これまで「自治体×SDGs 推進の現場から」で取り上げた3自治体に共通するのは、自治体担当者が現場でできる小さなことからSDGsの各目標に向かって取り組みを進めていることだ。この手法は都市デザインにおける「タクティカル・アーバニズム」という概念を取り入れたプロジェクトの進め方を連想させる。

連載を監修したシティラボ東京が主催したオンラインイベント「サステナブルな都市を志向するタクティカル・アーバニズム」(2021年9月15日)での専門家の議論を参照しながら、「タクティカル・アーバニズム」について解説する。住民と直接つながる基礎自治体は、タクティカル・アーバニズムを理解することでSDGsの取り組みをより進めやすくなるのではないだろうか。本連載の締めくくりとして、タクティカル・アーバニズムを自治体SDGs推進に生かすための考え方をまとめた。

タクティカル・アーバニズムの概念を取り入れて実現した「かんないテラス」。横浜・関内の桜通りの車道の一部を通行止めにして道路にテラス席を設置した。コロナ禍の中で飲食店救済のため、町内会が主体となって実現した(写真提供:オンデザインパートナーズ)
タクティカル・アーバニズムの概念を取り入れて実現した「かんないテラス」。横浜・関内の桜通りの車道の一部を通行止めにして道路にテラス席を設置した。コロナ禍の中で飲食店救済のため、町内会が主体となって実現した(写真提供:オンデザインパートナーズ)
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小さなアクションから始める――基礎自治体におけるSDGs達成のカギ

 本連載「自治体×SDGs推進の現場から」では、豊島区(東京都)、真鶴町(神奈川県)、大崎町(鹿児島県)によるSDGs達成に向けた実践事例を取り上げてきた。これら3つの自治体に共通していることは、住民を含め地域に関わる多くの人々が共有できる大きなビジョンを持ち、小さなアクションの集積と連鎖によってそれを達成させようとしている点である。

 豊島区(連載第1回)では、公園を核としたまちづくりというビジョンをもとに、複数の公園で起こす小さなアクションをつなぎ合わせることでエリア全体を持続可能な状態へシフトさせている。真鶴町(連載第2回)では、「美の基準」という達成すべき豊かな生活風景の断片を示すデザインコードがまちに根付いており、実現したい風景をカタチにして共有し少しずつ確実に変えていくまちづくりの作法をSDGs達成へのアプローチに応用している。大崎町(連載第3回)では、「サーキュラー・ヴィレッジ」というコンセプトを掲げ、ごみの分別という極めて個人レベルで日常的な行為を、企業や他自治体も巻き込みながらリデザインし、教育や経済も含めた持続可能性へと展開している。

タクティカル・アーバニズムへの注目の高まり

 まちづくりにおいて、長期的な都市の変化を目指し、小さなアクションを積み上げていくアプローチは「タクティカル・アーバニズム」と呼ばれており、近年注目を集めている。タクティカル・アーバニズムは、米国の都市建築デザイン事務所「Street Plans」を主宰するマイク・ライドンによって提唱された概念であり、その概念に基づいたプロジェクトは、ボトムアップ型で、その地域に住む当事者が中心となり、仮設的なプロジェクトを中心に進めていくのが特徴だ。これは、先に述べた3自治体のSDGs達成を目指すプロセスとも近いといえるだろう。

 「タクティカル」とは“戦術的”を意味する。実装とフィードバックを繰り返し、アウトプットを洗練させていくタクティカルなアプローチは2000年代を境に様々な分野で散見されるようになっている。例えばソフトウェア開発ではアジャイル開発、起業手法ではリーンスタートアップ(最低限のコストで試作品やサービスをつくり、フィードバックをもらいながら改善していく起業法)、キャリア論ではプランドハプンスタンス理論(不確実の高い現代において遠い未来のキャリアイメージを固定するよりも目の前の出来事に好奇心を持って取り組み続けることで次第にキャリアが形成されていくという考え方)がよく挙げられる。

様々な分野におけるタクティカルな手法(出所:シティラボ東京)
様々な分野におけるタクティカルな手法(出所:シティラボ東京)

 長い時間をかけて計画を練っても、それが成功するかどうかは実装してみないと誰にも分からない。また、計画作成や、その計画のすべてを実施するための膨大な資金調達やかかる時間も計り知れない。ハーバード・ビジネス・スクールの会計学者、ロバート・カプラン氏の説によると「計画の80%は実行されない」という。そうした中、計画に時間をかけすぎることなく、準備した実験的な実装から始めるタクティカルなアプローチは、ローリスクかつ迅速に、目に見える変化を起こしながら計画を推進させることができる点で優れている。