今後の課題と展望

 このPFI事業によって、市民は日常的に現代アートの「本物」に触れる場と機会を得ました。弘前市出身で人気の高い現代美術家、奈良美智氏の作品をはじめ、国内外の一流アーティストが同美術館のために制作したサイトスペシフィックな(特定の場のためにつくられた)現代アート作品の展示が2021年度以降も計画されています。

「青森アートミュージアム5館連携協議会」のウェブサイト
「青森アートミュージアム5館連携協議会」のウェブサイト

 加えて、県内他地域との連携による取り組みの萌芽があります。青森県内には、青森県立美術館、十和田市現代美術館などの著名な美術館が現存するとともに、八戸市でも新美術館の整備が進められています。これらの美術館が連携し、青森県全体で質の高い文化芸術を発信することで、弘前市内にとどまらない文化芸術を核としたまちづくり及び交流・連携が広がっていくことが期待されます。「青森アートミュージアム5館連携協議会」の設立(2020年7月8日設立)を皮切りに、これから具体的な取り組みが進められると考えられます。

 ただし、前述のとおり、「弘前れんが倉庫美術館」は、新型コロナウイルス感染拡大を防止するために、当初の予定から約2カ月遅れて、2020年6月にオープンしました。開館した2020年は、世界的なコロナ禍の影響を受け、開館時期がずれたことや、来場者数が当初の見込みから大きく下振れする事態も発生しています。今後、この信頼関係に基づいて、運営段階での条件変更などの官民対話が必要になってくるかもしれません。

 また、社会的に新たな生活様式が求められている中、ニューノーマル(新常態)の中、弘前れんが倉庫美術館もまた、美術館、公共施設の新たな在り方を模索していくこととなります。そして、ニューノーマルの中で確立された弘前市の「クリエイティブ・ハブ」として、地域に変化をもたらすことが期待されます。

 新型コロナウィルスによる感染が収束すれば、文化・芸術を核としたコミュニティの形成が図られることが期待されます。文化・芸術分野の人材の集積はもちろんのこと、市民、国内観光客、訪日外国人客などが訪れることによって、美術館および土淵川吉野町緑地がコミュニティ形成の場となり、交流と賑わいを生み出していくことでしょう。

 弘前から新たな文化芸術が創造され、新しい価値を生み出す人材が育成され、さらに弘前に人が集まり、経済循環が生まれるという、エコシステムが構築されることが期待されています。「弘前れんが倉庫美術館」を中心とした吉野町緑地周辺整備等PFI事業が、そのサイクルを生み出す第一歩になることを祈念しています。

前田 直之(まえだ・なおゆき)
日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 地域・共創デザイングループ ディレクタ
1978年生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科修了(工学修士)。2003年に建設コンサルタント会社に入社、2007年に日本総合研究所入社。国・自治体の調査研究、計画策定、PPP/PFI事業化支援、地域エネルギー事業化支援などのコンサルティング業務に従事。文化芸術、スポーツ等の分野に明るい。内閣府のPPP/PFI専門家派遣や自治体セミナー講師として多数登壇。2019年から地域・共創デザイングループのディレクタ就任。