今後の課題と展望

 「運営重視型PPP」として事業化した北九州市スタジアムですが、現在、コロナ禍が続く中でその運営は困難を極めていると想像できます。そうした中で、今後の展望としていくつかの重要な改善点について筆者なりの考え方を述べるとともに、これからのこのスタジアムに対する期待についても述べたいと考えます。

①まちづくり施設として小倉駅北口の活性化を推進

 小倉駅北地区は北九州市が国際コンベンションゾーンとして整備してきた経緯があることは先述のとおりですが、ここで大きな課題として指摘できるのは、本スタジアム以外の大規模集客施設の指定管理者が公益財団法人北九州観光コンベンション協会であるという点です(ホテルは除く。スタジアムはウィンドシップ北九州がSPCであり指定管理者)。

 理想的には国際コンベンションゾーンにおける大規模施設間の運営連携などを考えれば運営主体は1つであることが望ましいと考えられます。PFI事業においてはエリアマネジメント業務として義務付けていますので、SPCとして関連する会議には出席はするものの、なかなか主体的には動けない状況と思われます。

 誤解を恐れずに指摘するとSPCの経営方向が「スタジアムの管理を粛々と行う、施設を使いたいという人にだけ施設を貸す」になっているのではないかと言うことです。このことはSPCに問題があるというよりも、同PFI事業の様々な条件によるものと考えられます。

 とはいえ、当初の事業目的のため改善できる点は改善すべきであると考えます。筆者が考える改善点としては次の点があります。

1.業務モニタリングの徹底

 まずは要求水準で規定されているようなエリアマネジメント業務をSPCが行っているのかどうかのモニタリングを強化するという方策です。

 どのような取り組みを展開したのか、また実施すれば高い効果がある取り組みについても継続的かつ積極的に市に提案があったのか、イベント誘致等にどのように協力したのか、等について細かくチェックするということです。

 実は国内の多くのPFI事業の発注者(地方自治体)から、「SPCが期待どおりにやってくれない」という声を聞きます。PFI事業のメリットである長期契約の裏返しとしてSPC側の経営の硬直化が指摘できると思います。「契約書通りにやってるので変える必要がない」というわけです。これの抜本的改善策は実はなく、当初よりSPCのモチベーションを喚起する仕組みを組み込んでおく以外にはありません。SPCが柔軟に経営方針を変えることで収益があがるようになる仕組みを当初から内在化させておくことが肝要です。

2.エリアマネジメント業務の切り分け

 PFI事業契約の変更を伴うことになりますが、エリアマネジメント業務についてはSPCの業務からは切り離し、既存のまちづくり団体や公益財団法人北九州観光コンベンション協会が主体的に行えるような建付けに変えてしまうという方策も考えられます。北九州市にとっても新たなコストを顕在化させてしまうことにつながりかねませんが、検討の余地はあるのではないでしょうか。

②コストセンターからプロフィットセンターへの移行

 令和元年度における本スタジアムの北九州市における事業収支は下表の通りです。借地料は別と考えても、実質6千万円程度の赤字となっています。

■運営維持管理 収支(2019年度実績)
内容 金額(千円) 備考
収入 施設使用料 15,173 SPCから市に入る
ネーミングライツ 32,400 (株)ミクニから市に入る
収入合計(a) 47,573
支出 運営経費 42,292 市からSPCへ
維持管理費 61,010 同上
維持管理計 103,302
借地料 58,267 市から地権者へ
支出合計(b) 161,569
収支(a)-(b) ▲113,996
収支比率 47,573/161,559=約30%
(資料:北九州市、備考欄は筆者追記)

 また、利用実績は下表の通りです。

◎使用日数 2017年度 2018年度 2019年度
区分 実績
(日数/人数)
実績
(日数/人数)
実績
(日数/人数)
フィールドの利用 スポーツ 101 139,297 94 115,625 87 175,979
スポーツ以外 3 6,786 17 5,691 19 9,215
フィールド以外の利用(スタンド・コンコース) スポーツ 2 1,505 10 2,002 10 1,057
スポーツ以外 9 15,642 6 8,120 5 11,778
合計 115 163,230 127 131,438 121 198,029
◎参考
会議室等 149 7,099 196 6,696 219 7,011
行政視察等 57 1,170 22 415 14 93
◎合計(人数) 171,499 138,549 205,133
(資料:北九州市)

 スタジアム・アリーナ改革の要諦である「コストセンターからプロフィットセンターへ」と移行するためには、以下の改善が必要ではないかと考えられます。

1.利用料金制度の導入など

 本事業では施設使用料は北九州市が定め、SPCは施設使用料料金徴収代行業務を実施する建付けです(北九州市における他のスポーツ施設に倣った)。スタジアムビジネスにおいて施設使用料収入は収入のベースとなる大きな収入ですので、この収入を最大化するメカニズムを構築する必要があります。欧米の類似施設においては、「(施設使用料については)取れるところからは取る」ことが基本となっていますが、国内の公共施設においては地方自治法上の縛りがあり、柔軟な対応が難しい状況です。とはいえ、本事業においてはまず「利用料金制度」への変更を前提にしないと、これ以上の収入増は現実的に困難ではないかと考えられます。

2.フィールド以外の利活用促進

 天然芝のフィールドに関しては、利用日数に限界があります。本施設の利用実績を見る限りもうこれ以上の利用は困難です。となればフィールド以外の利用に目を向けるほかありません。実際欧州のスタジアムではこのフィールド以外の利用で収益を上げることがスタジアムビジネスの基本となっています。地元企業によるスイートルーム、各種のイベント・会議・セミナー・レセプションなど小規模MICE利用に供されているスタジアムが数多くあります(Jリーグスタジアム視察報告2017参照)。

 とはいえ、SPCの経営自由度を高めないといけないことは言うまでもありません。先述した利用料金制度への変更が最低条件となると思われます。

 北九州市スタジアムにおけるネーミングライツに関しては、現状は「施設の命名権」として活用されていますが、それに関連した権利はまだまだ多く存在します。例えば当該スタジアム内で独占的に物品販売する、マーケティング活動を行えるなどの権利です。スポーツ庁ではこのような権利ビジネスがわが国でまだまだ未成熟であるとの認識のもと、調査を行っています(新たなスポーツビジネス等の創出に向けた市場動向、(2018年3月))。ここでは、数多くのスポンサー・アクティベーションの事例が紹介されており、今後は本事業においても採択されていけば新たな収益源となるでしょう。

③スポーツ産業の活性化など地域経済への波及

 2020年以降、コロナ禍により、スポーツ観戦を含むライブ・エンターテインメント市場が大きな危機にさらされています。Jリーグではスタジアムの収容人員の50%を上限とした入場者数制限で2020シーズン後半は運用していましたが、欧州のプロリーグはいまだに無観客です。

 そうした中、例えば横浜スタジアムでは、コロナ禍におけるスタジアムでの対応に関して、実証実験を通じて事業化を考えています(関連記事:日経クロステック「東京五輪を視野に、客数規制を解除した3万人規模で感染予防技術を実証」)。

 北九州市スタジアムにおいても、「ICT技術の導入」により、スタジアムの課題を解決する、小倉駅北口地区の課題を解決する、ひいては北九州市の課題を解決する、といった動きがこのスタジアムから始まれば、関連するICT企業も集まり、地域経済の活性化にもつながるのではないでしょうか。

東 一洋(あずま・かずひろ)
日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門地域・共創デザイングループ シニアマネジャー
1961年生まれ。神戸大学工学部建築学科卒業後、広告代理店勤務を経て、1989年の創立メンバーとして日本総研に入社。一貫して官民連携プロジェクトに関する計画業務・事業化支援業務などに従事。近年はスポーツ関連のプロジェクトに注力し、スポーツ庁「スタジアム・アリーナ整備に係る資金調達手法・民間資金活用検討会」構成員(2017年度)や日本サッカー協会施設委員会スタジアム部会員などを務める。そのほか、関西学院大学社会学部非常勤講師(2009年より5年間)、大阪市新たな地域コミュニティ支援事業選定会議審査委員(2014年度より)など。