事業デザイン(3):4つの基本コンセプトと「スタジアム・アリーナ改革」

①本コンセプトに基づく事業デザイン

 事業のデザインの根幹となるのは、前述の北九州市が設定した4つの基本コンセプトです。このメッセージを民間事業者に発信し、新たなスタジアム事業についての民間ならではの提案を求めることが本事業の事業デザインでした。以下、4つの基本コンセプトそれぞれについて概略を説明します。

1.みんながつどい、にぎわいを生む“海ちか・街なか”スタジアム

 この基本コンセプトが設定された背景には、当時の小倉駅新幹線口地区の状況を知る必要があります。新幹線駅である小倉駅は在来線の小倉駅と同じ駅であり、北九州の表玄関です。市街地は駅の南地区一帯に広がり、小倉城や魚町の繁華街などで賑わっていました。一方で北九州市では小倉駅新幹線口地区を国際コンベンションゾーン(次表参照)として位置づけ、見本市会場、国際会議場、ホテルの3点セットを整備・誘致してきたのですが、各施設の規模の大きさや週末偏重の集客等により、平日の人の少なさが目立つようになっていました。そこで、民間駐車場として利用されていた敷地をスタジアムの候補地として選定し、Jリーグ基準のスタジアムを整備し、小倉駅新幹線口地区の活性化につなげたいと考えました。それが最初の事業デザインです。

■小倉駅新幹線口地区に立地する主な施設
名称 施設内容 設置主体 管理運営主体 開業年月 特徴
西日本総合展示場 展示施設(コンベンションセンター) 財団法人西日本産業貿易見本市協会 公益財団法人北九州観光コンベンション協会 1977年5月開業。新館は1998年4月 「東京ガールズコレクション北九州」や「北九州アイススケートセンター」を開催
北九州国際会議場 国際会議場 北九州市 公益財団法人北九州観光コンベンション協会 1990年10月6日開設 国際コンベンションゾーンの中核施設
リーガロイヤルホテル小倉 ホテル (株)リーガロイヤルホテル小倉 1993年 小倉豊楽園球場の跡地に立地
アジア太平洋インポートマート 輸入促進を目的とした流通センター棟と展示場棟からなる複合施設 北九州輸入促進センター(KIPRO) 公益財団法人北九州観光コンベンション協会 1998年4月開業 民活法の適用事業
あさの汐風公園 小倉駅北口 浅野に位置するシンボルロード公園 北九州市 北九州市 2012年10月 自然エネルギー(太陽光発電・風力発電)の利活用
(北九州市資料)
2.夢と感動を生み出す“ダイナミック”スタジアム

 この考え方は、スタジアムの形態そのものを規定するものです。本事業の計画当時のJリーグのスタジアムの多くは陸上競技場であり、観戦体験の見地から非常に不満足な状況でした。北九州市においても本城陸上競技場がギラヴァンツの当時のホームグラウンドでした。Jリーグ事務局も「なぜ野球場は専用であるのに、サッカーの専用はないのか」とサッカー専用スタジアムの必要性を強く発信し始めていた時期でもあります。また筆者も早くから専用スタジアムの必要性を主張していました(参照)。

 幸いなことに、本事業の計画地は3ha弱ととても狭く、陸上競技場が配置不可能でしたので、「陸上競技場を整備すべき」という不毛な議論にはならず、サッカーやラグビーのトップアスリート達のプレーを目の前で観ることができる環境整備を考えました。

3.環境未来都市にふさわしい“エコ”スタジアム

 北九州市は、その産業史(重化学工業の発展による公害の発生)を背景に、地球環境問題への取り組みの先進都市でした。2008年度に「環境モデル都市」に選定され、その3年後「環境未来都市」に選定されています。公害克服や環境国際協力の経験・モノづくりの技術を基盤に「市民・企業・行政の連携」、「地域のつながり」を重視した取り組みが評価されたのです。

 今となってはあまり「エコ」という言葉は使われなくなりましたが、その精神はSDGs(持続可能な開発目標)の目標の1つに着実に引き継がれています。

 スタジアムは古代ローマのコロッセオのように、その街のシンボルとなる施設の一つと言えます。その施設整備・運用に市の最重要政策を具現化し、かつシティセールスにつなげていこうという市の考え方が反映された事業デザインとなっています。

4.ものづくりの街北九州を発信する“街かどショールーム”

 「明治日本の産業革命遺産」としてユネスコの世界遺産に登録された製鉄所や化学・窯業・電機などの工場が市内に集積している北九州市は、日本の近代化をリードして来た「ものづくりの街」としての側面を持っています。そうした都市で2週間に1度Jリーグの試合が行われ、アウェイのサポーターの人たちがスタジアムにやってくることになります。そこで「北九州市のPRができないか」という、これまでの国内スタジアムには全くなかった事業デザインが組み込まれています。

②国の「スタジアム・アリーナ改革」の流れとの関連

 北九州市スタジアム整備等PFI事業の事業デザインについての理解を深めるためには、国の進める「スタジアム・アリーナ改革」について触れる必要があります。スタジアム・アリーナ改革とは、本稿シリーズのタイトルである「運営重視型PPP」によって実現するといっても過言ではありません。

1.スマート・ベニューという考え方

 国のスタジアム・アリーナ改革の流れは、「スマート・ベニュー」がその源流であったと言えるでしょう。「スマート・ベニュー」は、「スポーツを核とした街づくりを担う『スマート・ベニュー』」(2013年8月スマート・ベニュー研究会・日本政策投資銀行地域企画部)において提言された新しい概念です。

 「スマート・ベニュー」は、多機能複合型、民間活力導入、街なか立地、収益力向上をキーワードとして、「周辺のエリアマネジメントを含む、複合的な機能を組み合わせたサステナブルな交流施設」と定義されています。また、「従来の郊外立地で単機能のスポーツ施設を、街なかに立地し公共施設や商業施設などの複合的な機能を組み合わせたスタジアム・アリーナとすることで、施設の事業継続性と周辺地域への外部効果を発揮し、将来世代に負担を残さない施設としていくものである」とも規定されています。

2.国のスタジアム・アリーナ改革

 北九州市スタジアムの建設中の2016年6月、わが国政府が掲げる成長戦略である「日本再興戦略 2016」 の官民戦略プロジェクト10に、「スポーツの成長産業化」が位置づけられました。そしてスタジアム・アリーナは、スポーツ産業の持つ成長性を取り込みつつ、その潜在力を最大限に発揮し、飲食・宿泊、観光等を巻き込んで、地域活性化の起爆剤となることから「スポーツの成長産業化」の1丁目1番地として期待されていました。

 さらに、未来投資戦略 2017(2017年6月閣議決定)において、2025年までに20か所のスタジアム・アリーナの実現を目指すことが具体的な目標として掲げられました。

 多様な世代が集う交流拠点となるスタジアム・アリーナを整備し、スポーツ産業を我が国の基幹産業へと発展させていき、地域経済好循環システムを構築していくということを国が強力にバックアップしていくことが明確に示されたわけです。

 その後、スポーツ庁により「スタジアム・アリーナ改革ガイドブック」が示され、とりわけ「民間活力導入」によりスタジアム・アリーナ改革を進める際の「地方自治体」「スポーツチーム」「国」の役割分担などが明確にされました。

 北九州市スタジアム整備等PFI事業は、国を中心とした「スタジアム・アリーナ改革」が議論される前の事業であり、現在の知見から振り返れば改善点も指摘できると思います。とはいえ、根本的な事業の考え方はスタジアム・アリーナ改革で目指すものと方向を一つにしています。