2018年度、自治体職員・議員による視察の受け入れ件数が最も多かった事業は、調査開始から3年連続で、岩手県紫波町が取り組んだ駅前開発事業「オガールプロジェクト」となった。2位には、大和市の文化創造拠点「シリウス」が入った。ランキング上位には、公民連携で地域活性化を図る都市整備や文化複合施設の運営、地域包括ケアなどが並んでいる。民間の力を活用して自治体の課題を解決する動きが広まっているようだ。

 日経BP総研(日経BP)が運営するウェブサイト「新・公民連携最前線」は、全自治体を対象に行政視察の受け入れに関する実態を尋ねるアンケート調査を実施し、結果を「視察件数ランキング」として取りまとめた(調査概要・ランキング算出方法はこちら)。本年で3年目の調査となる。本記事では、総合ランキング、人口規模別ランキング、インバウンド視察ランキングを紹介する。

 団体別の事業一覧(有効回答分)は、本特集内の「視察の多い事業一覧2019(東日本編)」「同(西日本編)」に掲載している。

■ 全国自治体・視察件数ランキング2019

紫波町「オガール」が3年連続首位、多様な公民連携手法で整備

 岩手県紫波(しわ)町の「オガールプロジェクト」の視察数は、2018年度において135件あった。前々回(270件)、前回(151件)から徐々に少なくなっているものの、100件を超すのは全体でも4事業しかなく、あいかわらず人気が高い。その理由として、(1)民間主導型の公民連携であること、(2)PFI、代理人方式、定期借地といった多様な公民連携手法を用いて成功していること、(3)視察研修コースを整備していること、が挙げられる。

オガールプロジェクトにおける各種施設。写真右側の住宅地(エコハウス)が間もなく完売となる見込み(写真:岩手県紫波町)
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 オガールプロジェクトは、10年間低未利用となっていたJR紫波中央駅前町有地10.7haを用いて都市整備を図ったもの。人口約3万3000人の小規模な自治体だが、補助金に頼らずに民間と共同で進めてきた。2012年にオガールプラザをオープンしたのを皮切りに、さまざまな施設が整備されている。

 各施設は、それぞれ適した公民連携手法を用いている。例えば、PPPを活用した岩手県フットボールセンターや官民複合施設オガールプラザ、定期借地を活用した民間複合施設オガールベースやオガール保育園、PFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)を活用した役場庁舎、代理人方式を活用した官民複合施設オガールセンターなどである。このほか、エネルギーステーション(地域熱供給)やオガールタウン(宅地分譲、紫波型エコハウス)もある。

 視察研修コースは、目的に合わせて4つを用意する。「オガール標準コース」は、公有地活用や複合開発、デザインガイドライン、公民連携手法、施設概要といったオガール全般について視察したい人向け。「役場庁舎コース」は、役場庁舎、PFIに関する視察研修、「図書館(情報交流館)コース」はオガールプロジェクトにおける図書館の役割と運営、「循環型まちづくり・環境コース」は地域熱供給や紫波型エコハウスについて見たい場合のコースである。オガール内には利便性が高い宿泊施設もあるので、ぜひ利用したい。

2位の大和市「シリウス」は累計来館800万人超、指定管理による運営を学ぶ

 今回、オガールプロジェクトに続いたのは、神奈川県大和市の文化創造拠点「シリウス」。オガールと2件差の133件だった。視察件数は昨年同様のまま、昨年4位から順位が上がった。開館から954日めの令和元年6月14日に累計来館者が800万人を超え、図書館などの公共施設としては、全国的にも極めて活発に利用されている施設となる。

「シリウス」の外観(写真:茂木俊輔)
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 シリウスは、図書館、芸術文化ホール、生涯学習センター、屋内こども広場を中心とした大型文化複合施設。公益施設の複合化による相乗効果を狙っている。

 館内のどこにでも図書を持ち歩けるようにしているのが特徴の一つ。施設全体を図書館として捉える、新しい図書館のスタイルを実現している。“健康都市図書館”として、市の健康施策を支える役割も担っている。子供専用フロア、飲食可能な予約不要のフリースペース、一人で来館しても落ち着いて読書ができるカウンター式閲覧席などを用意し、市民が集う新たな居場所となっている。

 シリウスを訪れる視察者の目的の多くは、指定管理者による施設運営に関するもの。施設運営は、公益施設の運営に得意分野を持つ6社による共同企業体で実施している。

 6社によるノウハウ融合によって、施設全体の一体運営と民間活力の積極活用を図り、市内外から人が集まる魅力ある運営を実現している。各施設の統一テーマによる企画を通じて一体運営を心がけたり、各事業者が集まる会議を定例で開いたりして、日常的な情報共有を図っている。こうした成果が累計来館者数に現れているわけだ。

 今回、4位までが100件以上あった。3位は、愛知県豊明(とよあけ)市の「地域包括ケア豊明モデル」、4位が佐賀県武雄市の図書館指定管理者導入である。地域包括ケア豊明モデルは、様々な高齢者支援のサービスを総合した事業。昨年の53件(16位)から大きく伸ばして、110件あった。その理由は、「高齢者が出かけたくなるまち」というキャッチフレーズで、民間企業の連携による外出促進や生活支援の取り組みが各種メディアに掲載されたことが挙げられる。

図書館を中心にした地域活性化がランキング上位に

 視察数が100件を超すランキングの上位4つはいずれも、民間の力を活用した事業である。

 特に、岩手県紫波町のオガールプロジェクトや神奈川県大和市のシリウス、佐賀県武雄市の図書館指定管理者導入のように、都市整備や文化複合施設、図書館といった施設をうまく活用して地域活性化を図る取り組みが上位に多く入っている。

 8位の岐阜県岐阜市「みんなの森 ぎふメディアコスモス」(72件)、12位の東京都荒川区「ゆいの森あらかわ」(62件)、23位の愛知県安城市における安城市中心市街地拠点施設「アンフォーレ」(48件)、図書館関連の施設が特に目立つ。図書館を中核にした、まちづくりや地域活性化が多くの自治体に広まっているとみられる。

 みんなの森 ぎふメディアコスモスは、最大が90万冊を所蔵可能な「市立中央図書館」でありながら、市民活動を支援する「市民活動交流センター」や、国際交流の場となる「多文化交流プラザ」からなる複合施設だ。展示や発表会、講演会やセレモニーなど多様な使い方ができる「みんなのホール」などのほか、大小4種類のスタジオや一面が鏡張りスタジオなどを備え、目的に合わせた多彩な利用方法が可能となっている。

子育て・教育、高齢者支援が目立つ

 次いで、子育てや教育関連の事業も、ランキング上位に多く位置する。5位の東京都三鷹市「コミュニティ・スクールを基盤とした小・中一貫教育」(81件)をはじめ、9位の宮崎県日南市における子育て支援センター「ことこと」(69件)、27位の秋田県大仙市「小中学校における学力向上の取り組み」(45件)、同・岐阜県岐阜市の「子ども・若者総合支援センター“エールぎふ”」(同)が挙げられる。

 三鷹市は、学校運営に地域住民や保護者などが参加できるコミュニティ・スクールに早くから取り組んでいる自治体だ。2006年に、コミュニティ・スクールを基盤とした小中一貫教育校のモデル校として「にしみたか学園」を開設し、今年で10年目を迎えた。小・中相互乗り入れ授業や、小学校からの教科担任制、小・小および小・中の交流活動などを実施している。視察では、10年間取り組んできた成果や課題、組織作りやノウハウなどを主な目的に訪れるケースが多い。

 高齢者支援の事業もランキング上位に目立った。3位になった愛知県豊明市の「地域包括ケア豊明モデル」を筆頭に、14位の神奈川県横須賀市「終活支援事業」(59件)、21位の千葉県柏市「長寿社会に向けたまちづくり」(50件)などである。

 豊明市は、高齢化率が約25%(平成30年4月1日時点)と、県平均で見て高い自治体。医療介護を担う人材の確保が大きな課題の一つだった。地域包括ケア豊明モデルでは、高齢者の暮らしを支えるあらゆる資源を探し、無ければ地域とともに創り出すという発想で、住民、大学、協同組合、民間企業など地域の関係者とともに高齢者の暮らしを支える体制づくりを進めてきた。

 例えば、高齢者のケアに関する課題に対して様々な人が集まって話し合う「多職種合同ケアカンファレンス」を月2回開催している。市内20カ所で住民が主体となって運営する「まちかど運動教室」では、指導者の下で1時間程度かけてストレッチや筋力アップのための体操を行う。こうした産官学民の連携による事業は、介護予防給付費の伸びの抑制につながってきているなど効果を出しているという。

  子育て、教育、高齢者支援を複合的に提供しているのが、16位の富山市「総曲輪レガートスクエア」(55件)だ。子育て世代から高齢者までを視野に入れた複合施設「まちなか総合ケアセンター」を中心とした官民連携の複合施設である。敷地内に看護学校やリハビリテーション医療福祉大学校なども併設している。

 以降では、人口規模別ランキングと、海外からのインバウンド視察のランキングを紹介する。