「運営重視型PPP」のススメの第3回目となる今回は、サッカーやラグビーのためのスタジアム整備のPFI事業において、施設の設計・施工・管理・運営業務のみならず、スタジアムの立地する小倉駅新幹線口地区のエリアマネジメントへの協力を義務付けた「北九州市スタジアム整備等PFI事業」(北九州市)を紹介します。

事業概要:1万5000人収容規模のサッカースタジアム

 「北九州市スタジアム整備等PFI事業」は、サッカー(J1ライセンス対応)やラグビーなど球技のためのスタジアム(1万5000人収容規模)の整備・管理・運営をPFI手法にて行う事業です。2017年2月に杮(こけら)落しを済ませており、現在はJ2ギラヴァンツ北九州のホームスタジアムとして使用されています。名称は、ネーミングライツにより「ミクニワールドスタジアム北九州」と呼ばれています(正式名称は北九州市スタジアム)。この事業の経緯は以下に示す通りです。

①整備のきっかけ

 2007年4月、北九州市体育協会を通じ、北九州市サッカー協会、ラグビー協会が市に対してスタジアム整備の要望を提出しました。これを受けて、北九州市スポーツ振興審議会は2008年3月、北九州市の体育施設が抱える問題点、重点施策との関係、財政状況等を踏まえた「北九州市の体育施設のあり方」についての提言を発表しました。

【提言内容】
・高規格大規模の体育施設(Jリーグ規格を満たした球技場の整備、総合体育館、市民球場の改修等)が必要。
・特に、ニューウェーブ北九州がJリーグに昇格する可能性が高まりつつあることや、企業・市民の支援の輪が広がりつつあることを考慮すると、昇格条件であるJリーグ規格を満たした球技場は優先的に整備すべき。

 そして2009年11月、地元のフットボールクラブ「ニューウェーブ北九州」がJFLを勝ち抜き、晴れてJリーグ(J2)に昇格、チーム名を「ギラヴァンツ北九州」として活動を開始しました。

②北九州市における整備に向けた準備と事業化

 ①で説明したような地元スポーツ界の盛り上がりを受け、北九州市では2010年11月、「新球技場の基本方針」を公表。下表のように準備し事業化を進めました。

2010年11月 「新球技場の基本方針」の公表
2011年~12年 整備方針の策定(1回目の公共事業評価)
2012年~13年 事業計画の策定(2回目の公共事業評価)
2013年6月 市長整備着手表明
2014年2月~7月 PFI事業者公募・選定
2015年4月~17年1月 工事
2017年2月 スタジアムオープン
(公開情報より日本総研作成)

 2017年2月、スタジアムの杮落しとして「サンウルブズvsジャパンラグビートップリーグオールスター」が行われました。そして同年3月に行われたJ3リーグ第1節の「ギラヴァンツ北九州vsブラウブリッツ秋田」を「グランドオープン」と位置づけ、完成式典・オープニングイベントが行われました。試合中に選手の蹴ったボールが低いバックスタンドを超えて海に落ちる「海ぽちゃスタジアム」として話題をさらったことは記憶に新しいと思います。

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「海ぽちゃスタジアム」として話題をさらった北九州市スタジアム(写真提供:2枚とも北九州市)
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事業デザイン(1):「まちづくり」の観点を重視

①スタジアムの考え方

 PFI事業の実施に先立ち、北九州市では、新幹線駅である小倉駅新幹線口地区(駅から7分という至近距離)の立地条件を勘案し、次の4つのスタジアムコンセプトを策定しました。

  1. みんながつどい、にぎわいを生む“海ちか・街なか”スタジアム
  2. 夢と感動を生み出す“ダイナミック”スタジアム
  3. 環境未来都市にふさわしい“エコ”スタジアム
  4. ものづくりの街北九州を発信する“街かどショールーム”
北九州スタジアムの位置(資料提供:北九州市)
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 ここで注目すべきは、通常スポーツ施設のコンセプトに含まれることの少ない「街なか」や「ものづくり」といったキーワードが含まれている点です。

 通常、自治体のスポーツ施設の整備はスポーツ部局が担当します。スポーツ部局は「スポーツの振興」「スポーツ競技団体の支援」そして、「(市民が)するスポーツ」の環境整備が主たる仕事となっています。しかしながら、北九州市スタジアム整備等PFI事業については、北九州市の建築都市局(都心・副都心開発室)が進めた事業です。北九州市では、スタジアムの整備に際して「スポーツの振興」はもとより「まちづくり」の観点を重視した結果、建築都市局を主管部局として事業を進めました。この「まちづくり」の観点は、国が進める「スタジアム・アリーナ改革」を先取りしたものであり、国内の先駆的事例いえるでしょう。

②北九州市スタジアム整備等PFI事業の詳細

 この事業は、民間のノウハウを活用することで、より質の高い市民サービスの提供、整備費の縮減、維持管理の効率化を図るため、施設の設計・建設から維持管理・運営を一事業者が一括して実施する「PFI事業」により実施しました。

 スタジアムという事業は、民間のみによる独立採算可能な事業収益構造を持っていません。国はスタジアム・アリーナ改革を目指していますが、国内の公共施設のスタジアム・アリーナにおいては、独立採算による運営は、天然芝の養生の観点から利用日数制限があること、施設の安定的ユーザーであるJクラブのホームゲームは年間30試合もないことなどの要因により難しいのが現状です。こうした背景に鑑み、北九州市ではBTO(Build Transfer Operate)方式によるPFI事業による施設整備を採用しました。スタジアムの設計・施工・管理・運営を行う民間事業者がSPCを組成し、15年間の管理運営を公の施設の指定管理者として行っています。

1.PFI事業者について

 新しいスタジアムを設計・建設・維持管理・運営する予定事業者は平成26(2014)年7月15日、落札者は、九州において複数のPFI事業経験を有する(株)九電工を代表企業とするグループが選定されました。その後、SPCである株式会社ウインドシップ北九州と事業契約が締結されました。SPCの構成(SPC設立当初)は次の通りです。

担  当 企業名
代表企業 九電工
構成企業 建設 奥村組
若築建設
九電工
運営、維持管理、エリアマネジメント、民間自主事業 美津濃
日本施設協会
協力企業 設計・工事監理 梓設計
(資料:北九州市)
2.事業期間と事業費

 PFI事業期間(整備・運営管理期間)は2014年9月から2032年3月まで(管理・運営期間は15年間)となっています。総事業費は約115.4億円となっており、内訳などは下表に示すとおりです。

PFI総事業費 115億3763万円
内訳
設計・建設費 99億8676万円
維持管理・運営費(15年間) 15億5087万円
設計・建設費の財源内訳
totoくじ助成金 30億円
社会資本整備総合交付金 1億3500万円
一般財源 1776万円
市債 68億3400万円
(北九州市資料)
3.事業スキーム

 北九州市スタジアム整備等PFI事業はBTO方式によるPFIが採用されていますが、民間資金を投入する方式とはなっていません。下図のように、SPCが借り入れるのは建設期間中の短期借り入れのみとなっています。厳密にいえば、DBO方式に近い事業スキームと言えます。

 また、SPCは同時にスタジアムの指定管理者となり15年間の管理運営業務を実施することになっています。

(資料:北九州市)
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事業デザイン(2):エリアマネジメント業務をPFIに組み込む

①なぜPFI事業としたのか

 まず、この事業をPFIという手法で実施した一番の理由は、行政と民間が長期の契約を結ぶことができるという点です。DBOで整備し、管理運営において指定管理者制度を活用しようとすると、北九州市の場合、原則「5年を基本」する指定期間に縛られることになるからです。

 資金力や各種のネットワークを豊富に有する大手企業との長期のパートナーシップ関係を築くことで小倉駅北地区のまちづくり・エリアマネジメントにつなげたいということが、市がこの事業をPFI事業としたことの最大の理由なのです。

 北九州市スタジアム整備等PFI事業は、「まちづくり」のためのスタジアム整備事業であるとの基本的な考え方がありました。市では、「まちづくり」のためのパートナーとの契約がたった5年間で良いのかと考えました。また指定管理者制度は厳密には契約関係ではなく、行政指導ですのでパートナーシップではありません。この事業のように、SPCと市との間で対等なPFI事業契約が結ばれている場合、まちづくりにおいて、より民間側が主体的にコミットしやすくなるといえるでしょう。

②ギラヴァンツ北九州の位置づけ

 事業化準備プロセスにおいて特にスポーツチームであるギラヴァンツ北九州(当時はJ2)と北九州市との情報共有に努めました。ホームスタジアムとするスポーツチームがスタジアムの運営に関与することが望ましいと考えていたからです。当時そのような形態となっていたスタジアムはまだ少なく、下表のように4スタジアムしかない状況だったのです。

■2013年度におけるJクラブのスタジアム運営参加の状況
チーム名 スタジアム
(使用名・愛称)
収容人数
(人)
所有者 指定管理者
鹿島 県立カシマサッカースタジアム 40,728 茨城県 株式会社鹿島アントラーズ・エフ・シー
日立柏サッカー場 15,349 日立柏レイソル ※日立柏レイソル
横浜F・M 日産スタジアム 72,327 横浜市 横浜市体育協会・横浜マリノス・管理JV(ハリマビステム・東京ビジネスサービス・シンテイ警備・西田装美・協栄)共同事業体
新潟 東北電力ビッグスワンスタジアム 42,300 新潟県 アルビレックス新潟・都市緑化センターグループ
※民間所有施設であり指定管理者ではない
(北九州市資料)
* その後、スポーツ庁により「スタジアム・アリーナ改革ガイドブック」が示され、行政、ホームスタジアムとするスポーツチーム。経済界、学識等による「官民連携協議会」のような組織体を組成し、事業化に取り組むことを推奨しています。この事業はスタジアム・アリーナ改革の動きより以前のプロジェクトでしたので、「官民連携協議会」は組成していませんが、同様の方向性を目指した事業といえます。

 そこで、ギラヴァンツ北九州の意向(スタジアム運営に将来的には参加すべきであるが、当時は人的リソース等の余裕がない)を踏まえ、PFI事業の実施に際しては、公募の枠外に位置づけ公平性を担保することとしました。

2 入札参加者の構成等
(1) (2)省略
(3)Jリーグ公式戦において施設を優先利用する株式会社ギラヴァンツ北九州(以下、「ギラヴァンツ北九州」という。)との関わりは、公正な入札を図るため以下のとおりとする。
ア ギラヴァンツ北九州は、事業者募集段階(入札公告から落札者の決定まで)においては、入札参加グループに参加しない。
イ 入札参加グループ(代表企業、構成企業、協力企業)は、入札事項に関してギラヴァンツ北九州に接触してはならない。
ウ SPC設立後、ギラヴァンツ北九州は本施設の優先利用者として、SPCと協議の上、本施設の維持管理・運営において、連携・協力(一部業務を受託する等)することができる。
(入札説明書より抜粋)

 結果、ギラヴァンツ北九州SPCに参画せず、現在もスタジアムの利用者という立場を継続していますが、2020シーズンにはJ2に昇格、今後はJ1も視野に入ってくることから、クラブの経営規模拡大とともにスタジアム運営への参画も現実味を帯びてくるのではないかと考えられます。

③エリアマネジメント業務を事業範囲に組み込み

 当初より北九州市は小倉駅新幹線口地区の活性化、まちづくりにスタジアムが寄与することを目論んでいました。とはいえ、すでにいくつかのまちづくり団体も設立されていた状況でしたので、事業者公募では以下のようにエリアマネジメント業務を事業者の業務範囲として明確化しました。

4.小倉駅新幹線口地区のエリアマネジメントに関する業務
(1) 業務の目的
事業者は、本施設の運営にあたり、本施設周辺の公共空間、関連施設等の連携・協力を図りながら、小倉駅新幹線口地区全体の活性化ならびに賑わいの創出を図ることを目的に、小倉駅新幹線口地区のエリアマネジメントに協力するものとする。
(2) 業務の内容
事業者は、小倉駅新幹線口地区全体の活性化と賑わい創出を図るため、様々な取り組みを市に提案するとともに、エリアマネジメントについて周辺施設の地権者、運営事業者、利用者、市、まちづくり団体等との綿密な連携・協力を行うものとする
(3) 要求水準
本業務は、小倉駅新幹線口地区全体の活性化と賑わい創出、本施設の有効活用に向け、取り組むこと。事業者は、積極的に小倉駅新幹線口地区の関係者と連携・協力を図り、様々な取り組みを展開すること。また、市が別途実施すれば高い効果がある取り組みについても継続的かつ積極的に提案を行い、イベント誘致等に協力するものとする。(民間自主事業として自ら実施することを妨げない。)
(要求水準書より抜粋)

 2019年のラグビーワールドカップ開催時には、北九州市でウェールズ代表チームの事前キャンプが実施され、練習施設としてこのスタジアムが使われ、隣接する国際会議場で関連レセプションの開催、近接するあさい汐風公園で関連イベントの開催、小倉駅南の商店街も巻き込み、大きな盛り上がりを醸成できたことは「スタジアムを核としたエリアマネジメント」のひとつの形態として評価できる取り組みであったと言えます。

 とはいえ、まちづくりは一朝一夕に出来るものではなく、あと10年あまり続くPFI事業期間においてさらなる成果が期待されるところです。

事業デザイン(3):4つの基本コンセプトと「スタジアム・アリーナ改革」

①本コンセプトに基づく事業デザイン

 事業のデザインの根幹となるのは、前述の北九州市が設定した4つの基本コンセプトです。このメッセージを民間事業者に発信し、新たなスタジアム事業についての民間ならではの提案を求めることが本事業の事業デザインでした。以下、4つの基本コンセプトそれぞれについて概略を説明します。

1.みんながつどい、にぎわいを生む“海ちか・街なか”スタジアム

 この基本コンセプトが設定された背景には、当時の小倉駅新幹線口地区の状況を知る必要があります。新幹線駅である小倉駅は在来線の小倉駅と同じ駅であり、北九州の表玄関です。市街地は駅の南地区一帯に広がり、小倉城や魚町の繁華街などで賑わっていました。一方で北九州市では小倉駅新幹線口地区を国際コンベンションゾーン(次表参照)として位置づけ、見本市会場、国際会議場、ホテルの3点セットを整備・誘致してきたのですが、各施設の規模の大きさや週末偏重の集客等により、平日の人の少なさが目立つようになっていました。そこで、民間駐車場として利用されていた敷地をスタジアムの候補地として選定し、Jリーグ基準のスタジアムを整備し、小倉駅新幹線口地区の活性化につなげたいと考えました。それが最初の事業デザインです。

■小倉駅新幹線口地区に立地する主な施設
名称 施設内容 設置主体 管理運営主体 開業年月 特徴
西日本総合展示場 展示施設(コンベンションセンター) 財団法人西日本産業貿易見本市協会 公益財団法人北九州観光コンベンション協会 1977年5月開業。新館は1998年4月 「東京ガールズコレクション北九州」や「北九州アイススケートセンター」を開催
北九州国際会議場 国際会議場 北九州市 公益財団法人北九州観光コンベンション協会 1990年10月6日開設 国際コンベンションゾーンの中核施設
リーガロイヤルホテル小倉 ホテル (株)リーガロイヤルホテル小倉 1993年 小倉豊楽園球場の跡地に立地
アジア太平洋インポートマート 輸入促進を目的とした流通センター棟と展示場棟からなる複合施設 北九州輸入促進センター(KIPRO) 公益財団法人北九州観光コンベンション協会 1998年4月開業 民活法の適用事業
あさの汐風公園 小倉駅北口 浅野に位置するシンボルロード公園 北九州市 北九州市 2012年10月 自然エネルギー(太陽光発電・風力発電)の利活用
(北九州市資料)
2.夢と感動を生み出す“ダイナミック”スタジアム

 この考え方は、スタジアムの形態そのものを規定するものです。本事業の計画当時のJリーグのスタジアムの多くは陸上競技場であり、観戦体験の見地から非常に不満足な状況でした。北九州市においても本城陸上競技場がギラヴァンツの当時のホームグラウンドでした。Jリーグ事務局も「なぜ野球場は専用であるのに、サッカーの専用はないのか」とサッカー専用スタジアムの必要性を強く発信し始めていた時期でもあります。また筆者も早くから専用スタジアムの必要性を主張していました(参照)。

 幸いなことに、本事業の計画地は3ha弱ととても狭く、陸上競技場が配置不可能でしたので、「陸上競技場を整備すべき」という不毛な議論にはならず、サッカーやラグビーのトップアスリート達のプレーを目の前で観ることができる環境整備を考えました。

3.環境未来都市にふさわしい“エコ”スタジアム

 北九州市は、その産業史(重化学工業の発展による公害の発生)を背景に、地球環境問題への取り組みの先進都市でした。2008年度に「環境モデル都市」に選定され、その3年後「環境未来都市」に選定されています。公害克服や環境国際協力の経験・モノづくりの技術を基盤に「市民・企業・行政の連携」、「地域のつながり」を重視した取り組みが評価されたのです。

 今となってはあまり「エコ」という言葉は使われなくなりましたが、その精神はSDGs(持続可能な開発目標)の目標の1つに着実に引き継がれています。

 スタジアムは古代ローマのコロッセオのように、その街のシンボルとなる施設の一つと言えます。その施設整備・運用に市の最重要政策を具現化し、かつシティセールスにつなげていこうという市の考え方が反映された事業デザインとなっています。

4.ものづくりの街北九州を発信する“街かどショールーム”

 「明治日本の産業革命遺産」としてユネスコの世界遺産に登録された製鉄所や化学・窯業・電機などの工場が市内に集積している北九州市は、日本の近代化をリードして来た「ものづくりの街」としての側面を持っています。そうした都市で2週間に1度Jリーグの試合が行われ、アウェイのサポーターの人たちがスタジアムにやってくることになります。そこで「北九州市のPRができないか」という、これまでの国内スタジアムには全くなかった事業デザインが組み込まれています。

②国の「スタジアム・アリーナ改革」の流れとの関連

 北九州市スタジアム整備等PFI事業の事業デザインについての理解を深めるためには、国の進める「スタジアム・アリーナ改革」について触れる必要があります。スタジアム・アリーナ改革とは、本稿シリーズのタイトルである「運営重視型PPP」によって実現するといっても過言ではありません。

1.スマート・ベニューという考え方

 国のスタジアム・アリーナ改革の流れは、「スマート・ベニュー」がその源流であったと言えるでしょう。「スマート・ベニュー」は、「スポーツを核とした街づくりを担う『スマート・ベニュー』」(2013年8月スマート・ベニュー研究会・日本政策投資銀行地域企画部)において提言された新しい概念です。

 「スマート・ベニュー」は、多機能複合型、民間活力導入、街なか立地、収益力向上をキーワードとして、「周辺のエリアマネジメントを含む、複合的な機能を組み合わせたサステナブルな交流施設」と定義されています。また、「従来の郊外立地で単機能のスポーツ施設を、街なかに立地し公共施設や商業施設などの複合的な機能を組み合わせたスタジアム・アリーナとすることで、施設の事業継続性と周辺地域への外部効果を発揮し、将来世代に負担を残さない施設としていくものである」とも規定されています。

2.国のスタジアム・アリーナ改革

 北九州市スタジアムの建設中の2016年6月、わが国政府が掲げる成長戦略である「日本再興戦略 2016」 の官民戦略プロジェクト10に、「スポーツの成長産業化」が位置づけられました。そしてスタジアム・アリーナは、スポーツ産業の持つ成長性を取り込みつつ、その潜在力を最大限に発揮し、飲食・宿泊、観光等を巻き込んで、地域活性化の起爆剤となることから「スポーツの成長産業化」の1丁目1番地として期待されていました。

 さらに、未来投資戦略 2017(2017年6月閣議決定)において、2025年までに20か所のスタジアム・アリーナの実現を目指すことが具体的な目標として掲げられました。

 多様な世代が集う交流拠点となるスタジアム・アリーナを整備し、スポーツ産業を我が国の基幹産業へと発展させていき、地域経済好循環システムを構築していくということを国が強力にバックアップしていくことが明確に示されたわけです。

 その後、スポーツ庁により「スタジアム・アリーナ改革ガイドブック」が示され、とりわけ「民間活力導入」によりスタジアム・アリーナ改革を進める際の「地方自治体」「スポーツチーム」「国」の役割分担などが明確にされました。

 北九州市スタジアム整備等PFI事業は、国を中心とした「スタジアム・アリーナ改革」が議論される前の事業であり、現在の知見から振り返れば改善点も指摘できると思います。とはいえ、根本的な事業の考え方はスタジアム・アリーナ改革で目指すものと方向を一つにしています。

今後の課題と展望

 「運営重視型PPP」として事業化した北九州市スタジアムですが、現在、コロナ禍が続く中でその運営は困難を極めていると想像できます。そうした中で、今後の展望としていくつかの重要な改善点について筆者なりの考え方を述べるとともに、これからのこのスタジアムに対する期待についても述べたいと考えます。

①まちづくり施設として小倉駅北口の活性化を推進

 小倉駅北地区は北九州市が国際コンベンションゾーンとして整備してきた経緯があることは先述のとおりですが、ここで大きな課題として指摘できるのは、本スタジアム以外の大規模集客施設の指定管理者が公益財団法人北九州観光コンベンション協会であるという点です(ホテルは除く。スタジアムはウィンドシップ北九州がSPCであり指定管理者)。

 理想的には国際コンベンションゾーンにおける大規模施設間の運営連携などを考えれば運営主体は1つであることが望ましいと考えられます。PFI事業においてはエリアマネジメント業務として義務付けていますので、SPCとして関連する会議には出席はするものの、なかなか主体的には動けない状況と思われます。

 誤解を恐れずに指摘するとSPCの経営方向が「スタジアムの管理を粛々と行う、施設を使いたいという人にだけ施設を貸す」になっているのではないかと言うことです。このことはSPCに問題があるというよりも、同PFI事業の様々な条件によるものと考えられます。

 とはいえ、当初の事業目的のため改善できる点は改善すべきであると考えます。筆者が考える改善点としては次の点があります。

1.業務モニタリングの徹底

 まずは要求水準で規定されているようなエリアマネジメント業務をSPCが行っているのかどうかのモニタリングを強化するという方策です。

 どのような取り組みを展開したのか、また実施すれば高い効果がある取り組みについても継続的かつ積極的に市に提案があったのか、イベント誘致等にどのように協力したのか、等について細かくチェックするということです。

 実は国内の多くのPFI事業の発注者(地方自治体)から、「SPCが期待どおりにやってくれない」という声を聞きます。PFI事業のメリットである長期契約の裏返しとしてSPC側の経営の硬直化が指摘できると思います。「契約書通りにやってるので変える必要がない」というわけです。これの抜本的改善策は実はなく、当初よりSPCのモチベーションを喚起する仕組みを組み込んでおく以外にはありません。SPCが柔軟に経営方針を変えることで収益があがるようになる仕組みを当初から内在化させておくことが肝要です。

2.エリアマネジメント業務の切り分け

 PFI事業契約の変更を伴うことになりますが、エリアマネジメント業務についてはSPCの業務からは切り離し、既存のまちづくり団体や公益財団法人北九州観光コンベンション協会が主体的に行えるような建付けに変えてしまうという方策も考えられます。北九州市にとっても新たなコストを顕在化させてしまうことにつながりかねませんが、検討の余地はあるのではないでしょうか。

②コストセンターからプロフィットセンターへの移行

 令和元年度における本スタジアムの北九州市における事業収支は下表の通りです。借地料は別と考えても、実質6千万円程度の赤字となっています。

■運営維持管理 収支(2019年度実績)
内容 金額(千円) 備考
収入 施設使用料 15,173 SPCから市に入る
ネーミングライツ 32,400 (株)ミクニから市に入る
収入合計(a) 47,573
支出 運営経費 42,292 市からSPCへ
維持管理費 61,010 同上
維持管理計 103,302
借地料 58,267 市から地権者へ
支出合計(b) 161,569
収支(a)-(b) ▲113,996
収支比率 47,573/161,559=約30%
(資料:北九州市、備考欄は筆者追記)

 また、利用実績は下表の通りです。

◎使用日数 2017年度 2018年度 2019年度
区分 実績
(日数/人数)
実績
(日数/人数)
実績
(日数/人数)
フィールドの利用 スポーツ 101 139,297 94 115,625 87 175,979
スポーツ以外 3 6,786 17 5,691 19 9,215
フィールド以外の利用(スタンド・コンコース) スポーツ 2 1,505 10 2,002 10 1,057
スポーツ以外 9 15,642 6 8,120 5 11,778
合計 115 163,230 127 131,438 121 198,029
◎参考
会議室等 149 7,099 196 6,696 219 7,011
行政視察等 57 1,170 22 415 14 93
◎合計(人数) 171,499 138,549 205,133
(資料:北九州市)

 スタジアム・アリーナ改革の要諦である「コストセンターからプロフィットセンターへ」と移行するためには、以下の改善が必要ではないかと考えられます。

1.利用料金制度の導入など

 本事業では施設使用料は北九州市が定め、SPCは施設使用料料金徴収代行業務を実施する建付けです(北九州市における他のスポーツ施設に倣った)。スタジアムビジネスにおいて施設使用料収入は収入のベースとなる大きな収入ですので、この収入を最大化するメカニズムを構築する必要があります。欧米の類似施設においては、「(施設使用料については)取れるところからは取る」ことが基本となっていますが、国内の公共施設においては地方自治法上の縛りがあり、柔軟な対応が難しい状況です。とはいえ、本事業においてはまず「利用料金制度」への変更を前提にしないと、これ以上の収入増は現実的に困難ではないかと考えられます。

2.フィールド以外の利活用促進

 天然芝のフィールドに関しては、利用日数に限界があります。本施設の利用実績を見る限りもうこれ以上の利用は困難です。となればフィールド以外の利用に目を向けるほかありません。実際欧州のスタジアムではこのフィールド以外の利用で収益を上げることがスタジアムビジネスの基本となっています。地元企業によるスイートルーム、各種のイベント・会議・セミナー・レセプションなど小規模MICE利用に供されているスタジアムが数多くあります(Jリーグスタジアム視察報告2017参照)。

 とはいえ、SPCの経営自由度を高めないといけないことは言うまでもありません。先述した利用料金制度への変更が最低条件となると思われます。

 北九州市スタジアムにおけるネーミングライツに関しては、現状は「施設の命名権」として活用されていますが、それに関連した権利はまだまだ多く存在します。例えば当該スタジアム内で独占的に物品販売する、マーケティング活動を行えるなどの権利です。スポーツ庁ではこのような権利ビジネスがわが国でまだまだ未成熟であるとの認識のもと、調査を行っています(新たなスポーツビジネス等の創出に向けた市場動向、(2018年3月))。ここでは、数多くのスポンサー・アクティベーションの事例が紹介されており、今後は本事業においても採択されていけば新たな収益源となるでしょう。

③スポーツ産業の活性化など地域経済への波及

 2020年以降、コロナ禍により、スポーツ観戦を含むライブ・エンターテインメント市場が大きな危機にさらされています。Jリーグではスタジアムの収容人員の50%を上限とした入場者数制限で2020シーズン後半は運用していましたが、欧州のプロリーグはいまだに無観客です。

 そうした中、例えば横浜スタジアムでは、コロナ禍におけるスタジアムでの対応に関して、実証実験を通じて事業化を考えています(関連記事:日経クロステック「東京五輪を視野に、客数規制を解除した3万人規模で感染予防技術を実証」)。

 北九州市スタジアムにおいても、「ICT技術の導入」により、スタジアムの課題を解決する、小倉駅北口地区の課題を解決する、ひいては北九州市の課題を解決する、といった動きがこのスタジアムから始まれば、関連するICT企業も集まり、地域経済の活性化にもつながるのではないでしょうか。

東 一洋(あずま・かずひろ)
日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門地域・共創デザイングループ シニアマネジャー
1961年生まれ。神戸大学工学部建築学科卒業後、広告代理店勤務を経て、1989年の創立メンバーとして日本総研に入社。一貫して官民連携プロジェクトに関する計画業務・事業化支援業務などに従事。近年はスポーツ関連のプロジェクトに注力し、スポーツ庁「スタジアム・アリーナ整備に係る資金調達手法・民間資金活用検討会」構成員(2017年度)や日本サッカー協会施設委員会スタジアム部会員などを務める。そのほか、関西学院大学社会学部非常勤講師(2009年より5年間)、大阪市新たな地域コミュニティ支援事業選定会議審査委員(2014年度より)など。

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/102700030/011500003/