マイアミ・ヒートはNBA(米国プロバスケットボール協会)で全米優勝3回を誇る名門チーム。そして、米国Green Sports Allianceには草創期から参加しているなど、サスティナビリティ意識の高いプロスポーツチームである。マイアミ・ヒートが環境配慮型のチーム・施設運営からさらに地域貢献へと意識を広げてきた歩みを振り返ってみよう。

LEED認証取得を掲げるアメリカン・エアラインズ・アリーナ(写真提供:マイアミ・ヒート)
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 連日報道されるドラフト1巡目でワシントン・ウィザースから指名を受けた八村 塁選手のニュースによって、米国NBAについて興味を持った人も多いのではないだろうか。また最近ではBリーグの試合も盛り上がってきて、バスケットボールが熱い!と感じないではいられない。

 そのNBAの名門、マイアミ・ヒートとその本拠地であるアメリカン・エアラインズ・アリーナ(American Airlines Arena)は、グリーニング・プロジェクトの面でもリーグの牽引役となっている。グリーニングとは、環境や社会への影響に配慮した建築や運営のことを指す。

 スポーツを通じて健康で持続可能な社会を構築することを使命とする米国の非営利法人、Green Sports Allianceが誕生する前年の2009年4月7日、アメリカン・エアラインズ・アリーナは、建築物や都市に関する国際的な環境認証「LEED」の認証を取得した最初のアリーナ施設となった。同じくNBAのアトランタ・ホークスの 本拠地であるフィリップス・アリーナ(Philips Arena)も、この時にLEED認証を同時に取得している(認証の種類は両者ともO+M〔既存建物の運用・保守〕部門)。

なぜ、サスティナビリティを目指すのか

 マイアミ・ヒートには「サスティナビリティ部門」がある。そのトップであるジャッキー・ベンチュラ氏によると、サスティナビリティの追求とLEED認証取得には、エネルギーコストの節約による経済的な利益に加えて、ブランド強化、スポンサーシップへの貢献、あらゆる競争優位性、そして、地域コミュニティからの注目を集め、企業文化を育てるという利点が数えられるという。

左から3人目がジャッキー・ベンチュラ氏(写真提供:マイアミ・ヒート)

 「ビジネスという観点から見ると、このような努力は、大きなポイントとなります。新しい企業がスポンサーとして参加し、多くの投資を引きつけました。その結果、Home Depot(米国住宅リフォーム・建設資材・サービスの小売チェーン大手)や、Waste Management(米国廃棄物処理大手)を含む、約100万ドルの新しい企業スポンサーが生まれました。また、このLEEDへの取り組みに、Johnson & Johnson(世界的なヘルスケア製品会社企業)や Georgia Pacific(米国大手木材企業)といった、それまで私たちへの関心がなかった企業が興味を示しました。このように、環境意識を持っているということが私たちのブランド・イメージを大きく向上させたのです」

 アリーナ施設としては世界初のLEED認証を取得した4月7日を、マイアミ市長メニー・ディアス氏はアメリカン・エアラインズ・「グリーン」アリーナ・デーに制定した。この時はLEEDに対して、40ポイントの取得申請を行い、そのうち37ポイントの取得を達成している。

マイアミ・ヒートのサスティナビリティへの歩み

 マイアミ・ヒートがサスティナビリティに取り組み出したきっかけは、NBA本部からの情報だった。2007年、NBAが 環境NGOのNRDC(自然資源防衛協議会)と「持続可能な競技場とチームの運営」について協定を結んだのである。

 2008年、NBAはNRDCとともにコミッショナーのイニシアチブを確立するために働きかけ、すべてのチームにNRDCのグリーニングアドバイザーを派遣した。「NBAとNRDCが環境に関する推奨事項を発表した時、私たちは非常に高い関心を持ったのです」とベンチュラ氏は振り返る。

 ヒート・グループはこの機会を得て、すぐにLEED認証についての学びを重ね、わずか数カ月後の2008年11月18日にアメリカン・エアラインズ・アリーナ のLEED認証取得に向けた書類提出を果たしている。

 グループ社長であったエリック・ウールワース氏は「2009年4月にはLEED認証取得を発表する」と目標を定め、作業に取りかかる。まずは必要条件を洗い出し、前提を整えることから始めなければならなかった。

 「正直なところ、私たちの目標が数値化されて目の前に現されたとき、すべてのLEED条件について資格を得ることは可能だ、と確信することができました。そして、そのことに驚愕しました」とベンチュラ氏は振り返る。いったい、どういうことだろうか。

大規模施設ならではのコスト節減効果

 LEED認証を得るためには、かなりの先行投資が必要になる。また、関わるスタッフが費やす時間も相当なものとなる。しかし、規模の大きい施設となれば、その経済的な節減効果は、先行投資の費用と時間を上回ることができる。アメリカン・エアラインズ・アリーナの場合、2009年の段階でそのエネルギーコストは同規模の施設の平均的な数値より53%節約できており、年間160万ドル以上の節減効果をもたらした。

 また、アメリカン・エアラインズ・アリーナでは、LEED認証のために大規模な改修工事を施すといった、特別なプロジェクトを結成する必要はなかった。

 ベンチュラ氏はLEED申請などに関わる作業を信頼できる専門家に託し、完璧な記録と責任ある運営を行なっている。「1999年に建築した当初から、電気、ガス、水道などに気を配り、その消費量についてデータを撮り続け、スプレッドシートと電子記録を完備していたのです」(ベンチュラ氏)。

 この蓄積されたデータを見てベンチュラ氏は、アメリカン・エアラインズ・アリーナがそのほとんどのカテゴリーですでにLEED認証に適合していることに気づいたという。

 サプライヤー事業者群と良い関係を保っていることは、設備や備品の改革に非常に役立った。これにより、例えば、グリーンエネルギー購入システムの導入や、100%リサイクルペーパータオルやEPA(米環境保護局)推奨石鹸など新しい環境商品への入れ替えなどが、スムーズに行えたという。

 ゴミを集める取り組みは、初めから企業スポンサーの1社であるWaste Management の推奨するリサイクルプログラムを導入していたので、力強く進めることができた。同社が進めていた電子機器のリサイクルにも相互に協力した。

 また、2012年4月には、マイアミ・デイド郡公立学校で行われた「eリサイクル・ドライブ」というコミュニティ活動に、発起人としてマイアミ・ヒートはその名を連ねている。

企業スポンサーの1社であるWaste Managementとリサイクル・プログラムを進めていった(提供写真:マイアミ・ヒート)
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マイアミ・ヒートの現在

LEED認証更新時には、シルバーからゴールドへとグレードアップした(写真:マイアミ・ヒート提供)

 マイアミ・ヒートは進み続けている。LEED認証取得から5年後に必要となる2014年の更新に向けても、さらなる努力が続き、2015年11月10日に更新が認められた。この時は73ポイント申請のうち60ポイントを獲得し、世界で最初に再認定を受けたスポーツ施設として名を轟かせることになった。しかも、当初の目標であったシルバー認証を超え、ゴールド認証を取得している。

 2014年の更新に向けてマイアミ・ヒートが取った施策により得た主な経済効果は以下の通りだ。

  • LED照明への変更により年間約70万ドルの運営費用削減
  • ガレージへの人感センサー付き照明の導入により年間約7万ドル費用削減
  • 配水管バルブの改修・効率的な造園作業の導入により年間約6万ドル費用削減
  • 新規協賛企業の獲得により年間200万ドルの収入増

 そして今、その目は環境負荷の軽減だけでなく、社会貢献、地域貢献にも注がれている。

 まず、アリーナで行われるコンサートなどのイベントに参加するアーティストたちに環境に配慮した施設であることをアピールしている。なぜなら、今や社会的影響力のあるアーティストたちの多くが「環境配慮型施設でないと演奏しない」と宣言しているからである。

 マイアミ市長は全米で「グリーニスト」であると呼ばれるようになり、地域を挙げて、サスティナビリティへの関心を高める取り組みが進んでいる。

 「マイアミの街には多くのホームレスがいます。私たちはアリーナでのゲーム時に提供され、手を付けられずに残ったケイタリング食品をその日のうちにシェルターに運び込み、炊き出しとして利用してもらっています」とベンチュラ氏。同ホームレス支援プロジェクトでは2009年以来、総計で4万ポンド分の食糧を届けることに成功している。地域における社会課題の解決へのアクションを率先して現している。

 ヒートは学校に対しても、新たなアクションを生み出している。

 その一つが「How Low Can You Go?」プログラムである。

 これは、マイアミ・ヒートが、地域の学校の生徒とともに、3カ月の期間を定めて、所属する学校での使用電気量削減に挑戦するというものだ。参加を決めた学校の生徒は、教室の電気をこまめに消したり、空調の無駄をなくすためにドアの開け閉めに注意したりと使用電気量の削減の為に自主的な行動を取り始める。空調を消し忘れた先生の教室のドアには注意マークが張られ、翌日の朝に先生がマークを見つけて注意喚起を促されることも起きる。

 最初の1年目は、Broward County Public Schoolsから始まった小さなパイロットプロジェクトは、2019年で7年目を迎え、小学校から高校まで含めた約145校の学校が参加するプログラムとなった。3年前からは、電気に加えて水道使用量削減への挑戦プログラムも追加された。過去6年の同プログラムで生み出した削減による経済効果は約60万ドル。今年のプログラムにはさらに新たなパイロットプロジェクトを付加していくことを検討しているようだ。

 他にも、シーズン中に売り出されるゲームチケットの一部を地域の学校に渡すプログラムがある。これらのチケットは子どもたちのために使われるのだが、単なる招待券ではない。このチケットを子どもたちがそれぞれ売って、その収益を学校での社会活動の教育のために活かす試みを行っているのだ。子どもたちは自分たちのやりたい社会活動に必要な資金を得るために、どうやったらチケットが売れるか、頭を使って学ぶ。そしてチケットを売って社会活動を達成した子どもたちはマイアミ・ヒートのホームゲームに招待される。もちろん、ハーフタイムには成功を称えて、観客に紹介されるのだ。これによって、学校での生徒の社会活動が実現するだけでなく、子どもたち、またその家族がアリーナに足を運ぶことになり、将来の熱烈なファンを創っていくことになるのだ。

「How Low Can You Go?」プログラムのシンボルマーク(資料提供:マイアミ・ヒート)
アリーナで表彰された生徒たち(写真提供:マイアミ・ヒート)
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 マイアミ・ヒートは、環境価値も、社会価値も、経済価値も同時に生み出すアクションを真のSDGs実現のための社会インパクトプログラムと捉え、様々な取り組みに挑戦している。世界中がこれに追随しようと関心の目を注いでいる。

日本に向けたメッセージ

 チームが街ぐるみでのサスティナビリティ構築に取り組む理由はシンプルである。それがマイアミ・ヒートの事業に影響を与えるからである。持続可能な地域があってこそチームが事業を継続できる。ファンはチームの勝敗をもちろん見ているが、チームが何をするのかも見ている。地域に、ファンに、良い影響を及ぼすチームであることで、事業を継続できる――。ベンチュラ氏はそう考えている。マイアミは気候変動による海水面上昇のリスクに直面している地域の一つであり、貧困層が多い地域でもある。そのような地域を基盤に事業を営むチームとして何をすべきかは明快である。

 「日本には、SDGs実現の為に根幹となる『もったいない』『他者への思いやり』といった素晴らしい基盤が長い歴史の中での文化として既に存在している」と、ベンチュラ氏。昨年、筆者の招きに応じてグリーンスポーツアライアンスのキックオフイベントのために訪日した時にそう感じたという。同氏は、日本への期待を次のように語った。

 「日本がその文化をメッセージとしてどのように世界に発信するのか非常に期待している。文化の中で培われた日本人に備わる行動や考え方を、どのようにそのような行動や考え方を身につけるのか他の国に見せる(魅せる)ことで日本は世界で主導的な役割を担えるのではないか。その際、スポーツがそのメッセージを発信する最適のアリーナになると思う」

2019年米国Green Sports Alliance Summitにて。左がジャッキー・ベンチュラ氏(写真提供:米国Green Sports Alliance)
澤田 陽樹(さわだ・はるき)
一般財団法人グリーンスポーツアライアンス代表理事
澤田 陽樹(さわだ・はるき) 1978年生まれ。京都大学経済学部を卒業し、2002年三菱商事株式会社化学品グループ配属。国内での化学品事業を経験後、台湾三菱商事、ドイツ三菱商事など、世界で化学品事業に従事。2017年三菱商事を退職し、一般財団法人グリーンスポーツアライアンス(GSA) を設立し、持続可能な新ビジネス創出に挑戦中。2018年8月国連 Global Climate Action Headより活動に感謝状を受領。12月にはCOP24 Katowiceに招待参加。京都スマートシティEXPO2018や第6回「スポーツ国際開発」国際シンポジウムに登壇。その他、講演多数。
米国Green Sports Alliance
米国Green Sports Allianceは、2010年、マイクロソフト社の創設者の一人であるポール・アレン氏によって設立された非営利法人。スポーツを通じて健康で持続可能な社会を構築することを使命に、スポーツによる社会課題解決・SDGs実現の取り組み事例を広く社会に提供する活動を続けている。創立9年となり、メンバー団体(プロ・アマのスポーツチーム、学生チーム、スポーツリーグ、スタジアム・アリーナ等の運営管理団体、協賛企業、NPO/NGOなど)は600超。加盟プロリーグは15団体を超えている。

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