「運営重視型PPP」のススメの第5回目となる今回は、事業廃止後、野ざらしとなっていた旧競輪場を、民間のノウハウにより、「ブランチ大津京」と「近江神宮外苑公園」として再生した「大津びわこ競輪場跡地公募提案型貸付事業(滋賀県大津市)」を紹介します。商業施設と公園の融合をP-PFIの制度化に先駆け実現したことに加え、旧競輪場の解体撤去、公園整備等において、市が財政負担を行わずに実現した事業です。

事業概要:旧大津びわこ競輪場の解体・解体後の敷地利活用を民間活力で

 人口約34万人(2021年3月1日時点)の大津市は、琵琶湖の南西部を囲う形で位置しています。古くは667 年の天智天皇が近江大津宮に都を遷した歴史を持ち、世界遺産の比叡山延暦寺や紫式部ゆかりの石山寺が存し、江戸時代以降は東海道の宿場町として栄えるなど、歴史・文化に富むまちです。

 近江神宮から約1kmの東のびわ湖湖畔に、かつての大津びわこ競輪場が位置していました。

旧競輪場跡地の位置と当時の写真(出所:日本総合研究所)
旧競輪場跡地の位置と当時の写真(出所:日本総合研究所)
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 2017年2月に、旧大津びわこ競輪場を解体するとともに、解体後の敷地を利活用する民間事業者を募集するため、「大津びわこ競輪場跡地公募提案型貸付事業 募集要項」を公表し、公募を開始しました。同年3月に参加表明を受け付けたところ、5者から参加表明がありました。その後、提案内容に関する対話を経て、同年5月に3者から企画提案書の提出がありました。

 同年7月のプレゼンテーションおよび選定委員会による企画提案書の審査を実施。地域の交流促進や活性化にあたり多様なプレーヤーを巻き込んだ先進的な方策が提案されており、当該地域ひいては大津市に新たな人材や産業が創出される可能性が期待される点などが優れるとして、大和リースを優先交渉権者として選定しました。事業規模は総工費約53億円(2017年8月の優先交渉権者決定時の記者会見で公表された計画段階の推定値)、市に支払う賃料は年間約8400万円。2017年11月に基本協定などを締結後、念願の旧競輪場施設の解体に着手することができました。約1年の解体撤去工事の後に、商業施設および公園の工事に着手し、2019年11月にスーパーマーケット、ファストファッション、飲食店舗などが入居する商業施設「ブランチ大津京」がオープンしました。

事業コンセプト
事業コンセプト
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事業コンセプト
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(出所:大津市、令和元年9月20日生活産業常任委員会資料)
事業スケジュール
2017年2月 募集要項等の公表
2017年3月 事務局による審査の対象となる応募書類(参加表明)の受付締切り
2017年5月 選定委員会による審査の対象となる応募書類(企画提案書)の受付締切り
2017年7月 優先交渉権者の選定
2017年9月 基本協定等の締結
2017年11月 旧競輪場施設の解体着手
2018年10月 旧競輪場施設の解体撤去の完了
2018年11月 事業用定期借地契約の締結及び工事の着工
2019年11月 提供ゾーン(都市公園「近江神宮外苑公園」部分)の大津市への寄付および商業施設「ブランチ大津京」のオープン
2050年4月30日 事業用定期借地契約の終了(予定)

事業デザイン(1):経緯~スキームの概要・解体負担の課題を解決

 大津びわこ競輪場は、戦後の競輪人気を受け、近江神宮外苑公園において、1950年に整備されたものです。故高松宮宣仁親王から御下賜された高松宮記念杯競輪等の開催場として、その収益金が大津市の教育や福祉、都市基盤の整備等のまちづくりに寄与するとともに、戦後の大津市の人口増、都市の成長に大きく貢献してきました。

 しかしながら、バブル景気崩壊後の長引く景気の低迷に加え、余暇の多様化、ファン層の高齢化等、競輪事業を取り巻く社会環境が悪化しました。車券売上は1997年度をピークに年々減少を続け、2004年度以降においては、赤字決算が常態化しました。その後、経営改善が困難と判断し、2010年度末をもって競輪事業を廃止しました。

 競輪事業廃止後、大津市としては、すぐにでも残存する競輪施設を解体撤去したいところでしたが、大津市の財政状況が厳しい中、施設の解体撤去には多額の経費を要する可能性があったことから、施設の解体撤去に着手できず、ずっと野ざらし状態となっていました。

 こういった状況の一方で、大津市では事態の解決に向け検討を重ね続け、その結果として、民間事業者の資金とノウハウを活用する方針を打ち出しました。約20億円とも言われていた多額にのぼる解体撤去費を精査すると同時に、この解体撤去費を負担してでも競輪場跡地の利活用をしたい民間事業者の存在を調査しました。競輪場跡地が都市公園として計画決定されている土地であり整備可能な施設規模や施設種別が限られることから、当初は調査が難航したものの、数次・幅広く意見を募った結果、土地賃料の負担能力が高い商業系を始めとした事業者については、跡地を利活用できる可能性があることが明らかとなりました。

 以上の調査を踏まえ、スキームを以下のとおりとしました。

① 競輪場跡地の借り手(代表企業)の資金により解体撤去するスキームとしました。そのためには、旧競輪場施設の所有権を市から代表企業に移転する必要があったため、施設を市から代表企業に対し無償譲渡しました。

事業スキーム
事業スキーム
(出所:日本総合研究所)
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② 解体撤去業務については、業務ボリュームが大きく、技術的難易度が高かったため、代表企業とともに、代表企業から解体撤去工事を請け負う企業(解体企業)の参画を求めたうえで、一定の実績要件を課しました。

応募資格
ア 代表企業
 代表企業は、平成18年度以降において、以下のいずれかの実績を有すること
  • a 公有地に対して定期借地権又は普通借地権を設定のうえ事業を実施した実績
  • b 公有地を購入のうえ事業を実施した実績
  • c 都市計画法第29条第1項に基づく許可を得て行った開発事業を実施した実績
イ 解体企業
 解体企業は、平成18年度以降において、延床面積1,500m2以上のRC造の施設に関する解体工事実績を有すること。
出所:大津びわこ競輪場跡地公募提案型貸付事業募集要項(大津市)

③ 多額と想定された解体撤去費を民間事業者負担とした中、民間事業者の採算性を確保するため、借地料については下限を、借地期間については上限を設定せず、民間事業者の自由提案としました。
④ 自由提案とはいえ、借地料はより高く、借地期間は短いことが望まれます。民間事業者の採算性に配慮しつつ、これらに対応するため、借地料と借地期間は、一定の算式のもと、その大小に応じて、加点評価することとしました。

定期借地料の評価方法
得点=提案価格(m2単価)÷全応募者中の最高提案価格(m2単価)×10点
定期借地期間の評価方法
得点=全応募者中の最短定期借地期間÷提案定期借地期間×10点
出所:大津びわこ競輪場跡地公募提案型貸付事業事業者選定基準(大津市)

 野ざらしの旧競輪場施設を確実に解体するためには、事業性を確保する必要がありました。そのため、民間事業者の採算性の確保と、公益性の最適なバランスを見極めつつ、スキームを設計することが求められました。

事業デザイン(2):魅力ある運営事業を導出するための事業者選定基準

 上述のとおり、財政上の課題解決が先行されていましたが、旧競輪場施設が都市計画決定された「近江神宮外苑公園」に所在すること、大津市の将来を考える上で重要な立地と広大な面積を有していること、長年地域の住民に迷惑をかける側面があった一方で地域の憩いの場ともなっていたことなどから、事業を進めるに当たり、まちづくりの視点も重要な課題でした。

 市場調査を踏まえると、施設種別を始めとした建築面の条件については、民間事業者の自由を認める必要があった一方で、施設整備後の施設運営面については、比較的柔軟な対応が可能であるとの感触を得ていました。例えば、周辺住民を始めとした地域住民との協調や、計画地が近江神宮外苑公園であるとともに土地の利活用が都市計画法上の開発行為に該当することから、計画地の一部を公園として活用することなどについては、民間事業者の理解を得られていました。

 そのため、旧競輪場施設の解体撤去費を民間事業者負担とする財政上の要請を事業条件とすることに加え、まちづくりの観点から、一定の条件を付すとともに、より望ましい提案を加点することで、地域に貢献する事業提案を導出することを目指しました。

① 計画地を、民間施設が整備される「利活用ゾーン」と、民間事業者の費用負担により都市公園として整備されたのち市に寄付される「提供ゾーン」に区分することを求めました。
② 「提供ゾーン」については、地域の要望を踏まえ、最低8,000m2整備することを求めたうえで、さらなる面積を整備する提案があった場合、加点評価することとしました。

提供ゾーン面積の評価方法
得点=提案面積÷全応募者中の最高提案面積×10点
出所:大津びわこ競輪場跡地公募提案型貸付事業事業者選定基準(大津市)

③ 公園を核としたまちづくり施設となることを導出するため、提供ゾーンについて、「市民の交流促進」に寄与する施設であることを求めることに加え、「地域との一体性」「地域のイメージアップ向上」を運営面において求めました。
④ このほか、旧競輪場がかつて地域の防災上重要な役割を果たしていたことから「防災機能の確保」を、まちづくり施設として地域へ経済効果を波及させることが望ましいことから「地域経済への寄与」についても、提案を求めました。

主な審査の視点
配点
市民の交流促進を考慮した整備概要
  • 現状の競輪場跡地の利用状況を踏まえた整備内容となっているか。
  • 市民の交流促進の場に資する整備内容となっているか。
10/130
運営における地域との一体性の確保
  • 運営期間において、周辺地域との一体性・連携に資するイベント等の取組が実施されているか。
5/130
地域のイメージアップ向上への寄与
  • 民間施設が周辺地域におけるにぎわい創出、活性化やイメージアップに寄与する提案となっているか。
10/130
防災機能の確保
  • 利活用前の旧競輪場跡地が有していた避難場所としての機能を理解したうえで、避難所としての機能確保等、防災機能確保に対して積極的な提案がなされているか。
  • 上記のほか、災害時の対応について、独自性が高く具体性をもった提案があるか。
10/130
地域経済への寄与
  • 地元雇用、地元企業の活用等、地域貢献に対する基本的な姿勢が明確になっているか。
  • 想定する地元雇用の人数、地元企業の活用数、地元への経済効果等が具体的に示されているとともに、地域貢献に資する提案となっているか。
10/130
出所:大津びわこ競輪場跡地公募提案型貸付事業事業者選定基準(大津市)

 大津びわこ競輪場跡地公募提案型貸付事業は、行政課題としては、旧競輪場施設の解体撤去と公園整備に対する重要度が高いものでしたが、全体の約4割超をまちづくりに関連する評価項目としました。

 選定された大和リースは、「公園の中の商業施設」を事業コンセプトに、公園を商業施設「ブランチ大津京」運営のための戦略的コンテンツと位置付けています。駐車場を敷地外縁部に配置し、敷地中央には店舗と公園を近接・配置することで、市民の交流促進に寄与する施設運営が実現しています。

当該地の空撮写真。広大な敷地に公園と商業施設が整備された。敷地面積(全体):6万4793.27m2(うちブランチ大津京:4万9602.16m2/うち近江神宮外苑公園:1万5191.11m2/延べ床面積(ブランチ大津京):2万5450m2・全9棟合計)(出所:大和リース)
当該地の空撮写真。広大な敷地に公園と商業施設が整備された。敷地面積(全体):6万4793.27m2(うちブランチ大津京:4万9602.16m2/うち近江神宮外苑公園:1万5191.11m2/延べ床面積(ブランチ大津京):2万5450m2・全9棟合計)(出所:大和リース)
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 また、バスケットボールの「3 on 3」や、アウトドアフィットネスといった地域スポーツの開催、ブランチ大津京内に拠点を置くNPO法人、まちづくりスポット大津をハブとした地域との交流などにより、地域との一体性の醸成や地域のイメージアップに貢献しています。加えて、母親が子どものそばで働ける託児機能付きオフィス「ママスクエア」などにより、地域の雇用にも貢献しています。

 公園の指定管理者については、施設オープンの約半年前、事業者募集が行われ、こちらも大和リースが選定されています。結果的にではありますが、大和リースが、商業施設を整備・運営することに加え、都市公園についても整備・運営することとなり、商業施設と都市公園の一体運営が実現しました。

現状と今後の展望

 大和リースによると、オープン直後にコロナ禍に見舞われるという不運があり、オープン当初は利用者獲得に苦戦したものの、徐々に利用者を回復させることができているとのことです。現在では、特に小さな子どもを連れた家族による人気が高く、土日祝日はもちろん、平日においてもにぎわいを見せる人気スポットとして、地域の人々に親しまれる施設として利用されています。

 現地を訪れてみると、平日ではありましたが、公園に遊びに来た人が、遊び疲れた後に公園に面したカフェで休憩する、小腹が減ったためアイスや軽食をテイクアウトする姿などを見かけました。また、買い物に来た家族連れが、お母さんの買い物中お父さんと子どもが公園で遊ぶ姿なども見かけることができ、「公園の中の商業施設」という事業コンセプトが、非常に高いレベルで実現していることを体感しました。

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現在のブランチ大津京(出所:日本総合研究所)
現在のブランチ大津京(出所:日本総合研究所)
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 このように、事業実施目的であった行政課題を解決させつつ、まちづくりにも寄与するものとして、ブランチ大津京と近江神宮外苑公園は、商業施設と公園が融合した地域に愛される施設として、コロナ禍にも負けず、運営されています。

 大津びわこ競輪場跡地公募提案型貸付事業では、旧競輪場施設の解体等の行政課題の解決については、事業実施に際しての必須条件として設定したうえで、行政課題以外は、条件を付与せず、民間事業者の裁量に委ねました。そのうえで大津市として、民間事業者の責任と費用負担で実現してくれたら望ましいこと、すなわち、まちづくりに寄与する魅力的な施設運営方法を審査基準として設定し、分かりやすく民間事業者に伝えました。これらの取り組みにより、商業施設と公園が融合した地域に愛される施設として、強い運営力を持った事業を実現させることができました。

 事業は2050年4月30日まで、31年6カ月間という長期にわたり継続する予定とされています。長期間の事業中には、今般のコロナ禍のような予測不能な事態は発生することも考えられますが、商業施設の運営者である大和リースと、公園管理者である大津市との共創により、末永く地域に愛され続ける施設であることが望まれています。

佐藤 悠太(さとう・ゆうた)
日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 地域・共創デザイングループ マネジャー
1982年生まれ。横浜国立大学経営学部会計情報学科卒業。2008年に大手ゼネコンに入社、2013年に日本総合研究所入社。公園、スポーツ施設を始め、近年は公営電気事業に関するPPP/PFI事業に関わる各種コンサルティングに従事。

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/102700030/042000005/