ウォーカブルな環境は健康にポジティブな関連を示す

 世界中の数百の研究論文で、ウォーカブルな近隣環境が、身体活動以外にも死亡、うつ、肥満、循環器疾患など多くの健康指標とポジティブな関連を示すことが報告されている。

 海外21カ国からの100編の研究を基に、近隣環境を6つのカテゴリーに分け26の要因に整理した論文もある(Barnett D W, et al., 2017)*2 。高齢者の歩行など身体活動量に良い影響を与えている要因には、「歩きやすさ」「緑や美しい町並み」「目的地やサービスへのアクセス」「歩行者に優しいインフラ」「犯罪や安全性」「公園やオープンスペース」「レクリエーション施設」「店舗や商業施設」「公共交通機関」がある。

 日本の高齢者を対象としたJAGESでも、以下のような近隣環境要因と健康との関連が明らかになっている(JAGES のウエブサイト参照)。近隣環境で個人の行動が変化し、心血管疾患や体格指数(BMI:ボディマス指数)など身体/心理的要因の改善を経て、要介護リスクなどの健康アウトカム/結果に至るプロセスを図2に整理した。13編の論文(①~⑬)について、1時点のデータを用いた横断分析の結果を細線の両矢印↔で、より強く因果関係を示唆する追跡調査による縦断研究を太い線の片矢印→で表した。

図2 高齢者の健康の近隣環境要因(出典:筆者作成)
図2 高齢者の健康の近隣環境要因(出典:筆者作成)
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 1)行動要因:近隣環境の整備により、最初に変化する個人の行動として、歩きやすさ(ウォーカビリティ)が高い地域に居住する高齢者は外出頻度や歩行量が多く(図2-①)、生鮮食料品店が多くアクセスしやすい環境ほど野菜や果物の摂取頻度が多く(図2-②)、近くにサロンができると参加率が高くなり(図2-③)、気軽に立ち寄ることができる家や施設が多いほど睡眠の質が良い(図2-④)。

 2)身体/心理的要因:近隣環境が良いと、BMIが改善され(図2-⑤)、飲食店が密集している地域への移住を余儀なくされた被災者で肥満の増加(図2-⑥)、坂や段差などが多い近隣に居住する高齢者には中等度以上の糖尿病が少なく(図2-⑦)、緑が多く小学校の近くに居住している高齢者でうつが少ない(図2-⑧⑨)。

 3)健康アウトカム:近くにサロンが多数でき参加するようになった高齢者で主観的健康感が良い人が多く要介護認定率が低く(図2-⑩⑪)、近隣に生鮮食料品店が多いほど要介護を受けにくく(図2-⑫)、車を利用しない人で死亡率が低かった(図2-⑬)。

健康なまちづくりにデータを活用

 このように環境と健康の関連を活用する動きは国内外で始まっている。ウォーカブルなまちづくりの例に「ニューヨーク・タイムススクエア」がある。元々交通事故が多発していた地域を2009年から歩行者を中心とした都市空間に変えたことにより、歩行者数が増え、交通事故も減り、さらに、空気の質も向上した。

 日本でも国土交通省が「居心地が良く歩きたくなるまち」を中心に「まちなかへ多様な人を集める」、「多様性を共存させる」など10の構成要素を基に今後のまちづくりの方向性を打ち出した。また工学、予防医学の研究者によって、日本の都市における身体活動の促進・阻害要因を踏まえ、身体活動を促すまちづくりを普及するためのデザインガイド(身体活動を促すまちづくりデザインガイド)が発刊されている。

 暮らしているだけで健康になるまちづくりを進めるために、地域環境の現状や課題を把握し、まちづくりガイドを参考にしつつ介入施策を立案・実施し、健康指標と共に変化をモニタリング・評価することが重要である。また、ハードな環境のみならず、社会参加や人的交流の創出などのソフト面と共にまちづくりをしていくことが重要である。

 健康なまちづくりは、ステークホルダーである「自治体・住民」「デベロッパー・企業」「大学・研究機関」などがそれぞれの役割を担って連携して目標・取り組みを創出し評価結果を共有することが大切である。ビッグデータを活用し環境が健康に与える影響に関するエビデンスを創出し、「暮らしているだけで健康になれるまちづくり」に引き続き貢献したい。

引用文献
1.Tani Y, Hanazato M, Fujiwara T, Suzuki N, Kondo K. (2021). Neighborhood sidewalk environment and incidence of dementia in older Japanese adults: the Japan Gerontological Evaluation Study cohort. American Journal of Epidemiology, kwab043.
2.Barnett D W, Barnett A, Nathan A, Van Cauwenberg J, Cerin E. (2017). Built environmental correlates of older adults’ total physical activity and walking: A systematic review and meta-analysis. International Journal of Behavioral Nutrition and Physical Activity, 14(1).

コラム監修:日本老年学的評価研究(Japan Gerontological Evaluation Study,JAGES)
1999年以来、3~4年に一度、高齢者を対象にする調査を市町村と共同して繰り返してきた。2018年に一般社団法人 日本老年学的評価研究機構を設立し、全国約200市町村の延べ75万人の高齢者データを活用した産官学連携研究に取り組んでいる。URL: https://www.jages.net/