事業デザイン(1):作品の収集・展示を民間に委ねる

 吉野町緑地周辺整備等PFI事業は、事業デザイン上、三つの特徴があります。

 まず第一に、美術館運営の根幹となる「どのような作品を収集・展示するのか」ということについて、民間事業者の提案を求めたことです。弘前市として同事業で達成したいアウトカム(成果目標)は、先に述べた「(仮称)吉野町文化交流拠点基本計画書」で示された「コンセプト・基本方針」に示されていますが、その成果目標を、具体的にどのような作品収集や展示を行うことによって実現するのかについては、要求水準書に示していません。市は、行政よりも知見・ノウハウを有する民間からの提案を受けて作品の収集・展示を行う方が目標達成に向けて効果的であると評価したのです。特に、収集する作品を民間事業者の提案事項としたことは、美術館のPPP事業において極めて挑戦的な取り組みであり、「運営重視型PPP」の一つの新機軸といえます。

通常、公立美術館の運営にあたっては、行政職員としての学芸員が中心となり、作品の収集から展示企画などが実施されることが多くみられるが、弘前れんが倉庫美術館では学芸機能も含めて民間事業者に委ねた(資料:日本総合研究所)
通常、公立美術館の運営にあたっては、行政職員としての学芸員が中心となり、作品の収集から展示企画などが実施されることが多くみられるが、弘前れんが倉庫美術館では学芸機能も含めて民間事業者に委ねた(資料:日本総合研究所)
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 収集する作品の購入費用については、本PFI事業のサービス対価外として、市が別途予算化し、そこから拠出する方式としています(まず当初の3年間の予算として上限3億円)。民間事業者側が選定し提案した作品を、市が設置した弘前市美術作品等収集選定委員会で審査したうえで、購入を決定します。さらに、市のふるさと納税のメニューの中に、美術館を応援するためのコースを設置し、寄付金の活用を検討しています。

 第二に、民間側の事業計画に基づくプロフィットシェアの仕組みを導入していることです。

 「プロフィットシェア」とは、利用料などの収入を得る公共事業において、事業収益が一定の条件を超えた場合には、民間側がその収益を得られるとともに、市に一部を還元する仕組みのことを指します。通常の場合、指定管理者による公共施設の運営は、行政機関から指定を受けた民間事業者が利用料金を徴収し、その収入で足りない運営維持管理経費を指定管理料として市が事業者に支払います。他方、このPFI事業では、民間側に美術館運営についての事業計画を提案してもらい、当該収益が、市の計画した収入に対して3割以上超過する場合は、3割超の部分について50%を市に返還し、50%は民間側の収益となります。なお、市の計画した収入に対して超過が3割未満の場合は、市は返還を求めないことになっています。

 弘前れんが倉庫美術館が、市の「クリエイティブ・ハブ」として機能するためには、より多くの人に美術館のサービスを享受してもらうことが前提となります。そして、より多くの人に来館してもらうために導入したのがプロフィットシェアの仕組みです。

 もしプロフィットシェアの仕組みがない場合、利益を追求する民間事業者にとっては、(公共心を持ち合わせている事業者であっても)一定以上の集客をすることに対するインセンティブが働きにくくなると考えられます。結果として、美術館は「クリエイティブ・ハブ」としての役割を果たせず、市の財政への還元も最小化しかねません。プロフィットシェアは、官民双方が同じ目標を達成するために協力し合う関係を構築するために必要な仕組みであると考えています。

 本コラムで論じる「運営重視型PPP」、すなわち「まちづくりへの影響の大きい集客力の高い公共施設や公有地の利活用におけるPPP事業」の場合、その要諦は、効率的な事業実施によりコストを削減するという観点だけでなく、いかに民間の自由な発想で施設運営を行ってもらい、利用者数を増やし、収入を増やしてもらうことにあると考えています。民間事業者はより一層の裁量を得る一方で事業リスクも取ることになりますが、利用料金制度だけでなくプロフィットシェアというインセンティブ付与の仕組みを導入することは、過度な民間へのリスク転嫁を避けることにもつながります。

 第三の特徴は、公募開始後から提案提出後の審査までの間、多くの官民対話によって、民間事業者側の「公共心」を醸成しながら事業を推進できたことです。

 公募段階では、事業条件や提案内容に関する市と提案事業者との対話の複数回設けました。事業者側の提案内容について、大きく事業条件を外れていないか、要求水準未達になっていないかなどを確認しながら、事業者側の提案精度を高めるためだけでなく、「れんが倉庫での展示空間イメージ」「期待する展示や実施プログラム」といった公募書類や要求水準書などでは伝えきれていない市側の想いを、提案する事業者に丁寧に伝えていくことも重視しました。

 さらに、優先交渉権者決定後の契約協議、設計協議、施工時における定例会議など、頻繁に市と事業者側の対話、打ち合わせを実施し、取り交わした契約書の文面だけでは処理しきれない課題をともに解決しながら、2020年2月の竣工にたどり着きました。立場を超えて、同じ目標を共有し、それに向かって課題を解決しながら進んでいくことで、民間事業者側の「公共心」も高まっていきます。志を共にする官民の対話による信頼関係の構築こそが、共に事業を創り上げるために必要なプロセスであると考えます。