なぜ介護予防政策は見直しされたのか

 日本の介護予防政策は、2015年に大きな見直しがなされた。それまでのハイリスク者を選別して介護予防教室に誘う「ハイリスクアプローチ」から、すべての高齢者を対象にする「ポピュレーションアプローチ」の考え方に基づくものに重点がシフトした。

 具体的には、住民主体の通いの場づくりをはじめとする一般介護予防事業が導入された。なぜ、見直しがされたのか。その理由や関連するエビデンス、その後の効果検証、社会実装に向けた動きを紹介する。

 介護保険導入後に増え続ける要介護認定者を抑制しようと、2006年に介護予防重視システムが導入された。健診会場や基本チェックリストの郵送調査で、ハイリスクな高齢者を特定し、その人たちを介護予防教室に誘うことになった。厚生労働省は高齢者人口の5%程度の参加を見込んでいたが、2014年度になっても0.8%に留まっていた。その理由として、多額の費用をかけて対象者を選別して誘っても「私は元気」と言って、介護予防教室に参加してくれないことなどが指摘された。

 一方で、JAGES(日本老年学的評価研究)などの研究によって、社会参加をしている高齢者が多いまちでは、要介護リスクを持つ人が少ないことが明らかとなってきた。これらが相まって、介護予防政策の見直しがなされたのであった。

年数回以上の狭義・広義の通いの場参加で要介護リスク抑制

 見直しが論議されていた当時は、まだ一時点の横断データの分析による知見であった。その後、縦断追跡データを用いて、不健康な高齢者を対象から外して分析することで、「逆の因果関係(不健康だから参加できない)」を除き「参加しない人ほど要介護認定を受ける」という関係が多くの研究で裏付けられてきた。

 社会参加先には、いろいろなものがある。そこで、以下では、市町村が支援して介護予防を目的に、体操や茶話会、趣味活動などを住民主体で運営する通いの場を「狭義の通いの場」、行政が財政的支援を行っていないフィットネスクラブや有償ボランティア、就労などの取り組みを「広義の通いの場」に分けて*1、エビデンスを紹介する。

 JAGESが全国23市町と共同実施した調査で、要介護認定を受けていない65歳以上高齢者約9万人に社会参加の種類や数をたずねた。虚弱な高齢者を分析対象から除いて、約3年間追跡し、要介護認定発生リスクとの関連を検証した。

 その結果、参加グループの種類の数が増えるにつれて、男性で26~40%、女性で16~33%と要介護リスクが抑制されることが明らかになった(図1)。さらに、狭義・広義の通いの場を含む14種類の社会参加のうち、男性で8種類、女性で11種類の社会参加で要介護リスクが統計学的に有意に低いという関連がみられた*2。介護予防を目的としていない、就労や地域行事であっても、男女ともに、参加している者で、要介護リスクが抑制されていることが明らかになった。

図1 年数回以上の社会参加で要介護リスク抑制男性26~40%、女性16~33%に(出典:東馬場要(千葉大学)、JAGES Press Release No: 293-21-31)
図1 年数回以上の社会参加で要介護リスク抑制男性26~40%、女性16~33%に(出典:東馬場要(千葉大学)、JAGES Press Release No: 293-21-31)
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 厚生労働省「一般介護予防事業等の推進方策に関する検討会」の取りまとめでは、今後の課題として「PDCAサイクルに沿った取組の在り方」を掲げた。しかし、要介護認定発生をアウトカムとした研究は、対象者が数百人から数千人の場合、3年以上の長期間の追跡が必要となる。自治体がPDCAサイクルに沿った取り組みを行うためには、より短期間で効果評価が可能な予測指標があることが望ましい。

 そこで、JAGESは要介護リスクを予測する方法として「要支援・要介護リスク評価尺度(以下、要介護リスク尺度)」を開発した。要介護リスク尺度は、厚労省がひな型を示し、多くの介護保険者(市町村・広域連合)が3年に1度実施している「介護予防・日常生活圏域ニーズ調査」に含まれる高齢者の手段的日常生活動作(IADL)、運動機能、栄養状態、外出頻度などの10項目と性・年齢を含めた計12項目によって構成されている。この尺度は多数の自治体データによって要介護認定の予測妥当性が実証されており、約3年以内の新規要支援・要介護認定発生のリスクを評価することが可能である。