まちづくりに活用が進む「成果連動型民間委託契約方式(PFS)」

 本コラムの第2回と第3回でも触れたように、公民連携を推進する方策として「成果連動型民間委託契約方式(PFS: Pay for Success)」が注目されている。PFSとは、行政機関が民間事業者に業務委託をする際に、その事業により解決を目指す「行政課題」に対応した「成果指標」が設定され、成果指標値の改善状況に連動して委託費などを支払う手法である。仕様に則り事業者に一定額を支払う従来の業務委託と比べて、成果に連動して報酬が増えることから、民間事業者がより成果を高めようとするインセンティブが強く働くことが期待されている。

PFSと従来の業務委託の比較。PFSにおける成果指標は第三者の評価機関が評価する(評価機関を置かない場合もある)。また、PFSのうち、金融機関などの資金提供者から事業者が資金を調達し、資金の返済などが成果指標値の改善状況に連動して行われる手法を「ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB: Social Impact Bond)」と呼ぶ(資料:内閣府)
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PFSと従来の業務委託の比較。PFSにおける成果指標は第三者の評価機関が評価する(評価機関を置かない場合もある)。また、PFSのうち、金融機関などの資金提供者から事業者が資金を調達し、資金の返済などが成果指標値の改善状況に連動して行われる手法を「ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB: Social Impact Bond)」と呼ぶ(資料:内閣府)

 2019年に内閣府成果連動型事業推進室が発足し、PFSの活用が進められてきた。内閣府が実施した調査によると、2020年度末時点で68団体がPFS事業を実施しており、今後も増加が見込まれる。

 本連載を監修する日本老年学的評価研究(JAGES)機構は、いくつかのPFS事業に第三者評価機関として関わっている。例えば、大阪府堺市の「介護予防『あ・し・た』プロジェクト」、愛知県豊田市の「ずっと元気!プロジェクト」、岡山県岡山市の「SIBを活用した健康ポイント事業」などである。JAGESでは、介護予防効果の評価や効果検証を主に担っている。

健康づくりや介護予防の事業成果をどのように評価するか

 健康づくりや介護予防に関する事業の成果を、実際にどのように評価するのかを解説する。まず、施策や事業を立案する段階で、施策・事業の実施からその目的を達成するに至るまでのプロセスを、論理的な因果関係によって明示した事業の設計図(ロジックモデル)を作成する。図1に、通いの場の事業推進に関するロジックモデルを例示した。

 成果指標は、原則としてロジックモデルでいうアウトカムに相当するものを設定する。アウトカムとは、施策・事業を通じて生じた変化を指し、現れる段階に応じて初期・中間・最終に分けて設定する。成果指標は、施策・事業による変化が繰り返し観察され、定量的かつ客観的に測定可能な指標が望ましい。

図1 通いの場の事業推進が介護給付費適正化に至るまでのロジックモデル(出典:近藤克則編(2022):ポストコロナ時代の通いの場,日本看護協会出版会,p.95,図5-3.)
図1 通いの場の事業推進が介護給付費適正化に至るまでのロジックモデル(出典:近藤克則編(2022):ポストコロナ時代の通いの場,日本看護協会出版会,p.95,図5-3.)
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 このように設定した成果指標を用いて、「社会的便益をどれくらい創出したか」や「どれくらい成果を改善することができたか」を評価するが、適正な評価は容易ではない。「成果連動型民間委託契約に係るアンケート調査(内閣府)」の結果では、PFS導入の課題として「適正な成果指標・評価方法の設定が困難」を挙げた自治体が約8割にも上った。

 また、その理由として「十分な根拠を持った成果指標が見つからない」と回答した自治体が約6割あった。ガイドラインでは、成果評価を担う役割として第三者評価機関のPFS事業への参画が推奨されている。適切な評価には専門的な知識やノウハウが必要であり、学術機関が第三者評価として貢献できる面は大きいと考える。

 医療や介護に関する社会事業では、死亡や要支援・要介護認定の減少が最終的なアウトカムとして設定されることが多い。しかし、事業開始から1~3年間で死亡、要支援・要介護認定といった最終アウトカムの変化を捉えることはよほどの規模でなければ難しい。

 そのため、短期間で測定可能な初期・中間アウトカムを成果指標として盛り込む。この成果指標は、(1)最終的なアウトカムを適切に予測でき、(2)医療費や介護給付費などの貨幣価値に換算できると、成果に応じた支払いの観点から有用性の高い指標となりうる。

よこはまウォーキングポイント事業の効果検証

 我々が、健康づくり施策の効果検証を初期・中間アウトカムによる成果指標を用いて行った事例として、「よこはまウォーキングポイント事業(YWP事業)」を紹介する。

 YWP事業は、ウォーキングを通じた市民の健康づくりを目的としたもので、歩数計またはスマートフォンアプリで測定した歩数データに応じて参加者にポイントを付与し、ポイントが貯まると抽選で景品が当たるという制度である。横浜市在住高齢者を対象に、参加群(758人)と非参加群(3751人)の歩行時間、運動機能、うつについて3年間の変化を比較した。参加群と非参加群の背景要因の違いは、傾向スコア法という統計学的方法で揃えた。

 その結果、参加群は非参加群に比べて、初期・中間アウトカムである歩行時間が一人あたり1日約3.6分(約 360 歩)増加し、運動機能得点およびうつ得点はそれぞれ 0.1 点、0.2 点改善したことが分かった(図2)。YWP事業には高齢者だけで約15万人が参加しているので、国土交通省が公表している歩数に基づく医療費抑制額(0.065円/歩/日)を用いて15万人×0.065円/歩/日×360歩と計算すると、YWP事業は年間で約13億円の医療費抑制効果を期待できると推計された。
このように、歩数増加という初期・中間アウトカムを成果指標に用いたとしても、初期・中間アウトカムから最終アウトカムを予測可能な既存の知見を応用することで、医療費抑制という最終アウトカムを間接的に評価可能である。

図2 よこはまウォーキングポイント事業が高齢者の歩行時間、運動機能、うつに及ぼす効果(出典:藤原聡子ら. (2020). ウォーキングによる健康ポイント事業が高齢者の歩行時間, 運動機能, うつに及ぼす効果: 傾向スコアを用いた逆確率重み付け法による検証. 日本公衆衛生雑誌, 67(10), 734-744.)
図2 よこはまウォーキングポイント事業が高齢者の歩行時間、運動機能、うつに及ぼす効果(出典:藤原聡子ら. (2020). ウォーキングによる健康ポイント事業が高齢者の歩行時間, 運動機能, うつに及ぼす効果: 傾向スコアを用いた逆確率重み付け法による検証. 日本公衆衛生雑誌, 67(10), 734-744.)
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