「運営重視型PPP」のススメの第9回目となる今回は、「運営重視型PPP」の導入に向けた考え方を施設タイプ別に解説するシリーズの3回目で、文化芸術施設、特に美術館や博物館*1について解説します。

1.美術館・博物館におけるPPP事業の現状

 「令和元年度日本の博物館総合調査報告書(公益財団法人日本博物館協会。以下、「博物館総合調査」)」によれば、美術館・博物館における指定管理者制度の導入は28.2%です。2006年度に197館が指定管理制度を導入しましたが*2 、その後は毎年10館~20館程度、2019年度には新たに3館が指定管理制度を導入するにとどまっています。このことから、美術館・博物館の運営にPPPはそれほど導入されておらず、指定管理者制度の導入意向のある館については概ね導入が完了していると思われます。また博物館総合調査によれば指定管理者のうち約半数は自治体が出資する法人、いわゆる外郭団体であり、民間企業は23.3%となっています。つまり指定管理者制度を導入している美術館・博物館であっても、約半数は実質的に直営に近いかたちで運営されています。

(左図)指定管理者制度導入館数の推移。(右図)指定管理者の法人形態(外郭団体とは設置者である地方公共団体が財団法人を指す)。いずれも令和元年度日本の博物館総合調査報告書(公益財団法人日本博物館協会)より日本総研が作成
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(左図)指定管理者制度導入館数の推移。(右図)指定管理者の法人形態(外郭団体とは設置者である地方公共団体が財団法人を指す)。いずれも令和元年度日本の博物館総合調査報告書(公益財団法人日本博物館協会)より日本総研が作成
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(左図)指定管理者制度導入館数の推移。(右図)指定管理者の法人形態(外郭団体とは設置者である地方公共団体が財団法人を指す)。いずれも令和元年度日本の博物館総合調査報告書(公益財団法人日本博物館協会)より日本総研が作成

*1 博物館とは、歴史博物館、科学館、美術館、動物園など多種多様な施設を含むが、本稿では一般に想起される施設として「美術館・博物館」と呼ぶ。
*2 業務委託制度から指定管理者制度への移行期限が2006年度であったためと考えられる。

 それではなぜ美術館・博物館の運営には、民間ノウハウを導入した事例がそれほど多くないのでしょうか。それには美術館・博物館の運営体制を理解する必要があります。

 美術館・博物館は社会教育機関・研究機関としての役割を持っており、その根幹となる業務は調査・研究・収集です。そして展示は調査・研究・収集内容を発表する場、教育普及はそれを広く地域に普及する活動という位置づけにあります。そしてこれらの業務を行っているのは自治体職員である学芸員であることがほとんどです。運営の核を担うのが自治体職員の学芸員である限り、美術館・博物館の運営は基本的に直営(=従来方式)となります。また運営の主たる業務を担うのが学芸員である以上、施設計画や展示計画に対して行政の意向が強く反映されるため、施設の新設や改修を行う際にも、性能発注ではなく仕様発注になるケースが多くみられます。

 一方、近年少しずつ、美術館・博物館のPFI事業が実施されています。2019年にリニューアルオープンした福岡市美術館、2020年に新規開館した弘前れんが倉庫美術館、2022年オープン予定の大阪中之島美術館、2025年オープン予定の鳥取県立美術館などです。これらの事業では運営業務に積極的に民間ノウハウを導入することが志向されており、美術館・博物館における「運営重視型PPP」の萌芽が見て取れます。

■地方公共団体が実施した美術館・博物館のPFI事業例
施設名称 事業スキーム 実施方針公表日
鳥取県立美術館 PFI-BTO 2018年12月
大阪中之島美術館 公共施設等運営権(コンセッション)方式 2018年10月
弘前市れんが倉庫美術館 PFI-RO 2016年7月
福岡市美術館 PFI-RO 2014年12月
神奈川県立近代美術館 PFI-BTO 2000年7月

2.美術館・博物館における「運営重視型PPP」とは?

 近年、美術館・博物館に求められる役割が大きく変化しています。文化経済戦略の策定(2017年)、第一期文化芸術推進基本計画の策定(2018年)、社会教育施設の所管を首長部局に移管できる法改正(地方教育行政の組織及び運営に関する法律)(2019年)はいずれも、美術館・博物館が社会教育にとどまらず、「まちづくり」や「集客・賑わい創出」といった役割を担うことを企図して実施されたものです。これは地域住民のみならず、地域外からの来訪者にも美術館・博物館を訪れてもらい、地域経済の活性化や観光振興につなげることを目指すものといえます。

 この社会潮流に応えるように、博物館総合調査によれば約8割の美術館・博物館が意識的に入館者増加に向けた取組みを進めており、「広報」「講座やワークショップ」「特別展(企画展)」「学校への働きかけ」などに注力しています。ここに、今日の美術館・博物館が運営に積極的に民間企業のノウハウを導入する「運営重視型PPP」の必要性が見て取れます。美術館・博物館は1970年代~80年代に相当数が整備されており、これから多くの館が大規模改修や建て替え時期を迎える中、そのタイミングで「運営重視型PPP」に取り組む施設が増えることが予想されます。

 ここからは美術館・博物館の運営の特異性を考慮した、運営重視型PPPのポイントを述べます。なお既存施設と新規施設では状況が大きく異なるため、分けて説明します。