本コラムでは、「まちづくりへの影響の大きい集客力の高い公共施設や公有地の利活用におけるPPP事業」に焦点を当て、そうしたPPP事業におけるあるべき姿として「運営重視型PPP」を提唱します。そして、その重要性を説明していきたいと思います。連載第1回目となる今回は、「運営重視型PPP」の特徴や、事業化する上での留意点などを概説し、今後の展望を論考します。次回からは、これまでに事業化されたPPP事業の中から「運営重視型PPP」と呼ぶべき事例について、ポイントを解説していきます。

 1999年のPFI法の成立と2003年の地方自治法の一部改正(指定管理者制度の創設)により大きな契機を得た公民連携事業(以下、PPP事業)は、黎明期には行政改革の一環(特に財政健全化)として進められ、コスト縮減こそが導入の大きな目的でした。

 現在のPPP事業は、2013年から政府が公表しているPPP/PFIに関するアクションプランの影響もあり、コスト縮減に加えて、民間事業者の新たな投資やビジネス機会の創出も目的の一つとなってきています。その結果、「まちづくりへの影響の大きい集客力の高い公共施設や公有地の利活用におけるPPP事業」が増えてきました。また、こうしたPPP事業では、事業主体となる民間事業者が収益の確保・向上を図りやすいスキームが求められるようになり、より一層の裁量と事業リスクを民間事業者へ付与する傾向がみられます。

「まちづくりへの影響の大きい集客力の高い公共施設や公有地の利活用におけるPPP事業」のイメージ(資料:日本総合研究所)
「まちづくりへの影響の大きい集客力の高い公共施設や公有地の利活用におけるPPP事業」のイメージ(資料:日本総合研究所)
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 施設計画・施設整備が重視されがちな従前のPPP事業は、民間事業者によるビジネスの創出・収益確保とそれによる財政負担の軽減という2軸を目指した事業でした。これに対し、「運営重視型PPP」とは、運営事業の内容・質や運営事業者の能力こそを重視する仕組みを導入したPPP事業を指します。「利用者や地域に対する付加価値の創出」という事業目的・政策目的の達成に主軸を置いたPPP事業と言い替えてもよいでしょう。

 今日までの公民連携における政府の方針や、それを受けた各地のPPP事業への取り組みは、その事業手法の普及とそれによる公共事業の付加価値向上には一定の成果があったと言えます。しかしながら、「まちづくりへの影響の大きい集客力の高い公共施設や公有地の利活用におけるPPP事業」においては、民間事業者による事業収益の向上が重視されるあまり、当該公共事業が地域で本来果たすべき役割が劣後されてしまうようなスキームや事業条件などに傾倒してしまうことも懸念されます。そうならないための仕組みが、運営事業の内容・質や運営事業者の能力を重視する「運営重視型PPP」です。

背景にはPPP事業の多様化が

 PPP事業の手法は、PFI、指定管理者制度に加えて、Park-PFI(2017年の都市公園法改正により創設された公募設置管理制度)や公有地活用(PRE事業)、さらには産官学連携、シェアリングエコノミー、自治体と企業の包括連携協定など多様化しています。また、シェアリングエコノミーや包括連携協定においては、従前のPFI事業や指定管理者制度では参画することのなかった企業が名を連ねています。PPP事業は、手法の多様化が進むにつれ、担い手の裾野も広がりを見せているのです。

 こうした担い手の裾野の広がりが、「運営重視型PPP」の発展を可能とします。そもそもまちづくりにおいては、多様な担い手によって地域に付加価値がもたらされるものだからです。運営能力のある事業者でなければ、新しい多様な担い手とのスムーズな連携は難しいでしょう。

「運営重視型PPP」の前提条件と特徴

(1)不動産活用事業であるということ

 先述したように、本稿で想定する「運営重視型PPP」を導入すべき事業は、「まちづくりへの影響の大きい集客力の高い公共施設や公有地の利活用におけるPPP事業」です。これはすなわち、民間事業者が公的不動産を活用して投資リスク・需要リスク負って事業を展開する不動産活用事業ということになります。

 不動産活用事業における、投資リスク・需要リスクといった事業リスクに対する許容範囲や提供サービスの内容・質は、当該事業の不動産価値に大きく依存します。民間事業者は、当該不動産の利活用事業から得られる収益以上の事業リスクは負えません。一方、「市長の直轄案件だから」であるとか「本市の主要事業だから」といった、行政側の思いや理屈だけで当該事業の対象となる不動産価値が上がることはありません。自治体は、この点を念頭に置き、事業を構想する必要があります。

対象地・対象施設の不動産価値に応じた各事業条件の設定のイメージ(資料:日本総合研究所)
対象地・対象施設の不動産価値に応じた各事業条件の設定のイメージ(資料:日本総合研究所)
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(2)地域や住民、利用者にとって付加価値のある事業とすること

 PPP事業が公共事業である以上、当然のことながら当該事業により解決すべき地域課題と達成目標があります。自治体はこれを達成することが大前提となります。自治体は、民間事業者との連携によって従前の公的不動資産に新たな機能や価値を付加することで、高付加価値な事業としていかなくてはなりません。「運営重視型PPP」はそのための有力な手段となります。

「運営重視型PPP」に求められる3つの条件 (1)事業をデザインする

 これまでのPPP事業では、とりわけ「どんなモノ・ハコを整備するのか」という、対象とする施設の整備計画に重点が置かれてきました。これに対し、「運営重視型PPP」においては、整備計画以上に整備後の運営事業に力点を置いた事業計画を練ることになります。つまり、従前の基本計画や整備計画に加えて、長期の運営事業を見据え、

  • 誰を/何をターゲットに実施する事業で、どんなサービスを展開するのか
  • そのサービスを付加価値高く展開するためにどんなプレーヤーを想定するのか
  • 当該事業がどのようなステップでまちづくりに波及・展開していくのか

 といった事業のデザインを関係者間で練り上げ、共通認識としておく必要があります。

 例えば、北九州市が実施した「北九州市スタジアム整備等PFI事業」では、事業者が小倉駅新幹線口地区におけるエリアマネジメントに協力することが要求水準書に明記され、事業者が対象施設の運営のみならず、周辺地域のまちづくりにも参画することがデザインされています。

北九州市スタジアム(ミクニワールドスタジアム北九州)(資料提供:北九州市)
北九州市スタジアム(ミクニワールドスタジアム北九州)(資料提供:北九州市)

 また、大津市が実施した「大津びわこ競輪場跡地公募提案型貸付事業」では、事業者に対し、自らの投資による多目的広場の整備・運営と市への譲渡を求めました。つまり、市が所有する公園が民間事業者の整備する商業施設内に設置され、民間事業者が市の公園と一体的に商業施設を管理運営する事業条件となっています。この条件により、公有地における民間開発事業でありながら、公園という公共空間が商業施設内に取り込まれ、商業施設と公共空間のバランスが確保されたまちづくり拠点となることがデザインされています。

大津びわこ競輪場跡地公募提案型貸付事業(ブランチ大津京)の着工発表時に公開された外観イメージ(大和リースの発表資料より)
大津びわこ競輪場跡地公募提案型貸付事業(ブランチ大津京)の着工発表時に公開された外観イメージ(大和リースの発表資料より)

「運営重視型PPP」に求められる3つの条件 (2)運営事業者の能力に重点を置く

 「運営重視型PPP」によるまちづくり事業を進めていくためには、運営事業を重視する事業のデザインが重要です。そのためには、いかにして企画力・運営力のある事業者を当該事業に巻き込んでいくかも重要なポイントになります。運営事業者を巻き込むタイミングとしては、できるだけ当該事業の構想段階など早い段階である方が望ましいといえるでしょう。施設の基本計画・基本設計や事業スキームの検討などにおいて、運営事業者の意向を踏まえた検討ステップを踏んでいくことができるからです。

 こうした、運営事業者を重視するPPP事業の事業化プロセスについては、例えば、運営事業者を先行して選定し、この運営事業者と行政が協働して当該事業の要求水準等を検討するという手法があります。

 大阪府箕面市が実施した「(仮称)箕面船場駅前地区まちづくり拠点施設整備運営事業」では、主要施設である市民ホールの運営事業者を選定し、当該事業者と箕面市が協働して施設の整備・維持管理に関する要求水準を作成。その後、選定された施設の整備・維持管理事業者と先の運営事業者がSPC(当該事業を実施するための特定目的会社)を設立して事業を実施することがデザインされています。

事業者決定時に公表された文化ホール外観イメージ(箕面市の発表資料より)
事業者決定時に公表された文化ホール外観イメージ(箕面市の発表資料より)

 また、運営事業と同等に施設本体に非常に高い技術力やデザイン力が求められる施設(大規模スポーツ施設や美術館・博物館など)においては、設計・施工事業者と運営事業者の双方に高い能力が求められます。そのため、こうした事業者がコンソーシアムを組み事業に参画するような事業デザインが必要です。

 青森県弘前市が実施した「弘前市吉野町緑地周辺整備等PFI事業」では、まちづくり拠点を創造するための運営能力に加えて、新たな美術館の整備に係る建築全体のデザイン性や内部空間の利便性、快適性などの空間設計能力を有する設計者の参画が期待されていました。そのため弘前市では、当該事業の構想段階から、技術力・デザイン力と運営能力の双方を民間事業者に求めていることを打ち出し、公募の段階においても、関心を持つ事業者とのたび重なる対話を実施し、市の思いを事業者に伝えるというステップを踏みました。その結果、新進気鋭の設計事業者と、著名キュレーターが代表を務める運営事業者などがコンソーシアムを結成したグループが応募し、選定されました。

2020年7月のグランドオープン時の弘前れんが倉庫美術館の外観(スターツコーポレーションの発表資料より)
2020年7月のグランドオープン時の弘前れんが倉庫美術館の外観(スターツコーポレーションの発表資料より)

「運営重視型PPP」に求められる3つの条件 (3)運営モニタリングこそが重要

 PPP事業では、当該事業の行政担当者がPPP事業を初めて経験することも多く、行政担当者が当該事業の事業化に多大なエネルギーを費やすケースも少なくありません。しかし、公民連携による事業の実現に労力を注ぎ過ぎるあまり、事業化そのものが目的化するというケースもしばしばあります。これでは本末転倒です。本来、公民連携は手段であって目的ではありません。「運営重視型PPP」においても、目的はあくまでも当初に設定された事業目的・政策目的の達成にあります。また、当該事業の事業目的・政策目的の達成は、運営段階において実現されます。

 そのため、行政がこの運営事業をモニタリングすることが極めて重要となります。ここで言うモニタリングとは、要求水準書や提案書に記載された内容の実施の有無をチェックすることだけではありません。限られた予算で事業目的を最大限に達成するために、「行政と事業者が運営期間を通じて知恵を出し合い、必要に応じて契約内容を見直す柔軟性も有しながら、モニタリングを進めていく」という共創型の取り組みを指しています。

 特に今回のコロナ禍のような事態への対応においては、単に対象施設を閉鎖して不可抗力に該当するリスク分担に則して処理をするだけでは不十分です。こうした不測の事態においても、いかにしてサービスを提供し続けるかといった柔軟な議論・対応があって然るべきであり、そのための体制を整えておくべきでしょう。

「運営重視型PPP」の今後の展望

 以上で概説した「運営重視型PPP」を実現していくためには、従前のPPP事業を事業化していくためのフローや力点、関係する事業主体との関わり方などを見直していく必要があると言えます。

運営重視型PPPの導入に向けたチェックリストの一例(資料:日本総合研究所)
運営重視型PPPの導入に向けたチェックリストの一例(資料:日本総合研究所)
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 まずは、「運営重視型PPP」と位置付けるべき、あるいはその可能性がある事業においては、事業のデザイン段階から事業主体となり得る事業者の関係者などが関与していく仕組みを構築していくことが肝要です。加えて、当該事業が事業目的・政策目的の達成に向けて付加価値を最大化するために、設計から運営に至るどのフェーズに力点を置くべきかを見定め、当該フェーズを担う事業者の創意工夫が十分に発揮される事業条件や事業スキームを構築する必要があります。

 そして最後に、運営段階こそ真に重視すべき公民連携であることを、行政と民間事業者の双方が共通認識として持つ必要があります。そうすることで、事業期間中に生じる様々な事象に行政と民間事業者が共創しながら取り組むことができます。「運営重視型PPPは公民共創で進める」という考え方が、一般化されていくことが望ましいと言えます。

 そのためには、先述した本質的な運営モニタリングの実施に加え、運営事業者が事業目的・政策目的の達成に対して積極的に取り組むインセンティブを付与し、そうした運営事業者の創意工夫を正当に評価する仕組みの導入が効果的だと言えます。例えば、独立採算事業におけるプロフィットシェアリングやサービス購入型の事業における成果連動型の報酬支払などです。こうした仕組みを取り入れることで 「運営重視型PPP」はさらに発展していくと言えるのです。

板垣 晋(いたがき・すすむ)
日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門地域・共創デザイングループ マネジャー
1976年生まれ。京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科修士取得退学(地域研究修士)。2004年に建設コンサルタント会社に入社し、地方都市の都市計画等の上位計画の策定業務などに従事。その後、スマートシティ関連コンサルティング会社を経て、日本総研に入社。日本総研では、文教施設(美術館、ホール、大学等)や観光施設、都市公園といった集客性の高い公共施設を中心に、PPP事業の構想策定から事業者選定支援まで幅広い案件に従事。近年では、歴史的建造物のリノベーション・利活用事業の支援にも従事。内閣府のPPP/PFI専門家派遣の専門家として複数都市に派遣された他、京都大学公共政策大学院「地域活性化論」の講師として登壇(2019年度、2020年度)。技術士(建設部門/分野:都市及び地方計画)。

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/102700030/102700001/