインターンに。そこで途上国援助のあり方に疑問を感じ、たった一人でバングラデシュに乗り込み起業するも、現地の人に騙され、裏切られ……。本気でやりたいことをやり続けてきた山口氏の強い気持ちが伝わってくる一冊だ。

デザインは形が3割、素材が7割

――2006年にマザーハウスを設立して以来、途上国の素材を使うということを大切にしています。山口さんの「素材」に対する思いをお聞かせください。

山口 商品をデザインするとき、「形をつくる」というのは多分私の中では3割くらいなんですよ。「素材をつくる」という部分が7割です。その商品が売れるかどうかは、もう断然、素材の力が大きい。小手先の装飾ではないんです。「この素材おもしろいね」とか、「何かさわり心地が柔らかいね」とか、そういう部分が大きいですね。今はバッグだけでなく、ジュエリーや洋服も扱っていますが、素材の違いって、お客様に直感的に伝わるんです。

――まず素材がちゃんとしていないとだめなんですね。

山口 新技術でつくった素材を使ってヒットした商品は、ロングセラーになる傾向が強いんです。なので私は、加工の自社工場にいる時間より、なめし工場にいる時間の方がずっと長いんですよ。当社にはグラデーション・カラーのレザー商品があるんですが、技術者を2人雇って、バングラデシュのなめし工場を内製化して、私たちの仕事だけに集中してもらって、やっとできるようになりました。

 ジュートという素材も簡単ではありません。気候が違うとそのたびに繊維の色が変わって、同じ「生成り(きなり)」と言ってもベージュだったりグレーだったり、色がぶれてしまうんです。なので、毎年レシピを改良しています。「ほかにある素材じゃないわね」と言って買ってくださる方がいるから、それをやるわけです。競争力って、こういうところから生まれるんだと思っています。

内製化した工場で試作を繰り返して生まれたグラデーションのレザー財布「IRODORI」(写真提供:マザーハウス)
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コーヒー袋などに使われる安くて丈夫な素材だったジュートを磨き上げ、独特の風合いを持つバッグに(写真提供:マザーハウス)
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コロナ禍で新作をつくれない中で考えたサステナビリティ

――自社商品のケア・修理・回収を行うサービス「ソーシャルビンテージ」*2を7月にスタートさせました。中でも、ユーザーが使わなくなった商品を回収・解体して、そこから別の新たな商品をつくるというサステナブルな取り組みは、マザーハウスにとって新たな挑戦といえます。今回、どうして回収サービスをスタートさせようと思ったのですか。

山口 新型コロナウイルスの感染拡大で、今年の2月~3月ごろから、私たちは新作がつくりたくてもつくれないという状況になっていました。当社の生産地は途上国6カ国なのですが、すべての国がロックダウンされてしまっていたので…。

 3月というのは、新作を投入する時期ではあるんですが、一方で私自身としては「買い物どころじゃないよ」とも思っていました。お客様もそんな心情なのだとすれば、「新しい買い物」ではなく、今クローゼットにあるものを新しく活用して何かできないだろうか――。そんなことを考えていました。

(写真:加藤康)
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 同時に、私たちは40店の直営店舗を持っているので、以前からとても多くのお客様とのインタラクション(相互のやり取り)があります。「マザーハウスのバッグは20個も30個も持ってます」とおっしゃる方もたくさんおられます。そして、そんなお客様たちから「次のバッグを買いたいんだけど、もうクローゼットがいっぱいだから…」という声を何度も聞いていたんですね。「買いたいけど買えない気持ち」みたいなものがお客様にはあるんだな、と思っていたんです。

 それからもう一つ、マクロ的に「これからのファッション業界はどうなっていけばいいんだろう」ということも、すごく考えたりしていたんですよね。

 (ファッションの本場である)フランスなどでは、サステナブルということが既に1つのキーワードになっています。ただ、売り手はサステナブルと言ってはいるけれど、つくっている途上国の工場では環境についてあまり意識されず、廃棄物をかなり出しているということがあったり…。これでは一般の消費者も、やっぱり疑問を抱きますよね。

 なので、私としては「つくった人がきちんと最後まで責任を持つサイクルって何だろう」ということを考えていました。「その商品の終わり方まできちんとデザインできるはず」と、ずっと思っていたんです。


注)
*2 「SOCIAL VINTAGE(ソーシャルビンテージ)」は、バッグをきれいに使い続けるための「ケア」、経年劣化で発生するほつれや破れを修理する「修理」、そして使われなくなったマザーハウスのレザーバッグの「回収」という3つのサービスの総称。回収は同社では初の試みとなる。そして、回収されたバッグを解体した部材などを再利用して生まれ変わった商品のブランド名が「RINNE(リンネ)」だ。

――いろいろな角度で日頃から考えていたことが結びついて、回収サービスにつながっていったわけですね。

山口 私は「先が見えにくいときは、自分自身が感じることに従った方がいい」と思うタイプなんですね。コロナ禍の中で、私としてはやっぱり「お客様のクローゼットがいっぱいになってしまって、もう使わなくなった商品のその後のことも考えたい」と思ったんです。


回収事業でお客様の愛着のバトンをつなぐ

――商品のケアや修理については、マザーハウスでは以前から手掛けていました。

山口 私たちは今まで、店舗でかなり徹底してケアをしてきました。「レザーが傷つくのは当たり前。商品がお客様に渡った後も責任を持つのは当たり前。だから無料でケアしよう」ということでやってきたんですが、「ケアだけではだめだ」とも思っていたんです。実は回収にトライしたこともあったんですが、解体コストがめちゃくちゃ高くて、その時は断念しました。しっかりつくればつくるほど、解体するにはすごい力が必要になるので、コストも高くなってしまうんですね。

――それが今回、どうして可能になったのでしょうか。

山口 国内のある修理工場にお願いしたら、すごく上手に解体できたんです。私はよく工場に出ているので何となく分かったのですが、直すことと解体することって、非常にスキルが似ているんです。新型コロナの影響で、百貨店などからの修理の仕事が減っていたこともあって、(その修理工場に)仕事を請けてもらうことができました。

 まず事務所にあった不良品の在庫を10個ほど修理工場に送りました。それで、解体時間を計算してください、解体コストを出してくださいとお願いしたんです。それと並行して、私は解体されたパーツからつくるリメイク商品のデザインを型紙に起こして、工場に渡したんですね。そうしたら、できたものが、あまりにもかわいくて(笑)

――あまりにもかわいかった、と(笑)

山口 はい。それで、これはいけるんじゃないかということで、5月から回収キャンペーンを始めたんです。すると私たちのところに不要になったバッグや、使わなくなった私たちの在庫含めて、1000個くらい集まりました。修理工場もすごく一生懸命に仕事をしてくれて、全部解体して、パーツごとに素材を段ボールに入れて、色ごとに仕分けていって。で、配色がすごく重要なので、そこは私が指示を出させてもらって、バッグと小物が出来上がりました。

「ソーシャルビンテージ」サービスから生まれた「RINNE」シリーズ。回収・解体したレザーバッグの素材を組み合わせ、新たな商品を生み出した(写真:加藤康)
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 このときに私が一番感動したのは、お客様が商品を戻してくれるときに、その商品の入った段ボールには、必ずと言っていいくらい手紙が一緒に入れてあるんですよ。このバッグをどこで、どの店員さんから買って、このバッグで娘とあそこに行ったんです…みたいな思い出がぎっしりで。「だから絶対メルカリに出したくなかったんです」って書いてある(笑)

 ほかにも、「このカバンで就活頑張りました」とか――。ああ、これはもう、お客様の愛着のバトンを一生懸命つないできたいな、と思いました。

――それぞれストーリーがあるわけですね。

山口 本当にそうなんですよ。すごく泣けますよ(笑)。商品を売っている意味について、つくっている意味について、本当に考えさせられました。手紙はスキャンして(途上国の)工場にも送ろうかなと思っているんです。翻訳も付けて。工場でもきっとモチベーションが上がると思っています。

(写真:加藤康)
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――「ソーシャルビンテージ」は、素材や出来上がった商品へのこだわりがあったからこそ、生まれた企画といえそうです。

山口 バングラデシュのジュートという素材で、かわいいバッグをつくって売りたい――。私は、そんなふうにモノから入って起業をしたので、それはありますね。コロナ禍もモノが突破するんじゃないかって、信じているところがあるんです。

――「モノで突破」ですか。

山口 苦しいときはいつも、工場に何か答えがある気がしていて――。やっぱり私は需要を喚起するサプライヤーの力をすごく信じているんです。それは商品になったジュートのバッグを見たときの感動だったりだとか、多分そういったところから来ていると思うんですけど。

 コロナ禍のこの時代、確かにコスト削減とかいろいろな努力は必要ですが、「最後は面白いものがつくれるかどうかだ」といつも思っています。だから私はデザイナーという肩書きと経営者を一緒にやっているんです。


デザイナーとしても売り上げにはこだわりたい

――デザイナーと経営者、どのようにバランスを取っているのですか。

山口 むちゃくちゃ難しいんですよ。先輩を見つけたいなと思っているんですけど、なかなかいらっしゃらなくて…。

 コストのことはどうしても考えてしまいますし、生産効率も重要です。けれど、それを考えながらデザインをするのは非常に難しいなと思っていて、経営者をやめてデザイナーに専念したいと思ったことは何度もあります。

 それでもやっぱり、デザインしたモノを届けられるかどうかは、お店のお客様の目の前まで動線を引けるかどうかにかかってくるんです。そう考えると、私は売り上げにはこだわりたいんですよね。

(写真:加藤康)
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――売り上げを伸ばすには、経営やマーケティングの要素が必ず入ってきますよね。

山口 そうなんです。で、そうなってくると、お店の空間づくりにも口を出したいし、そのお店に立つ人の採用も非常に重要になってきます。お店には笑顔がすてきな人に立ってもらいたいですし、その人が愛着を持ってバッグを売ってくれるようになってほしい。すると、「理念研修をしましょう」といった話にもなってくる。最近だと、SNSの文章一つ一つにちゃんと愛がありますか? みたいなことも大事ですし。

 (先に触れたように)サプライヤーの力をすごく信じているというのは確かです。でも、売り上げを伸ばすためには、デザインの努力だけでは届かないことがたくさんあるんだということも感じています。そう思えるようになって、経営もちょっと頑張れるようになりました(笑)

情報発信とデザイナーの育成が課題

――マザーハウスで今後ここを強化していこう、みたいなポイントはありますか。

山口 つくる・売る・伝えるという3つの大きな要素のうち、マザーハウスは「伝える」が一番弱い会社だなって、私は自覚しているんですね。

――そうなんですか? 山口さんは書籍を次々と出版したり、ウェブサイトでもメッセージをたくさん出していて、情報発信はかなり戦略的なのかと思っていました。

山口 今まで一生懸命利益を上げることだけに忙殺されてきたので、2008年の「情熱大陸」出演から始まって、来たお話を受けるのに一生懸命なだけで何の戦略性もなかったんですよ。

 それでもコロナ禍の中で、ウェブサイトの売り上げを3倍くらいに伸ばせたんです。「伝える」ことについてもだんだん力強くなってきていて、YouTubeを初めSNSで連携してコミュニケーションを取っていこうとリーダーシップをみんなが取ってくれたり、商品の裏側を動画で表現できるチームができたりとか新しい動きも出てきています。けれどまだまだですね。つくる力に比べたら、伝える力は10分の1くらいです。

――それがつくる力と同レベルになってきたら、ものすごい情報発信になる、と。

山口 そうです。システムも含めて「伝える」という部分は本当に弱いです。だから、これからの投資は「伝える」に関するところに重点を置きます。人も採っていきたいと思っています。

 それともう一つ、デザイナーの育成という面も、できていません。

――そこは今後、どうしていこうとお考えですか。

山口 このコロナ禍を機に、「次のデザイナーを育成するぞ」と思いまして、バングラデシュの250人の工員たちに向けて「みんなデザイナーになろう」という企画をやったんですね。ツーウエイのバッグを企画するという課題で、絵を描いて私に提出するようにしてもらったんです。工場が動いていなくて彼らは家にいたので、職人なので手が鈍らないように、ということもあったんですが。

――絵の出来上がりはどうでしたか。

山口 みんなから上がってきた絵が思っていた以上にすごくよくて――。もし現地でデザインを担えるような人が出てきたら、それが一番理念に近いかなと思っています。


起業家と経営者の資質は全然違う

――最後に、創業から毎年売り上げを伸ばし、現在、国内約250人、グローバルで約700人のスタッフを抱える企業にまでマザーハウスを成長させた山口さんから、起業家を目指す人たち、あるいは、新しいことに取り組もうとしている人たちにメッセージをお願いします。

山口 やっぱり重要なのはコンテンツだと思っています。方法が起業であって…。

 今、起業って全然資金がなくてもできるじゃないですか。でも、その後に乗り越えるべきハードルの数々を考えると、「何を達成したいか」ということが相当重要になります。私について言えば、理念がなければハードルを越えてここまで来ていません。

 それと、創業者のキャラクターを途中で変換していかなければ、10年以上続けるのは本当に難しいと思う。創業者、起業家のスピリットって、経営者のそれとはちょっと違うと私は思っているんです。

(写真:加藤康)
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――そのあたり、もう少し詳しくお話いただけますか。

山口 起業家のスピリットというのは、ゼロをイチにすることの快感と渇望がむちゃくちゃ詰まっているわけです。でも、それが今の時代、日本の会社を引っ張っていける経営者の資質なのかというと、全然違います。組織にゼロ・イチの人材は必要ですけど、そういう人が経営をしてしまうと、非常に居心地の悪い、むしろギスギスした組織になってしまうと私は思っています。

 自分自身としては、いろんな人が辞めていったときに「ああ、なるほど。私の温度感ってみんなと違うよね」ということを客観的に受けとめられるようになって、そのことを実感しました。

 世の中には家族と仕事を両立したい人たちがたくさんいて、そういう人たちが5時に帰りたいという気持ちを、私が理解しなきゃいけないと思ったんです。それで評価制度を抜本的に変えたりなど、手をつけていきました。

 でもそれは、(途上国の工場でつくった)モノを届けるためには、自分が変わらなきゃいけないと思ったからやったことなんです。そのビジョンがなければ、私はそんなことはやりたくなかったと思います。

――ビジョン実現のためには、起業時とはまた別の動き方をしなくてはいけない、と。

山口 そうですね。そのときの私の変換については、山崎(大祐・副社長)の助けもあってうまくできたなと思っています。

 そうかといって、ゼロ・イチのスピリットをなくしてはいけないんですけどね。だから私は、途上国に行ったときはちゃんとスイッチを入れて“起業家”になっています。

――サステナブルな経営者になろうと思うなら、起業家とはまた違った能力を磨かなくてはいけない、と。

山口 本当にそう思います。自分と数人のコミュニティだけだったらいいんですけど、100人以上をマネージする経営者になりたかったら、「発想がいい」「アイデアで突破」といったことだけでは絶対に難しい。

 今、当社の売り上げ規模は30億円~40億円といったレベルですが、ここから100億円規模の企業になるには、多分、何か課題が出てくるだろうと思っています。そのときに私はまた、何か変換をしていかなくてはいけないだろうと感じています。

インタビューを終えて

販売した商品のケア・修理にとどまらず、顧客が長く使って不要になったバッグを回収・解体し、そこから新たな商品を生みだす――。

「ソーシャルビンテージ」というサービスをスタートさせたマザーハウス。素材や商品に対するこだわりや愛情が、山口さんの新しい挑戦の原動力となっています。

山口さんは、SDGs(持続可能な開発目標)に先んじて「途上国から世界に通用するブランドをつくる」という理念の下で企業活動を続けてきました。SDGsが広く認知され、推進されるなか、今度はより高いゴールを目指し、山口さんは動き始めたのです。

単にサステナブルを掲げるのでなく、製造工程での廃棄物や、購入された商品の“終わり”にも、しっかりとコミットする。当然コストのかかる仕事になります。

そんな難しい条件の下、サステナブルな事業の仕組みをデザインできたのは、デザイナーと経営者の両方の視点から現場=工場を知り尽くしている山口さんならではの突破力といえるでしょう。

そしてもう一つ、この事業を成り立たせている重要なポイントがあります。それは購入者の商品への愛情、思い入れです。

思い入れがある商品だからこそ、購入者はもう使わなくなったバッグを捨てるのではなく、リサイクルに回してくれるのです。

しかも、多くの場合、回収されたバッグには、様々な思い出を綴った購入者からの手紙が添えられているといいます。そんなにも愛されたバッグを解体して、マザーハウスが新たな商品としてよみがえらせる――。

山口さんは、顧客との関係もまた、サステナブルに築いているのです。

高橋博樹(たかはし・ひろき)
日経BP 総合研究所 戦略企画部長/ソリューション・アーキテクト
高橋 博樹(たかはし ひろき) 日経BP入社後、インターネット草創期のビジネスモデルづくり、ICT、建設など幅広い分野を担当。2015年9月、日経BP総合研究所の発足と同時に戦略企画部長に就任、現職。「新・公民連携最前線」「Beyond Health」の2つのメディアを創案して立ち上げた(写真:栗原克己)


特別付録 山口絵理子さんへの10の質問

1.行ってみたい場所
行ってみたい場所ですか……今は工場ですね(笑)

2.影響を受けた本
マザー・テレサの本です。

3.山口さんにとってパリとは?
目的地です。大学院生としてバングラデシュにいたとき、ヨーロッパから来ていたバイヤーが王様みたいに振る舞っていて、すごく嫌だったんです。ブランドをつくるって決めたとき、彼らに「これだけできるんだぞ」って言いたかったんですよね。今年9月、夢だったパリにやっとショールームをつくることができたんですが、今はパリに旗艦店を持ちたいと思っています。

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フランス・パリの予約制ショールーム(写真:マザーハウス)

4.尊敬するデザイナー
川久保玲さん。

5.会ってみたい人
川久保玲さん。

6.記憶に残る失敗
工場に行ったら何もなかったとき(笑)

7.今、一番やってみたいこと
釣りです。

(イラスト:宮沢洋)
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8.うれしかったプレゼント
お客さんがくれた寄せ書きですね。誕生日にサプライズでいただいたんです。

9.いつも心掛けていること
本音!

10.最近ハマっていること
工場以外だと(笑)、瞑想です。YouTubeとか見ながらやっています。


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