東日本大震災からの復興を契機に、2011年8月に福島県会津若松市を拠点に会津若松市、会津大学、アクセンチュアをはじめ地元企業の産官学連携プロジェクトとしてスタートした「会津若松スマートシティ」。震災から10年の節目を迎え、2021年2月17日、アクセンチュアによる記者向け勉強会「福島県会津若松市での震災復興支援、そしてスマートシティに向けた取り組み」がオンラインで開催され、これまでの成果や展望が報告された。その内容を中心に「会津若松スマートシティ」のポイントをまとめた。

オンラインで登壇したアクセンチュア イノベーションセンター福島 センター共同統括 マネジング・ディレクターの中村彰二朗氏(出所:アクセンチュア)
オンラインで登壇したアクセンチュア イノベーションセンター福島 センター共同統括 マネジング・ディレクターの中村彰二朗氏(出所:アクセンチュア)
会津若松市の位置
会津若松市の位置

 福島県は太平洋側から浜通り、中通り、会津地方の3エリアで構成される。内陸部に位置する会津地方は、県全体の約45%を占める面積に、約28万人が山間部や市街地の17市町村に点在して暮らしている。アクセンチュアは2011年8月、会津地域の中心である人口約12万人の会津若松市にイノベーションセンター福島を設置した。

 会津地域を実証フィールドにスマートシティに取り組むことで、超少子高齢化や医療費の拡大、産業の低生産性など日本全体の課題解決につなげる――。そのため、プロジェクトではまちを元通りにする復興ではなく、地域資源を活かした「地方創生」と先端デジタル技術によって「自立分散社会」を具現化するスマートシティの実現を目指している。

 イノベーションセンター福島のセンター共同統括 マネジング・ディレクターの中村彰二朗氏は、「会津地域は医療、教育、交通など多くの分野で遠隔サービスのニーズが見込まれ、デジタル化の実証に向いていた」と話す。歴史や自然などの観光資源に加え、再生可能エネルギーの取り組み、ICT専門の会津大学の存在、充実した医療環境など、会津地域の様々な地域資源はスマートシティを推進するうえで十分なポテンシャルを感じさせるものだったという。

「オプトイン型データ収集」と「都市OS標準化」がポイント

 会津若松スマートシティでは「モビリティ」「フィンテック」「教育」「ヘルスケア」「エネルギー」「観光」「食・農業」「ものづくり」「防災」の9領域で、ビッグデータを活用したデジタル化を進め、地域全体の連携や効率化を図っている。そこでは市民を中心とし、地域主導で進めることにこだわってきた。プロジェクトが徹底してきた点が2つある。「都市OSの標準化」と「オプトイン型データ収集」だ。

会津若松スマートシティの概要図。スマートシティのサービスで使用されるビッグデータは、アクセンチュアを含む複数の企業・団体で構成される一般社団法人スマートシティ会津が管理。公共性が高くガバナンスが確保された体制を構築している(出所:アクセンチュア)
会津若松スマートシティの概要図。スマートシティのサービスで使用されるビッグデータは、アクセンチュアを含む複数の企業・団体で構成される一般社団法人スマートシティ会津が管理。公共性が高くガバナンスが確保された体制を構築している(出所:アクセンチュア)

 会津若松スマートシティでは、スマートシティの基盤となるデータプラットフォーム「都市OS」(データ連携基盤)の標準化を基本方針としてきた。都市OSとは、共通のAPI(Application Programming Interface)やデータモデルなどを策定し、複数の先端的サービス間でデータを連携させる仕組みのこと。これを標準化することで、異なるスマートシティ同士の連携や、スマートシティ外でも汎用的な相互運用性を確保できる。政府のスーパーシティ構想においても、都市OSは中核的な役割として位置付けられており、会津若松の都市OSでは将来のスマートシティ間の連携、他の都市への展開を視野に入れて、個別システムをつくらずに標準化・共通化を進めてきた。

 会津若松で実装されている都市OSは、内閣府が進めるスマートシティリファレンスアーキテクチャ(スマートシティが連携できるように、基本的な設計図をフォーマット化したもの。スーパーシティ構想でも活用される)でも言及されている。2021年5~6月には千葉県市原市、宮崎県都農町、沖縄県浦添市でも導入される予定で、すでに運用されている会津若松市と奈良県橿原市を含めると5自治体に拡大する。

スーパーシティにおける都市OSのイメージ。図の「データ連携基盤」が都市OSにあたる(資料:内閣府内閣府地方創生推進事務局「『スーパーシティ』構想について 令和3年3月」)
スーパーシティにおける都市OSのイメージ。図の「データ連携基盤」が都市OSにあたる(資料:内閣府内閣府地方創生推進事務局「『スーパーシティ』構想について 令和3年3月」)

 そして、市民が主導する「オプトイン型データ収集」も徹底してきた。スマートシティでは都市OSを構築し、人々から収集した様々な種類のオープンデータを地域課題の解決や生活利便性向上に活用する。そして民間事業者はそのためのサービスを提供して利益を得る。個人(市民・住民)、地域、産業・企業それぞれにメリットがもたらされることから、会津若松スマートシティでは「三方良し」と表現している。これを実現するためには、移動や購買などの行動履歴、健康情報、電気使用量など、個人に紐付いたデータをいかに活用できる形で収集するかが重要になる。

 会津若松スマートシティでは、例えば、まちなかに設置したセンサーやカメラで自動的にデータを吸い上げる方法ではなく、IDを付与された市民がサービスの利用時に自らの意思で承認してデータを共有する「オプトイン」によってデータを収集している。そこには、「日々のデータの発生源は市民であり、その所有者は市民」という考え方がある。中村氏は、市民参加型のスマートシティではオプトインが必須であると述べ、情報の共有によってより良い住民サービスを享受できたり、地域と次世代のために有効活用されたりすることが理解されると、市民からの主体的なデータ提供も進むと強調した。

市民・住民が納得いく形でのデータ活用・管理を進めている(資料:アクセンチュア)
市民・住民が納得いく形でのデータ活用・管理を進めている(資料:アクセンチュア)
オプトイン型データ収集のイメージ図(資料:内閣府「まち・ひと・しごと創生会議(第21回)」。アクセンチュア作成)
オプトイン型データ収集のイメージ図(資料:内閣府「まち・ひと・しごと創生会議(第21回)」。アクセンチュア作成)

ICTオフィス「AiCT」に大手企業含む約30社が集積

 10年の取り組みを経て、スマートシティは市民の生活に着実に浸透してきた。例えば、2015年12月に開設された行政と市民のコミュニケーションポータルサイト「会津若松+(プラス)」を通して、地域IDを取得した市民がよりパーソナライズされた地域情報・行政情報のほか、実証実験参加者募集といったスマートシティ関連情報などの提供を受けている。IDを取得した市民はすでに1万1000人以上に上り、サイトの年間ユニークユーザー数(延べ人数ではない実際の閲覧者数)は14万人を超えた。会津若松市は人口約12万人。サービスが、市の周辺の生活圏の人々にも広がっていることが分かる。

スマホアプリ「あいづっこ+」の画面
スマホアプリ「あいづっこ+」の画面

 教育分野では、個別の学校の活動情報や家庭への連絡を直接受け取ることができるアプリ 「あいづっこ+(プラス)」が、新型コロナ禍で自宅学習を強いられたこともあって、より広く活用されている。エネルギー分野ではスマートメーター(データ連携を可能にした電力消費測定装置)を介して電力消費量を見える化すること で、登録した家庭の消費電力を27%削減した。観光分野では、外国人向けに観光情報サイト 「Visi+Aizu(ヴィジットアイヅ)」などデジタルを活用したアプローチの推進により、2015年に3400人あまりだった外国人宿泊数が2019年時点では2万5000人へと7.3倍に飛躍的に増えた。

 一方、企業の会津地域への機能移転も進んできた。データの利活用による新たな産業の創出と首都圏からの機能移転を目的に、2019年4月に市内にオープンしたICTオフィス「AiCT(アイクト)」(*1)は、2021年2月時点でアクセンチュアやソフトバンク、セイコーエプソン、三菱商事など29社が入居。全体で約400人が勤務しているという。

*1 敷地面積9496m²、オフィス棟(鉄筋造4階建て)と交流棟、機械室棟、駐車場、駐輪場で構成される公民連携の施設。土地は会津若松市、建物は民間企業のAiYUMU(あゆむ、会津若松市)と市が共同で所有し、管理運営はAiYUMUが担当する。
AiCTの概要(「会津若松市スーパーシティ構想に係る事業案 令和3年2月12日時点」(会津若松市)より
AiCTの概要(「会津若松市スーパーシティ構想に係る事業案 令和3年2月12日時点」(会津若松市)より
[画像のクリックで拡大表示]

会津若松からスマートシティモデルを全国展開へ

 都市OSの標準化、オープンデータなど、デジタル化への理解が進んだ会津若松だからこそ、新しい実証フィールド(*2)を求めて首都圏や海外からの企業の機能移転につながっている。アクセンチュアの中村氏は「スマートシティに必要なデジタル人材の専門性が変化してきており、スマートシティに欠かせないAPIエンジニアやデータサイエンティストが日本にはまだ不足している」と言及し、会津若松スマートシティでは会津大学との連携により、「地域で育成したデジタル人材が確保できることも企業にとってメリットになっている」と語った。

*2 例えば最近では、AiCTに入居するオリックス自動車が2021年3月、AiCT入居企業の従業員および関係者に利用者を限定してのカーシェア実験を開始している(発表資料

 現在も会津若松スマートシティでは、さまざまな実証プロジェクトが動いている。ヘルスケア分野では、会津地域全体をバーチャルな医療機関と捉え、市民の健康状態をAIで把握し、疾患や症状に最適な医師や病院をマッチングする包括ケア体制の構築が進む。防災分野においても、デジタル化で災害被害を最小化するソリューションとして、災害時に市民のスマートフォン位置情報から最適な避難所に誘導する仕組みを2021年2月末より試験導入している。こうした取り組みに並行して、内閣府が推進するスーパーシティ構想にも応募する予定だ。

スーパーシティ構想応募を宣言する市のウェブページ
スーパーシティ構想応募を宣言する市のウェブページ
会津若松市のスーパーシティ構想への応募に向けた体制(「会津若松市スーパーシティ構想に係る事業案 令和3年2月12日時点」(会津若松市)より
会津若松市のスーパーシティ構想への応募に向けた体制(「会津若松市スーパーシティ構想に係る事業案 令和3年2月12日時点」(会津若松市)より
[画像のクリックで拡大表示]
徳永 太郎(とくなが・たろう)
日経BP 総合研究所 社会インフララボ所長
徳永 太郎(とくなが・たろう) 1989年、日経BP入社。日経アーキテクチュア、日経不動産マーケット情報編集長、日経ビジネス副編集長などを経て、2017年から日経BP 総合研究所 ビジョナリー経営ラボ所長。2019年1月より現職。不動産流動化・賃貸オフィスマーケット分析や都市開発などの分野に関する分析・調査を担当。著書に『スマートシティ2025 ビジネスモデル/ファイナンス編』(共著)など。

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/021900032/031100003/