2018年12月3日から14日までポーランド・カトヴィツェで国連気候変動枠組条約 第24回締約国会議(COP24)が開催された。今回は筆者も参加したこの会議からスタートした、スポーツxSDGsの新たなアクションについて報告する。

UNFCCC事務局が「Sports for Climate Action Framework」を発表

ポーランド・カトヴィツェのCOP24会場(写真:一般財団法人グリーンスポーツアライアンス)
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COP24カトヴィツェ会場入り口。長蛇の列ができていた(写真:一般財団法人グリーンスポーツアライアンス)
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 気候変動枠組条約締約国会議(COP)は、1992年の地球サミットで採択された国連気候変動枠組条約(UNFCCC)における締約国による会議を指し、1995年に開催されたCOP1以降、毎年開催されている。1997年のCOP3で京都議定書、2015年のCOP21においてパリ協定が締結された。パリ協定は締結国だけで世界の温室効果ガス排出量の86%、159カ国を網羅する「画期的な合意」と言われ、「人類史上最も多国籍間で締結された類稀なる偉業である条約」とも言われている。

 2018年12月、ポーランド・カトヴィツェでCOP24が開催された。日本ではどう伝わっていただろうか。各国間の協議が不調である、ということばかりではなかったか。確かにそうした面もあったが、現地では少し違った捉え方でこのイベントは行われていた。

 COP24は、新しい価値や新規ビジネス創出につながる先駆的な取り組みを発表する情報発信の場として、注目度の高いイベントとして受け止められていたのである。パリ協定を大前提として「気候変動に対する具体的なアクション」を見せるショーケースという位置付けである。

 会場には各国のパビリオン(情報ブース)が設けられ、様々なイベントやワークショップも行われた。そこには、政治関係者だけでなく、各国のNGO・NPOや教育機関、企業が参加し、一般市民や学生や子どもたちの姿もあった。気候変動の問題解決のために具体的につながろうとする人々の間に、国境を超えた連携を模索しようとする機運の盛り上がりを感じることができた。

 そうした中、気候変動問題解決のためのスポーツによる取り組みとして「Sports for Climate Action Framework」が、COP24において発表された。同フレームワークには、背景として気候変動への対策に取り組む政府・企業・市民をつなぐツールとしてスポーツへの注目と期待が高まっていること、パリ協定とSDGsへの取り組みがこれからのビジネスモデル構築の基準になると明確に示し、そして、今後、国連と国際オリンピック委員会(IOC)のリーダーシップのもと、スポーツ界が気候変動問題解決の旗振り役として頭角を現すチャンスを作っていくことなどが盛り込まれている。

「Sports for Climate Action Framework」はUNFCCCのウェブサイトからダウンロードできる

IOC、FIFA、東京2020組織委員会などがフレームワークに参加

 2017年10月、国連は気候変動問題解決を目指して、新しい取り組みを開始した。2015年にSDGsが発表され、パリ協定も締結されたにも関わらず、一般市民の行動に変化をもたらすことができていない、という危機感の下、「スポーツ」による気候変動への取り組みを進めるための議論が始まったのである。私はこの会議に招聘され、さらに、フレームワーク作成メンバーの1人としてUNFCCC事務局とともに「Sports for Climate Action Framework」の作成に携わった。

東京2020組織委員もSports for Climate Action Frameworkへの参加を表明(東京2020組織委員のウェブサイトより)

 2018年12月11日に発表されたこのフレームワークでは、何が示されているのか。

 具体的には、スポーツ関係者が気候変動問題に関して、取り組みを始めるための理由付け、その行動を規定する考え方や意思表示に対して、国連が承知し伴走することが表明されている。また、IOCが主導して、他のスポーツ連盟・リーグ・クラブチーム・アスリートに取り組みへの賛同を呼び掛け、具体的なアクションを実施していく旨も明記されている。

 なお、発表時、フレームワークにはIOCのほか、パリ2024組織委員会、国際サッカー連盟(FIFA)など国際的なスポーツ団体を中心に17団体が参加を表明している。日本からは、東京2020組織委員会のほか、ヴァンフォーレ甲府、福島ユナイテッドFC、東北フリーブレイズ、鎌倉インターナショナルFC、京都大学アメリカンフットボール部ギャングスターズ、京都大学サッカー部、栃木県立佐野高校ラグビー部の8団体が参加を表明した。

 同日には、COP24のスペシャル閣僚級会議として「Sports for Climate Action」と題したイベントも行われた。UNFCCC事務局が初めてスポーツ界とコラボレーションを行ったイベントで、「Sports for Climate Action Framework」に即した議論が展開された。

左は当日のプログラム(COP24のウェブサイトより)。上はパネルディスカッションの様子。活発に意見が交わされた(写真:一般財団法人グリーンスポーツアライアンス)
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 プログラムは、モナコ大公でIOC委員でもあるアルベール2世の臨席の下で進んでいった。オープニングスピーチでは、UNFCCC事務局長のオヴァイス・サマド氏が、今回国連がスポーツ界と取り組むフレームワーク作成に行きついた背景について説明した。その後、モナコ大公アルベール2世による「社会変革のカタリスト(化学反応を促す触媒)になるこれからのスポーツ」についての基調講演、CONCACAF(北中米カリブ海サッカー連盟)のカリーナ・ブランク女史による、気候変動問題への挑戦においてアスリートが果たせる役割についての講演が続いた。

 パネルディスカッションでは、モデレーターより各登壇者に対して、「現在スポーツ団体として取り組んでいること」「なぜ今回このフレームワークに手を挙げることを決めたか?」「今後どのように現場で取り組んでいくか?」「直面しているチャレンジは何か?」などの質問が投げかけられた。そして最後には、IOCおよびパリ2024組織委員会より、持続可能な大会を目指して現在取り組んでいることについての紹介が行われた。

日本から参加した団体が高い評価を受ける

 パネルディスカッションには日本のJリーグ(日本プロサッカーリーグ)に所属するヴァンフォーレ甲府の佐久間悟GMが参加した。ヴァンフォーレ甲府はクラブチームとして取り組んできた様々な社会連携活動、とりわけ2004年から取り組んできた「エコスタジアム・プロジェクト」などの実績がある。

写真左よりヴァンフォーレ甲府・佐久間GM、栃木県立佐野高校ラグビー部渡来キャプテン、同石井監督(写真:一般財団法人グリーンスポーツアライアンス)
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 プラスチックなどの使い捨てごみ容器のない「日本一エコなスタジアムを作ろう」を合言葉に、ヴァンフォーレ甲府と特任NPO法人スペースふう、山梨県内のグリーンスポンサー企業数社が協力して、2004年のシーズンから「エコスタジアム・プロジェクト」を開始。試合後に発生したゴミの種類を分析した結果から、翌年にリユースカップとトレーを導入。2005年から2018年のシーズンで約69トンのCO2排出量削減(使い捨て食器の使用時と比較)に貢献した。

 こうした実績はもちろんだが、UNFCCC事務局からは、欧米だけでなくアジアである日本からスポーツチームが参加する意義についても高い評価を受けた。

 ワールドセーリング、ワールドサーフリーグ、フランステニス連盟といった世界のメジャースポーツ団体に交じって30分間のパネルディスカッションに参加した佐久間GMは、これまでの取り組みの紹介に加え、英語で次のように語った。

 「ヴァンフォーレ甲府は、決して資金力の大きなクラブチームではないが、小さなクラブチームでもスポーツの力で社会にポジティブなインパクトをつくることができることを示したい。山梨県では新スタジアム構想がある。新しい技術、新しいイノベーションが、地域の人々を温かくつなげ、心豊かで健康なライフスタイルを送れるような、新しいサステナブルなスタジアムを山梨県の皆様と共につくりたい」

 富士山を背に、透き通った空気、美味しい水、フルーツ、ワインなど豊かな地域資産を持つ山梨県にあるヴァンフォーレ甲府だからこそ、「気候変動とスポーツ」というテーマで世界に向けて発信する意義がある――。佐久間GMは、そう考えてフレームワークへの参加を決めたという。

 会議後には、UNFCCC事務局や同じく登壇した関係者から、自分の想いを自分の言葉で真摯に語った明確なメッセージであったと賞賛の言葉を掛けられる場面もあった。

モナコ大公アルベール2世(左)と栃木県立佐野高校ラグビー部渡来主将。次世代を担う渡来キャプテンにとっては、言語の壁に阻まれ、英語力向上の必要性を痛感したものの、会議後はその壁を軽々と飛び超えて、モナコ大公アルベール2世やカリーナ・ブランク女史とのツーショット写真を撮ることができた。こうした体験は大きな自信となったに違いない(写真:一般財団法人グリーンスポーツアライアンス)
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 日本のスポーツチームからは、栃木県立佐野高校ラグビー部の石井勝尉監督と渡来遊夢キャプテンも会議に出席した。

 栃木県立佐野高校ラグビー部は、「学び・繋がり・存続」の3点が、競技力向上に加えて大事にしている課題意識であり、その課題意識の中で今回のフレームワークへの参加を表明。まずは「世界で起きていることを学びたい」という思いでCOP24への参加を強く希望した。

 「部活スポーツ」が日本の教育機関にはあるということ、そして日本ではその「部活スポーツ」に新しい気づきや学びが生まれることで次への具体的なアクションにつながる大きな力となりうる、ということが推薦のポイントであった。渡来キャプテンはCONCACAF(北中米カリブ海サッカー連盟)のカリーナ・ブランク女史から「生きる目的のあるプレーを」とのメッセージを受け、一言も漏らさぬように持参したノートに書き留めていた。彼にとって、大きな気づきを得る機会となったはずである。

スポーツがサステナブルな社会をけん引していくために

 パリ協定とSDGsが相互に深く連関しており、最終的には一つに収れんされて、気候変動問題への対策は他のあらゆる社会問題ともつながっていく――。COP24においては、こうした認識が既に世界共通のものになっていることが感じられた。会場においては、ジェンダーや先住民族、若者などの問題に取り組むNGOやNPOの参加があった。

 「Sports for Climate Action Framework」策定プロセスにおいても、「パリ協定とSDGsは、未来に向けて大きな機会を呼び込む世界が取り決めたビジョンである」という認識の下、現在スポーツに流れる資金や経済のバリューチェーンを持続可能な社会構築の方向にドライブしていくために、どのような社会経済モデルが考えられるかについても活発な議論がなされていた。

 そう考えると、スポーツ界が気候変動問題に取り組もうとする場合もまた、その対策はあらゆる社会問題とつながっていくはずだ。スポーツによるSDGs実現への取り組みは気候変動問題の解決のみならず、社会変革・産業革新の呼び水となり、新しい価値観を生み出し、今まで我々が考えてこなかったような新しいビジネスの創出、そして雇用増につながっていく可能性が大いにある、ということである。

澤田 陽樹(さわだ・はるき)
一般財団法人グリーンスポーツアライアンス代表理事
澤田 陽樹(さわだ・はるき) 1978 年生まれ。京都大学経済学部を卒業し、2002年三菱商事株式会社化学品グループ配属。国内での化学品事業を経験後、台湾三菱商事、ドイツ三菱商事など、世界で化学品事業に従事。2017 年三菱商事を退職し、一般財団法人グリーンスポーツアライアンス(GSA) を設立し、持続可能な新ビジネス創出に挑戦中。2018 年 8 月国連 Global Climate Action Head より活動に感謝状を受領。12 月にはCOP24 Katowiceに招待参加。京都スマートシティ EXPO2018 や第 6 回「スポーツ国際開発」 国際シンポジウムに登壇。その他、講演多数。
米国Green Sports Alliance
米国Green Sports Allianceは、2010年、マイクロソフト社の創設者の一人であるポール・アレン氏によって設立された非営利法人。スポーツを通じて健康で持続可能な社会を構築することを使命に、スポーツによる社会課題解決・SDGs実現の取り組み事例を広く社会に提供する活動を続けている。創立9年となり、メンバー団体(プロ・アマのスポーツチーム、学生チーム、スポーツリーグ、スタジアム・アリーナ等の運営管理団体、協賛企業、NPO/NGOなど)は600超。加盟プロリーグは15団体を超えている。

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