先進的な自治体は、どのように公民連携(PPP)を推進しているのか。流山市の職員時代に多くのPPP事業を手掛け、現在は全国各地の自治体でプロジェクト構築支援を行う寺沢弘樹氏(まちみらい代表社員)が、先進自治体のPPPの進め方を探るコラム「自治体PPP担当者と語り合う!」。連載第1回は、トライアル・サウンディングを全国で初めて実施した常総市の総務部資産活用課施設マネジメント係の堀井喜良係長に話を聞いた。

寺沢弘樹(まちみらい代表社員) 常総市では、民間事業者に公共施設を暫定的に活用してもらうことで市場調査を行う「トライアル・サウンディング」を全国で初めて実施しました。実施までの経緯をまずは改めて聞かせてください。

堀井喜良(常総市総務部資産活用課施設マネジメント係 係長) 背景としては、もともと、農業体験型テーマパーク「水海道あすなろの里」という施設の利活用を検討していて、まず通常のサウンディング型市場調査を2018年10月に行いました。その後も継続して民間事業者の方と対話をしていく中で「実際に施設を使ってみたい」という声が上がっていたんですね。「どの地域から集客ができるのか」といった施設のポテンシャルなどを確認したいという意見が寄せられていました。こうした要望を実現しようということで動き出したのが、そもそものスタートです。

(写真:加藤康)
(写真:加藤康)

堀井 喜良(ほりい・きよし・写真左)
常総市総務部資産活用課施設マネジメント係 係長

1998年東京理科大学工学部建築学科卒業。民間企業に8年勤務後,2008年常総市役所入庁。同年から現在まで営繕業務を担当。2017年からは営繕業務に加えてFMやPPPに取り組む。市有地の利活用,民間提案制度,トライアル・サウンディングおよび包括管理業務委託等の公民連携を推進

寺沢 弘樹 (てらさわ・ひろき・写真右)
合同会社まちみらい 代表社員

1975年静岡県清水市(現静岡市)生まれ。2001年 東京理科大学大学院理工学研究科建築学専攻修了。流山市役所でファシリティマネジメント推進室長、特定非営利活動法人日本PFI・PPP協会業務部長などを経て2021年に独立、合同会社まちみらいを設立。著書に『PPP/PFIに取り組むときに最初に読む本』(学陽書房)

――前例がない事業ということで、要項づくりなどでは苦労したのではないですか。

堀井 トライアル・サウンディング自体は、何か新しい仕組みをつくったわけではありません。もともと「行政財産の目的外使用」という仕組みがありましたので、その使用料を免除して民間に自由に提案をしていただいて、暫定利用していただくということですので。そういったことともあり、(私ではなく部下や同僚がつくったのですが)指針や要項づくりはそんなに苦労しませんでした。

 最初は、いわゆる「実証実験」という形での実施をイメージしていたのですが、ちょうどその年に『公共R不動産のプロジェクトスタディ』*1という本が出ていて、その中にトライアル・サウンディングという企画が書かれていたんです。それで、このスキームで事業者を募集した方がより効果的にPRできるし、施設としても可能性が広がるんじゃないかと考えて、公共R不動産に打診して、そのスキームと名前を使うことをご了承いただきました。そして、2019年4月1日、全国初のトライアル・サウンディングとして「あすなろの里」と市営へら釣り場「吉野公園」での公募をスタートさせました。

トライアル・サウンディング実施から本格利用に向けた公募への流れ(資料:常総市)
トライアル・サウンディング実施から本格利用に向けた公募への流れ(資料:常総市)
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――つまり、「トライアル・サウンディング」という言葉を使わないでも公募はできたわけですね。そうではなく、「自治体初のトライアル・サウンディング」という形にして話題性を高めようという狙いもあったのでしょうか。

堀井 はい、そういう面もありました。何かをするときに、「どういうふうに進めたら効果的か、うまく進められるか」ということは、いつも意識しています。「実証実験」ではなく「トライアル・サウンディング」として進めたのも、そうした観点からです。

寺沢 その当時、僕も『公共R不動産のプロジェクトスタディ』は読んでいたのですが、トライアル・サウンディングについては「ふーん」と思っていた程度で、これをやってみようという発想はありませんでした。でも、常総市では感度高くトライアル・サウンディングの意義を読み取って、公共R不動産に話を持って行って連携をしていったわけです。この感性は飛び抜けているなと感じました。


*1 公共R不動産:使われなくなった(および、今後使われなくなる予定の)公共空間の情報を全国から集め、官と民をマッチングさせるウェブサイト。事務局運営:オープン・エー、サイト運営元:R不動産。

“営業”に行くのは当たり前

――トライアル・サウンディングをやろうということになって、すぐに公共R不動産に話をしにいくところに、フットワークの軽さを感じます。

寺沢 常総市の場合、こんなふうに外に“営業”に行くということが“文化”として根付いているなと感じています。堀井さんだけではなく、いろんな課の人たちが、あちこちの民間に対して自分たちで売り込みに行ける。まず、市長さんからそうですよね(関連記事)。

――“営業”に行くというのは、例えばどういうことするのでしょうか。

堀井 例えば市有地を売却するのであれば、やっぱりその情報を持っているところにアプローチするのがいいかな、ということで金融機関を回りました。関連するいろいろな団体にアプローチしてウェブサイトなどで情報を広めてもらえれば、といったことも考えます。照明のLED化によるESCO事業のサウンディングをしたときには、照明の団体やLEDの団体を探して情報を提供していきました。市のホームページに情報を出すだけでは、おそらくそれほど参加してくれる民間事業者はいないと思っています。

 あと、私たちは2017年から「公共施設マネジメント協議」*2という組織横断での議論の場を設けているのですが、協議で議題に上がる案件については「(民間の)どういうところにアプローチしたらいいのか」といったことも議論していきます。各課でも、自分たちがサウンディングを行う事業については、関連する企業や団体に電話をしたり、関連するイベントに参加したりしていますね。「関連する民間事業者や団体にアプローチする」というプロセスが浸透してきているなと感じています。

寺沢 こうした蓄積があるからこそ、常総市の職員の方たちは、民間の考え方やスピードを肌感覚で体得しているのだと思います。実際、庁内でトライアル・サウンディングの企画が動き出してから公募まで、2カ月もかかっていません。

堀井 2019年2月に公共R不動産に打診をして了承を得て、庁内の「公共施設マネジメントプロジェクト発表会」*3で発表して正式に進めることになり、実施指針と公募要項をすぐに作成して4月1日からトライアル・サウンディングの公募を開始しました。


*2 公共施設マネジメント協議:公共施設マネジメント案件を担当課だけで検討するのではなく,関係課(最大10課)やマネジメント部門、アドバイザーを含めて議論する場。年に数回開催している。
公共施設マネジメント協議の様子と協議の進行概要(写真・資料:常総市)
公共施設マネジメント協議の様子と協議の進行概要(写真・資料:常総市)

*3 公共施設マネジメントプロジェクト発表会:市長・副市長・幹部職員を前に、ボトムアップで公共施設マネジメント事業を提案するとともに、横展開を図るための場として設置。2018年から年1回実施。
市長(左写真)・副市長、幹部職員を前にFM・PPPの取り組みを発表する公共施設マネジメントプロジェクト発表会の様子(写真:常総市)
市長(左写真)・副市長、幹部職員を前にFM・PPPの取り組みを発表する公共施設マネジメントプロジェクト発表会の様子(写真:常総市)

トライアル・サウンディングで、未来の風景を見る

――トライアル・サウンディングではどんな事業を行ったのですか。

堀井 「あすなろの里」で実施していただいたトライアル事業は4件あるのですが、その中で2つほど紹介したいと思います。

 トライアル第1弾となったのが、かけっこ教室×1泊2日の親子キャンプイベント「かけっこキャンプ」(2019年5月2日~3日、事業主体:スペースキー)です。この時は、スピードという面では驚異的な速さでした。募集を開始して3日後の4月4日にお申し込みをいただいて、5日後には使用許可を出し,そこからキャンプの参加者を募集して5月2日・3日に開催されました。以前からいろんな意見を頂いていた事業者の方ではあったんですが、民間のスピード感、集客力、価格設定など本当に勉強になりました。従来だと、あすなろの里の使用料3000円ぐらいしかお金が入ってこないんですが、家族単位1泊するこの企画だと一組3万円。「(同じ場所で)こんなに収入が得られるのか」と、市としてもびっくりしましたし、公民連携による効果というものが非常に実感できた事業でした。

トライアル・サウンディングで実施した「かけっこキャンプ」の様子(写真:常総市)
トライアル・サウンディングで実施した「かけっこキャンプ」の様子(写真:常総市)
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 もう一つが、本×音楽×キャンプをテーマにしたアウトドアイベント「森の生活」(2019年11月16日~17日、事業主体:日本出版販売 YOURS BOOK STORE、Wonder Wanderers)です。本や食などをテーマとしたコンテンツを用意した1泊2日のキャンプイベントなんですが、こうした発想でのコンテンツづくりは、なかなか行政ではできません。こちらは、もともとは別々の形でサウンディングに参加していただいていたのですが、いろいろ話をしていく中で、2社共同で実施していただいたものです。

――「トライアル」は、その後の事業につながっていますか。

堀井 「あすなろの里」のロッジ棟とキャンプ場の指定管理者を公募したのですが、今回は年間300万円の固定納付金と提案による付加還元額を納めていただくスキームで公募しています*4。これは、サウンディングやトライアル・サウンディングで施設のポテンシャルを確認できていたからだと思っています。おそらく従来の流れで指定管理に出すとしたら、市から指定管理料を払って管理運営をしてもらう、という形になっていたと思います。

寺沢 トライアル・サウンディングは、庁内外のいろいろな人たちに対して、その場所の暫定的な「未来」を見せることができるのが大きな魅力です。「森の生活」を見に来た市長さんはノリノリで楽しそうにしていましたよね(笑)。だからこそ、トライアルからきちんと丁寧に組み立てている事業は、市の意志や市場とかけ離れたものにならず、空間やコンテンツの充足度が圧倒的に違ってくるんです。

堀井 そもそも、「あすなろの里」自体にそれほど魅力があるのかというと、「正直、ちょっと難しいかな」と、私も含め、職員は皆、そう感じていたと思います。ところが実際に民間事業者がトライアルで事業をしてみると、集客力といったことだけでなく、行政だけではつくり上げられないような非常に素敵な風景を見せてもらえました。市としてもその「あすなろの里」のポテンシャルを確認できた。トライアル・サウンディングは民間事業者に市場性を確認してもらうという意味合いが強いわけですが、市にも自信を与えてくれたかな、と思っています。


*4 7月26日、優先交渉権者にRecamp(東京都目黒区)を選定(市の発表資料)

“いい意味で緩い”から、風通しが良くなる

指定管理者公募に先立ち公募概要パンフレットを公開、さらに民間から意見を募った(資料:常総市)
指定管理者公募に先立ち公募概要パンフレットを公開、さらに民間から意見を募った(資料:常総市)
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――「あすなろの里」の指定管理者を公募するときには、事前に、「公募概要パンフレット」を公開してさらに意見を募るなど、計画の立て方も柔軟ですね。

寺沢 常総市の公民連携事業の姿勢の大きな特徴だと思うんですが、“いい意味で緩い”ということが挙げられると思います。

 常総市では、採択された場合に随意契約を保証する民間提案制度による提案募集を実施しています。「公共施設マネジメントに関することなら自由な提案が可能」という条件なのですが、2019年度に、綜合警備保障(ALSOC)の提案した「乳酸菌を活用した地域特産の開発及び地域の活性化」という事業を採択しています。

 この案件の事前相談の内容を聞いたとき、僕はアドバイザーの立場として「面白い提案ですが、これはさすがに公共施設マネジメントとは関係がないし、万が一、そのことが理由で審査に落ちたらもったいない。これはこれで提案制度とは別に切り分けて、協定などで処理した方がよいのでは?」といった提案をしました。でも結局「面白いから提案制度に乗っけちゃいましょうよ」となって審査も満場一致で通りました。提案制度の枠組みに当てはまっていなくても、内容がよければ「イエス」と判断する。こういった“いい意味での緩さ”が官民の風通しをよくしているんだと思います。

――常総市の公民連携の取り組みは「スピード」と「いい意味での緩さ」がポイントと言えそうですね。こういった“文化”が根付いたのは、何かきっかけがあったのでしょうか。

堀井 常総市でファシリティマネジメント(FM)や公民連携(PPP)に本格的に取り組み始めたスタートは2017年ですから、遅い方だと思います。最初は企画課行政改革推進係という組織で職員2人の体制でした。現在は、資産活用課施設マネジメント係で営繕の業務も含め職員3人で担当しています。

 前年の2016年に公共施設白書を公表し、本格的に動き始めた2017年は、FMやPPPの職員研修を集中的に行いました。紫波町(岩手県)でオガールプロジェクトを担当している鎌田さん(鎌田千市・紫波町企画総務部企画課企画課長)や、アドバイザーの寺沢さんに講演に来ていただいたり、あるいは市長と職員10人でオガールに視察に行ったりといった活動が中心でした。最初の頃はなかなか大きな動きはできなかったんですが、いろいろな形で職員にFMやPPPの考え方を浸透させることができた年だったのではないかと今では思っています。

寺沢 アドバイザーの立場から見ると、就任した最初は研修ばっかりやっていて「これで本当に大丈夫なのかなあ」と思ったりもしていました。動きが出てきたのは、翌年(2018年)、市が持っていた旧自動車学校跡地を民間事業者(センスタイムジャパン)に売却できたときからではないでしょうか。

ずっと売れなかった旧自動車学校跡地が「AI・自動運転パーク」に(資料:常総市)
ずっと売れなかった旧自動車学校跡地が「AI・自動運転パーク」に(資料:常総市)
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 2011年に閉校になってからずっと売れずに塩漬けになっていた市有地が2億円以上(2億1736万円)で売れました。しかも、自動運転、画像認証などの非常に優れた技術を持っている事業者さんが来てくれて、教習所のコースを生かした「AI・自動運転パーク」として生まれ変わりました。土地が売れただけでなく、市にとって“スマートシティ”といった文脈でのPRにもつながるわけですから、特に幹部職員の人たちには、FMやPPPへの理解が大きく進んだのではないかと思います。

堀井 そうですね。幹部職員の人たちの理解は、この市有地売却がきっかけで進んだと思います。ただ、一般の職員はそうでもない、というのが実感です。繰り返し行ってきた研修や「公共施設マネジメント協議」などで、内部・外部の人たちといろいろな人との対話を積み重ねて、徐々に変わっていったのかなと思っています。やっぱりいきなりは変われないですからね。

心掛けているのは、「対話」「やれることから」「進め方」の3つ

対話から解決策が見つかると語る常総市の堀井氏(写真:加藤康)
対話から解決策が見つかると語る常総市の堀井氏(写真:加藤康)
“いい意味で緩い”取り組みがPPPには重要だと語るまちみらいの寺沢氏(写真:加藤康)
“いい意味で緩い”取り組みがPPPには重要だと語るまちみらいの寺沢氏(写真:加藤康)

――部署横断で行う「公共施設マネジメント協議」は最初から活況を呈していたのですか。

堀井 1年目は本当になかなか難しかったですね。もちろん成果もすぐには出ないですし、協議しても盛り上がらない感じではあったんですよね。2年目に入ったときに、強制的にやらせる感じではなかなかうまくいかないと思ったので、各課から案件の募集をするようにしました。もちろんそれでいきなり変わったというふうには思わないんですけど、案件を自ら出してくれたところは積極的に関わってくれていました。といっても、それは本当にもう数えるぐらいだったわけですが…。

――積極的に来てくれるところ以外には、どう働きかけたのですか。

堀井 「あすなろの里」のような市としての重要な施設は、FMやPPPを導入すれば効果は大きいんですね。そこで、そうした施設の担当課の職員といろんな会話をして、こちらから「一緒にやっていこう」という話をしていきました。

 やり過ぎてしまうのもどうかというところは正直あるんですが、ある程度軌道に乗るところまでは、担当部署が本来担当する部分についても、一緒に手を動かしたりしてきました。そうした中から一緒に取り組んでくれる仲間が少しずつ増えてきて、1年半ぐらいかけて核ができた感じでしょうか。

寺沢 僕はアドバイザーとして協議に関わってきたわけですが、確かに最初のころは、「ここの部分は整理したほうがいいよ」とか「何のためにやりたいの」といったビジョンをつくるための整理を、それぞれの課題に対してやってもらっていました。でも、そういったことが必要だったのは最初の1年半くらいまででしたね。今はもう、いろんな課の人たちが自分たちで動くし、考えるし、話すことができる。だから、ディスカッションも自分たちで結論までつくり上げていける。それで「じゃ、これで行こう」となったときに、申し訳程度に「何かありますか、寺沢さん」みたいな(笑)。

――最後に、堀井さんが日頃から心掛けていることをおしえてください。

堀井 いつも考えてやっていることが3つあります。まず1つが「対話」です。これは庁内もそうですし、民間企業さんとか、いろいろな人との対話が重要だなと感じています。そこからいろんな提案や事業が生まれてくるし、解決策も見つかってくると思っています。まずは庁内の合意を取るための対話が必要だと思っています。

 もう1つは、あまり深く考え過ぎずに、やれることから小さいことでも「実践」を積み重ねていくということです。そうしたことが重なっていくことで、自動運転パークみたいな大きな案件にもつながっていくのかなと思っています。

 3つめが、事業を進めるときの「進め方」を考えるということです。どうしたらうまく進められるかとか、効果が高い事業になるか。誰に話したらいいかとか、誰と一緒にやったらいいかとか、そういう部分です。ここを間違えると、いくらいい事業でも駄目になってしまうので、そのあたりはよく検討してやっていく必要があると思っています。

常総市(じょうそうし)
常総市(じょうそうし)
茨城県の南西部、都心から55km圏内に位置し、東はつくば市、つくばみらい市、西は坂東市、南は守谷市、北は八千代町・下妻市に接している。市のほぼ中央に鬼怒川が流れ、東部の低地部は広大な水田地帯、西部は丘陵地となっており、集落や畑地、平地林が広がる。人口6万2467人(2021年4月1日現在)、面積123.64km2

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