「運営重視型PPP」のススメでは、第7回目となる今回から計4回にわたって「運営重視型PPP」の導入に向けた考え方を施設タイプ別に解説していきます。今回は、公共施設の中でも集客施設としての要素が極めて強く、地域のまちづくりへの貢献が大いに期待され、地域の拠点施設としての役割が求められる観光施設について解説します。

観光施設におけるPPP/PFIの現状

■公立温泉の例(別府市の竹瓦温泉)
■公立温泉の例(別府市の竹瓦温泉)
別府市の竹瓦温泉は、指定管理者としてケービックスが管理運営を実施している(写真:別府市)
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 公共施設としての観光施設といえば、代表的な例として道の駅(または地域の物産館)が挙げられます。都心部にある地域のアンテナショップもこの部類に含まれます。そのほか、全国的に広く設置されている施設として、国民宿舎/公立宿舎、公営キャンプ場、公営海水浴場などがあります。温泉地における公立温泉(温浴施設)もそうですし、公立遊園地を設置している地域もあります。

 こうした公共施設としての観光施設の状況を見てみると、PFI手法の導入事例は少ないですが指定管理者制度の導入事例は多いことが分かります。近年、PFI事業の実施件数は右肩上がりに増加しています。ただし、これまでに実施されたPFIの818事業のうち、観光施設での実施例は数えるほどしかありません。一方で、指定管理者制度の導入状況を見ると、他の施設と比べてもかなり高い導入率(制度導入施設数÷公の施設数×100)となっています。

■PFI事業数の推移
■PFI事業数の推移
(資料:内閣府)
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■過去10年間における観光施設へのPFI手法の導入状況
事業名称 発注者 事業方式 事業年度
米原市観光・レクリエーション関連2施設に係る公共施設等運営事業 米原市
(滋賀県)
コンセッション 2021年
(入札公告)
勝連城跡周辺整備事業 うるま市
(沖縄県)
BTO 2021年
(入札公告)
猪名川町道の駅整備事業 猪名川町
(兵庫県)
BTO 2021年
(入札公告)
旧コンポストセンター跡地利活用事業 所沢市
(埼玉県)
BTM 2018年
南の拠点整備事業(B棟) 垂水市
(鹿児島県)
BTO 2017年
(仮称)お茶と宇治のまち歴史公園整備運営事業 宇治市
(京都府)
BTO 2018年
函南「道の駅・川の駅」PFI事業 函南町
(静岡県)
BTO 2015年
(出典:公表情報を基に日本総研作成)
■指定管理者制度の導入状況(制度導入団体の比率)
■指定管理者制度の導入状況(制度導入団体の比率)
出典:総務省「地方行政サービス改革の取組状況等に関する調査等(令和3年3月31日公表)/指定管理者制度の導入状況(制度導入団体の比率)」
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 公共施設としての観光施設は、戦後から全国的に一定数が整備されたこともあるため、近年において新たに整備される件数は決して多くはありません。施設の新設か改修事業に導入されることが多いPFI手法が用いられるケースは、さらに少ないと言えます。一方で、既存公共施設に関しては積極的にPPP手法(主に指定管理者制度)が導入されており、多くの公共施設は民間事業者や地域団体などによって運営されています。この状況は、公共施設としての観光施設も同じです。

公共施設としての観光施設とは?

 先に例示したように、公共施設としての観光施設には様々な施設タイプがありますが、共通して以下の要素を持っています。

  • 集客目的である。
  • 想定するターゲット層がある。
  • 有料サービスを提供する施設であり、売上が施設運営に大きく影響する。
  • 飲食・物販を伴うことが多い。

 同じように、観光施設には民設民営の民間施設もあり、施設数や施設の種別は公共施設としての観光施設よりもかなり多いと言えるでしょう。これら民間施設としての観光施設も上記の要素を持っていることから、これらの要素だけを見ると、民間施設は公共施設と何ら変わりないように見受けられます。しかしながら、各要素が持つミッションを両者で比較すると、全く性質の異なる施設であることが分かります。

■公共施設としての観光施設と民設民営の観光施設の比較
比較要素 公共施設としての観光施設 民間施設としての観光施設
ターゲット層 できるだけ幅広い層の住民、観光客 明確化された一部の客層
価格設定 住民も利用しやすい低廉な価格となる傾向がある 投資回収も含め必要な利益を得られる価格
品揃え/
取り扱いサービス
地域の特産品や地域情報の発信等、当該地域の観光振興を目的とした内容を提供 マーケティング結果に基づいた顧客が求める商品、サービスを提供
立地 公有地または行政が利用可能な土地(民有地の借地等) マーケティング結果に基づいた集客が見込める立地
まちづくり活動 積極的に実施 顧客ロイヤリティを高めるために、一定の利益が確保できる前提で実施することもあり得る
事業の撤退 業績が悪化しても住民・議会の理解が得られない限りは困難 事業が成り立たなくなった時点で撤退

 これらの比較から、両者はどちらも観光客をターゲットとした集客施設でありながら、その実は施設の管理運営/経営に必要なノウハウが大きく異なることが見て取れます。つまり、公共施設としての観光施設を管理運営するためには、行政の意向を確実に踏まえ、地域のため・住民のためのサービスを提供することが必須となります。また、低廉な価格帯や十分な集客に苦慮するような立地などにより、施設を独立採算で管理運営することが困難なケースも少なくありません。こうしたケースの施設については行政が当該施設を運営する事業者に委託費(指定管理料、サービス購入費など)を支払うこととなります(施設の売上だけでは赤字となるため、不足する管理運営費を行政が補填)。

 一方で、民間施設としての観光施設については、施設整備に必要な投資回収も含めた完全独立採算で施設を経営することが絶対条件となります。そのために、施設のコンセプトを設定する際に十分なマーケティング調査を実施した上で、それに基づいたターゲット層を明確に設定し、立地条件や価格設定などを綿密に練り上げます。また、事業の撤退基準が明確に設定され、それに達した場合は撤退することが大半となります。

 このように、両者は施設の管理運営/経営に必要なノウハウが異なることから、両者で活躍するプレーヤーも異なっているのが現状です。公共施設としての観光施設においては、行政が一定のコスト負担をしたうえで、公共施設の管理運営を専門・得意とする事業者が管理運営しているケースが多いと言えます。しかしながら昨今では、多くの地方自治体が人口減少等から財政難を抱えているため、行政負担により公共施設としての観光施設の管理運営を継続することが困難となってきています。また、PPP事業が普及・発展してきたことから、PPP事業を新たなビジネスチャンスととらえて、民間施設としての観光施設を専門としてきた事業者等が公共施設の管理運営に新規参入してくるケースも増えてきました。公共施設としての観光施設の公共性と事業性のバランスをうまく取りつつ、施設を独立採算、或いはそれに近い内容で経営するためには、極めて高度なノウハウが求められます。

 この両者のバランスの確保を実現させるために、求められる事業条件を調整したり、十分な運営・経営ノウハウを有する事業者の参画を促したりすることこそが、公共施設としての観光施設における「運営重視型PPP」であると言えます。

 そして、民間の力を活用して公共施設としての観光施設を「運営重視型PPP」とするためには、次の3つのポイントがあると考えられます。

ポイント1:構想段階から運営事業者を巻き込む

 本コラムの第1回の中でも述べた通り(「『運営重視型PPP』に求められる3つの条件(2)運営事業者の能力に重点を置く」)、「運営重視型PPP」においては、できるだけ早い段階から観光施設・商業施設の管理運営/経営を専門とする事業者を巻き込むことが重要となります。

 通常、公共施設としての観光施設を創設する際には、施設の基本構想を策定しますが、この基本構想策定業務はコンサルティング会社が担当することが多いのが現状です。基本構想では想定するターゲットや立地、サービス内容の方向性を決定することとなるため、この段階で可能な限り多くの関連事業者から意向や意見、アイデアなどをサウンディングすることが効果的です。この際、利益相反行為の防止の観点から、限られた特定の事業者の意向に偏り過ぎないようにすることに注意が必要です。

 また、あらかじめ立地が確定している事業については、対象地においてトライアル・サウンディング*や実証事業を実施して民間事業者の意見を聞くという方法も考えられます。トライアル・サウンディングや実証事業により、自治体側は対象地における観光事業の事業効果を想定でき、事業者側は対象地における事業ポテンシャルや事業リスクをあらかじめ把握することができます。この際の事業者は公募により選定することが望ましいでしょう。

 ただし、トライアル・サウンディングにおける事業実施期間については、これまでの実施例では検証期間が短く通年の事業検証ができないという課題がありました。当該観光事業におけるオフシーズンとオンシーズンの双方を検証することと、事業効果が発現されるまでの一定期間を確保することを勘案して、できれば1年以上の期間を設けることが望ましいでしょう。


* トライアル・サウンディングとは、利活用を検討している公共施設などで、暫定利用を希望する民間事業者を募集し、一定期間、実際に使用してもらう制度のこと。これにより行政機関は民間事業者の集客力、信用、施設との相性などが確認できる。各地で実施例が増えてきている(関連記事)。また、富山城址公園(富山市)のように、トライアル・サウンディング実施後に、その結果を踏まえた指定管理者の公募につなげて事業者を選定した例もある(このときはトライアルサウンディングに参加した事業者が選定された)。
「新・公民連携最前線」でも、富山城址公園(富山市)のトライアル・サウンディングについて取り上げている
「新・公民連携最前線」でも、富山城址公園(富山市)のトライアル・サウンディングについて取り上げている

ポイント2:立地重視で既存施設も積極的に活用

 公共施設としての観光施設を創設する際、施設の新設に拘ると対象地が公有地か行政が利用可能な用地(民有地の借地など)に限定されます。しかしながら、集客施設の経営は不動産事業であることから、独立採算で施設を経営し、集客・販売・サービス提供に十分な能力のある事業者の参画を促すためには、施設の立地は極めて重要です。そこで、公共施設としての観光施設を新たに設置する際には、立地を重視するために、施設を新設しないで街中や交通アクセスの良い立地にある既存の公共施設や空き家・空き店舗を活用するという方法を検討するべきです。

 近年では、既存施設をリノベーションしておしゃれな集客施設とした施設が人気を博している事例も増えていることからも、既存施設のリノベーションでも十分に集客力と住民満足を得ることは可能です。そのために、まずは立地条件を勘案して、街中や交通アクセスの良い立地、魅力的な観光資源(自然資源や観光地)に近接した立地にある公有財産または空き家・空き店舗等を棚卸しします。その上で、観光施設として好立地にある施設を選定し、改修費用や家賃等の条件から対象地・対象施設を設定することが考えられます。

■既存施設のリノベーションによる公共施設としての観光施設の例(舞鶴赤れんがパーク)
■既存施設のリノベーションによる公共施設としての観光施設の例(舞鶴赤れんがパーク)
■既存施設のリノベーションによる公共施設としての観光施設の例(舞鶴赤れんがパーク)
舞鶴市が明治~大正時代に建造された赤れんが倉庫をリノベーションし、展示施設や観光情報発信・飲食・物販等の観光施設として活用。また、敷地一帯を都市公園(赤れんがパーク)に指定。現在、赤れんがパーク一体の更なる利活用を目指してPark-PFIを活用した事業者を公募を行っており、11月下旬に公募設置等予定者を通知予定だ(写真:舞鶴赤れんがパーク)

ポイント3:行政から委託費を支払うケースではPFSを活用

 地域によっては、どのような方策を講じても独立採算で観光施設を経営することが難しいながらも、地域の活性化のためには観光施設の設置が必要となるケースも十分にあり得ます。こうした場合であっても、当該施設を管理運営する事業者に施設経営の観点から集客や売上に対するインセンティブを持っていただくための方策を講じておくことが重要です。

 その方策の一つとして、委託費(指定管理料/サービス購入費)を支払う条件にPFS(Pay For Success:成果連動型民間委託契約方式)を導入することが考えられます。この場合、事業者からの公共性と事業性のバランスと双方の向上に対するインセンティブを高める仕組みとすることが重要です。成果指標としては、利用者満足度や地域貢献といったアウトカム指標や、利用者数、購入者客単価、売上などのアウトプット指標を設定することになります。これまで国内のPFS事例は健康・福祉分野が中心でしたが、まちづくり分野にも広がりつつあり、観光分野とも相性の良いスキームではないかと思います。

 公共施設としての観光施設は、公共性と事業性の双方を重視する必要がある施設であり、その施設運営・経営は高度なノウハウが必要な施設です。そのことを十分に認識した上で事業デザインや事業化までのプロセスを踏むことで初めて、地域の観光振興とまちづくりの活性化に対して期待するような波及効果を生み出すと言えます。公共施設としての観光施設は、こうした施設づくりを通じて、「運営重視型PPP」へと発展していくことが特に求められる施設であると言えるでしょう。

板垣 晋(いたがき・すすむ)
日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 地域・共創デザイングループ シニアマネジャー
1976年生まれ。京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科修士取得退学(地域研究修士)。2004年に建設コンサルタント会社に入社し、地方都市の都市計画等の上位計画の策定業務などに従事。その後、スマートシティ関連コンサルティング会社を経て、日本総研に入社。日本総研では、文教施設(美術館、ホール、大学等)や観光施設、都市公園といった集客性の高い公共施設を中心に、PPP事業の構想策定から事業者選定支援まで幅広い案件に従事。近年では、歴史的建造物のリノベーション・利活用事業の支援にも従事。内閣府のPPP/PFI専門家派遣の専門家として複数都市に派遣された他、京都大学公共政策大学院「地域活性化論」の講師として登壇(2019年度、2020年度)。技術士(建設部門/分野:都市及び地方計画)。

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/102700030/081600008/