岸田文雄首相は2021年に「デジタル田園都市国家構想」を打ち出し、地方が抱える社会課題をデジタル実装によって解決する施策を積極的に推進する方針を明らかにした。スーパーシティ、スマートシティも、デジタル田園都市国家構想を先導するプロジェクトに位置付けられている。政府が掲げる「2025年度までに100地域でスマートシティを実現する」という目標に向けて、2022年度も様々な施策が展開される予定だ。2022年度(令和4年度)の各省庁の予算案から、スマートシティ分野への取り組みを見ていく。

 本稿では、2022年度の予算案の中から、スマートシティと関わりが深い主要な施策を省庁別にまとめた(表1)。さらに、スマートシティに関連する様々な施策もピックアップしている(表2)。


表1■スマートシティ関連の主要施策(2022年度予算案) → こちらへ
表2■スマートシティに関連がある項目(2022年度予算案) → こちらへ


 地域と事業者と国が一体となって「まるごと未来都市」の実現を目指すスーパーシティについては、つくば市(茨城県)と大阪市*の指定が“内定”した。国は22年3月4日に「第3回スーパーシティ型国家戦略特別区域の区域指定に関する専門調査会」を開催、それぞれの構想の区域を特区に指定することが了承されている。専門調査会では、吉備中央町(岡山県)、茅野市(長野県)、加賀市(石川県)を「デジタル田園健康特区(仮称)」に指定する方針も確認された。この3つの自治体は、いずれもスーパーシティに応募していた。今後、「国家戦略特別区域諮問会議」での審議の後、閣議決定を経て正式に決定することになる。 (関連記事:つくば市と大阪市を国がスーパーシティに指定へ

* 大阪府と市が共同で提案。特区指定候補区域は大阪市となる。
スーパーシティ構想の概要(資料:内閣府)
スーパーシティ構想の概要(資料:内閣府)
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スーパーシティに応募した31の自治体(資料:内閣府)
スーパーシティに応募した31の自治体(資料:内閣府)
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 スーパーシティ構想に関して、内閣府は昨年度とほぼ同額の3億円(ほかに21年度の補正予算で7.1億円)を予算化した。選定都市が決まれば、スーパーシティ構想に不可欠な「データ連携基盤」の調査・実証、基本構想の作成などを支援する。基本構想の作成に当たっては、区域住民やその他の利害関係者の意向を確認する必要があり、周知方法などが計画を進める大きなポイントになりそうだ。内閣府のスマートシティ関連施策では、21年度に引き続き「未来技術社会実装事業」も継続する。地域におけるSociety5.0 の推進に向けて、シンポジウムなどの普及啓発の取り組みを支援するものだ。

スマートシティに使えるデジタル田園都市国家構想の交付金

 2022年度は、「デジタル田園都市国家構想推進交付金」がスマートシティ施策の目玉になりそうだ。 (関連記事:<ポイント解説>デジタル田園都市の推進、自治体に交付金200億円)

 「デジタル田園都市国家構想推進交付金」は「デジタルを活用した、意欲ある地域による自主的な取組を応援するため、デジタルを活用した地域の課題解決や魅力向上の実現に向けて、国が交付金により支援する」もの。オープンデータ基盤の活用を図る「デジタル実装タイプ」と、サテライトオフィスの整備など「地方創生テレワークタイプ」の2つに分けて支援を進める。

 「デジタル実装タイプ」は成熟度によって3つのタイプに分類されており、このうち、データ連携基盤を活用して複数のサービスを実装するTYPE2、TYPE3については、各地のスマートシティプロジェクトも対象となる。実施計画の募集をまもなく開始する予定。3月1日時点で「要件などを最終調整中だ」(内閣府地方創生推進室)という。1事業当たりの交付上限額はTYPE2が2億円、TYPE3が6億円で、補助率はTYPE2が2分の1、TYPE3が3分の2だ。地方負担分については新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金を充当できる。

デジタル田園都市国家構想推進交付金(資料:デジタル庁)
デジタル田園都市国家構想推進交付金(資料:デジタル庁)
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地方の実情に即した制度へと変わる「国交省のモデルプロジェクト」

 一方、スマートシティ関連の施策で先行しているのが、国交省の「スマートシティモデルプロジェクト」だ。2019年(令和元年)にスタートし、牽引役となる「先行モデルプロジェクト」として、21年度は全国27事業を支援している。実証事業を通じて、スマートシティの実装に向けたノウハウ・課題の蓄積などを進めてきた。

 2022年度は従来の「国直轄事業」だったものを「補助事業」(スマートシティ実装化支援事業)に切り替える予定だ。これまでは国の依頼を受けて、地方自治体が実証実験を請け負う体裁になっていた。補助事業になると、地方主体の取り組みに国が補助金を支給する形に変わる。国交省によると、補助事業になることで地域の実情に即した実証事業が期待できるという。事業の対象者は民間企業および地方公共団体を構成員に含む協議会(コンソーシアム)だ。2000万円を上限とする定額補助を予定している。2022年度の予算額は昨年度の2.2億円から2.8億円に増額する。

スマートシティモデルプロジェクト(スマートシティ実装化支援事業)の概要(資料:国土交通省)
スマートシティモデルプロジェクト(スマートシティ実装化支援事業)の概要(資料:国土交通省)
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次世代モビリティの整備も進める

 次世代モビリティ関連の予算も目立つ。政府が25年をめどに自動運転の「レベル4」を目指すなか、22年度はいよいよ地域の移動サービスで自動運転車の運行に関する認可制度が始まり、高齢者などの利用が見込まれる地域の特定ルートで実用化する。こうした流れを受けて、国交省や経産省では、AI・IoTを活用したMaaSの推進や無人自動運転サービスに大きく予算を確保している。

 国交省は22年度も日本版MaaS推進・支援事業を継続する。7300万円を予算化した。シェアサイクルや電動キックボード、グリーンスローモビリティをはじめとする新しいモビリティの導入を支援するほか、ICカード、タッチ決済などの「決済手段」、「AIオンデマンド交通」など、広域にわたる先進的なMaaSなどのサービス導入を支援する。経済産業省は、「無人自動運転等のCASE対応に向けた実証・支援事業」の予算額58.5億円の内数から「地域新MaaS創出推進事業」を展開する方針だ。地域課題の解決と全国への横展開のモデルとなる先進事例の創出を目的として、高度なMaaS実証を委託事業として進めていく。

地域新MaaS創出推進事業の概要(資料:内閣府)
地域新MaaS創出推進事業の概要(資料:内閣府)
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 総務省も、従来の「データ連携推進型スマートシティ推進事業」を22年度も4.6億円で予算化した。都市OSの整備などのデータ活用によって、防災、セキュリティ・見守り、買い物支援などの地域が抱える課題の解決を目指す地域を補助するもの。事業内容は21年度と大きな変更はないが、名称を「地域課題解決のためのスマートシティ推進事業」に変更して「地域課題解決」という目的をより鮮明にする。

5Gなどのインフラ整備も

 主要施策以外に、スマートシティに関連する施策を各府省の予算案からピックアップすると、新たな傾向も見えてくる(表2)。

 総務省は、まち全体のデジタル化を進める上で欠かせないデータ連携基盤や通信網として、引き続き5G基地局や光ファイバ、ローカル5Gなどの整備に力を入れる。さらに22年度は新規でBeyond5Gの研究開発に100億円を予算化した。Beyond 5Gの実現に必要な要素技術(超高速・大容量、超低遅延、超多数同時接続、超低消費電力等)について、民間企業や大学等への公募型研究開発を実施する。

 都市の様々なサービスでDXが進むと、利用者側のデジタルデバイド(情報格差)と、提供する側のデジタルリテラシーの問題も出てくる。デジタル田園都市構想でもデジタル人材の育成も主要課題として掲げており、各省庁ではデジタル人材育成や、高齢者へのデジタル活用に関する講習などを強化している。総務省は、「高齢者等に向けたデジタル活用支援の一層の推進」に21.1億円を予算化し、21年度の4.7億円から大幅に増やした。経産省は、地域のデジタル人材の育成と確保に13.6億円(21年度補正)を活用する。

 モビリティに関しては、クリーンエネルギーの活用推進も目立つ。経済産業省は「クリーンエネルギー自動車導入事業費補助金」(155億円)、「燃料電池自動車の普及促進に向けた水素ステーション整備事業費補助金」(10億円)などを予算化した。2050年カーボンニュートラル実現に向けて、モビリティのデジタル化、自動化とともに、クリーンエネルギーの推進が期待できる。

 経産省の「次世代空モビリティの社会実装に向けた実現プロジェクト」(29.3億円)は、ドローンや空飛ぶクルマの技術開発、実証、安全性の評価手法の実現に向けて、22年度に新たに予算化。災害時の物資・人員輸送、過疎地の配送・移動手段確保などの取り組みなどが想定されている。

次世代空モビリティの社会実装に向けた実現プロジェクトの概要(資料:経済産業省)
次世代空モビリティの社会実装に向けた実現プロジェクトの概要(資料:経済産業省)
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 そのほか、建設分野での3D都市モデルのオープンデータ化、医療分野のPHR(パーソナルヘルスレコード)と遠隔医療、防災分野の3DハザードマップやLアラートの活用など、様々な分野でデジタル化推進のための予算が設定されている。内閣府のWell-beingに関する意識調査」(0.4億円)も興味深い。スマートシティ、スーパーシティでは、住民の「Well-being」の向上が目的の一つ。分析結果は今後の政策やまちづくりにも参考になりそうだ。

表1■スマートシティ関連の主要施策(2022年度予算案)

22年度予算額 21年度予算額 取り組み内容
3億円
(ほかに21年度第3次補正予算で7.1億円)
3億円
(ほかに20年度第3次補正予算で7億円)
AIやビッグデータ等を活用し、世界に先駆けて、未来の生活を先行実現する「まるごと未来都市」 を目指す「スーパーシティ」構想の実現に向け、関係府省庁と連携し、選定都市における先端的サービスの構築、データ連携基盤の整備、事業計画の作成支援等を実施する。2022年2月9日に専門調査会を開催。まもなく区域指定される見込み。
22年度予算額 21年度予算額 取り組み内容
0.8億円の内数 0.8億円の内数 Society5.0の実現や地域へのデジタル実装を早期に進めるため、地方公共団体へのハンズオン支援による未来技術の社会実装の推進を図る。
22年度予算額 21年度予算額 取り組み内容
(21年度補正予算で200億円) なし 地⽅公共団体のデジタル実装を⽀援するもの。交付対象の事業は「デジタル実装タイプ」と、サテライトオフィスの整備など「地⽅創⽣テレワークタイプ」の2通りがあり、「デジタル実装タイプ」は「デジタルを活⽤して地域の課題解決や魅⼒向上に取り組む」事業に交付金で支援する。
22年度予算額 21年度予算額 取り組み内容
2.8億円
(ほかに21年度第3次補正予算で1.4億円)
2.8億円 スマートシティの実装化を加速するため、スマートシティモデルプロジェクトに対する重点的な支援を行う。さらに、先駆的なサービス・技術や、推進体制、資金持続性等に関するノウハウを調査するとともに、自治体へのノウハウ支援、官民のマッチング支援等を行う。従来は「国直轄事業」だったが、2022年度は制度を「補助事業」とする予定。より地域の実情に即した実証事業が期待できる。事業は2000万円を上限とする定額補助を予定。
22年度予算額 21年度予算額 取り組み内容
0.7億円
(ほかに21年度補正予算285億円の内数)
1億円
(ほかに20年度第3次補正予算で約305億円の内数)
ポストコロナにおけるヒト・モノの移動ニーズの変化に対応するため、AI・IoT 等の新技術 を活用した次世代モビリティの普及等を促進する。2022年度は面的な移動サービスの利便性向上、高度化や、面的に高度なMaaSの取組への支援を検討。
22年度予算額 21年度予算額 取り組み内容
4.6億円 5.8億円 地域が抱える様々な課題(防災、セキュリティ・見守り、買物支援など)をデジタル技術やデータの活用によって解決することを目指すスマートシティの実装を関係府省と一体的に推進。2021年度の「データ連携推進型スマートシティ推進事業」から「地域課題解決」を前面に出した名称に変更し、より地域の実情に合わせた都市づくりを進める。
22年度予算額 21年度予算額 取り組み内容
58.5億円の内数 57.2億円の内数 「無人自動運転等のCASE対応に向けた実証・支援事業」予算58.5億円の内数。自動化・電動化等のCASEによる技術革新を早期かつ広範に地域課題・社会課題の解決へとつなげるべく、物流・人流を含むモビリティバリューチェーンの変革に資するような、高度なMaaS実証等を地域単位・分野単位で実施。

表2■スマートシティに関連がある項目(2022年度予算案)

省庁 関連事業/項目 22年度予算 21年度予算
総務省 自治体DX(自治体情報システム標準化・共通化等)の推進*1 5億円 4.5億円
総務省 Beyond5Gの研究開発*1 100億円 なし
総務省 ローカル5Gによる課題解決の促進*1 40億円 60億円
総務省 グリーン社会に資する光ネットワークの研究開発*1 14億円 なし
総務省 多言語翻訳技術の高度化に関する研究開発*1 12.7億円 14億円
総務省 高齢者等に向けたデジタル活用支援の一層の推進*1 21.1億円 4.7億円
総務省 遠隔医療の推進*1 5億円 5.8億円
総務省 Lアラートの活用推進*1 0.5億円 0.5億円
内閣府 Well-beingに関する調査*2 0.4億円 0.1億円
経済産業省 次世代空モビリティの社会実装に向けた実現プロジェクト*3 29.3億円 なし
経済産業省 地域デジタル人材育成・確保推進事業*3 13.6億円(21年度補正) なし
経済産業省 AI・IoT等を活用した更なる輸送効率化推進事業費補助金*3 62億円 62億円
経済産業省 地域未来DX投資促進事業*3 15.9億円 11.7億円
経済産業省 クリーンエネルギー自動車導入事業費補助金*3 155億円 155億円
経済産業省 燃料電池自動車の普及促進に向けた水素ステーション整備事業費補助金*3 90億円 110億円
国土交通省 自動車の電動化等の促進*4 4億円 4.6億円
国土交通省 デジタルトランスフォーメーションの推進*4 51億円 30億円
国土交通省 オープンデータ・イノベーション等によるi-Constructionの推進*4 10億円 10億円
国土交通省 地域公共交通サービスの確保等に対する支援*5 207億円 206.3億円
国土交通省 次世代モビリティ・物流DXの推進*5 1.4億円 1.7億円
国土交通省 ドローン等の交通運輸技術開発・利活用の推進*5 2.4億円 1.6億円
国土交通省 まちなかウォーカブル推進事業*6 3.5億円 2億円
国土交通省 都市空間情報デジタル基盤構築支援事業*6 7億円 なし
国土交通省 都市空間情報デジタル基盤構築調査*6 5億円 なし
国土交通省 スマートシティ実装化支援事業*6 2.7億円 なし
国土交通省 スマートシティ実装化支援調査*6 0.15億円 なし
国土交通省 スマートアイランド推進実証調査*7 1.6億円 1.5億円
国土交通省 国土強靱化に資するDXの推進*8 77億円
国土交通省 無人自動運転サービスの全国展開*9 0.2億円 0.2億円
国土交通省 DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進による観光サービスの変革と観光需要の創出*10 7.8億円 8億円
(注)
2022年度予算は、当初予算額。
*1:2022年度予算額は、総務省資料「令和4年度総務省予算(案)の概要」(令和3年12月)より抽出。令和3年度補正予算の組み入れ有無は不明。
*2:2022年度予算額は、内閣府資料「令和4年度予算(案)の概要」(令和3年度12月)より抽出。令和3年度補正予算の組み入れ有無は不明。
*3:2022年度予算額は、経済産業省資料「令和3年度補正予算・令和4年度当初予算案のポイント」(令和3年度12月)より抽出。令和3年度補正予算の組み入れ有無は不明。
*4:2022年度予算額は、国土交通省資料「令和4年度予算概要」(令和4年1月)より抽出。令和3年度補正予算を含まない。
*5:2022年度予算額は、国土交通省資料「令和4年度総合政策局関係予算概要」(令和4年1月)より抽出。令和3年度補正予算を含まない。
*6:2022年度予算額は、国土交通省資料「令和4年度都市局関係予算概要」(令和4年1月)より抽出。令和3年度補正予算を含まない。
*7:2022年度予算額は、国土交通省資料「令和4年度国土政策局関係予算概要」(令和4年1月)より抽出。令和3年度補正予算の組み入れ有無は不明。
*8:2022年度予算額は、国土交通省資料「令和4年度水管理・国土保全局関係予算概要」(令和4年1月)より抽出。令和3年度補正予算の組み入れ有無は不明。
*9:2022年度予算額は、国土交通省資料「令和4年度自動車局関係予算概要」(令和4年1月)より抽出。令和3年度補正予算を含まない。
*10:2022年度予算額は、国土交通省資料「令和4年度観光庁関係予算概要」(令和4年1月)より抽出。令和3年度補正予算の組み入れ有無は不明。

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