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仙台空港・岩井社長 渋谷再開発から東北活性化へ

取材・構成:菅 健彦=日経不動産マーケット情報、瀬川 滋=日経不動産マーケット情報【2016.3.18】

「日経不動産マーケット情報」2016年2月3日付の記事より

仙台空港が運営権を民間に売却するコンセッション方式を導入し、国管理空港として初めて民営化される。東北地方の命運を賭した巨大不動産の再活用プロジェクトだ。応募4グループから選ばれ、30年間の運営を託されたのは、東京急行電鉄、前田建設工業、豊田通商などのコンソーシアム。特別目的会社の仙台国際空港株式会社の社長に就いたのは、東急電鉄出身でREIT(不動産投資信託)や渋谷再開発の経験もある岩井卓也氏だ。滑走路の維持管理や着陸料の徴収が2016年7月から新会社に移管されるのに先立ち、2月1日から旅客ターミナルビルなどの運営を担う。同氏の講演や本誌インタビューをもとに、活性化に向けた戦略をまとめた。

 1月27日に宮城県が主催した仙台空港のサポーター会議で、村井嘉浩宮城県知事は岩井氏を「鉄道事業のみならず渋谷の再開発、街づくりにも豊富な実績があり、私が思い描いてきた理想の空港経営者」と紹介した。仙台空港の事業を担当することになった経緯について、岩井氏は次のように述べている。

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1月27日に仙台国際センターで開かれた宮城県主催の第5回「仙台空港600万人・5万トン実現サポーター会議」。岩井氏は「東北のプライマリー・グローバル・ゲートウェイを目指して」というテーマで講演した

 最初は渋谷駅の再開発と兼務でした。会社の辞令です。そのうち仙台空港のプロジェクトが面白くなってきたので、立候補して専任にしてもらったのです。

 空港などのインフラ運営を民間企業が担う市場を形成していくことが、今後の国の成長にとって極めて重要だと感じています。例えば、英国が空港を民営化したのはおよそ20年前。現在、この分野でマーケットメークしている企業、技術や財務のアドバイザリー業務を手がけている企業のほぼ全てが英国系です。英国で経験を積んだ企業が、世界中をコンサルティングするために歩いている。仙台空港のような世界的にみれば規模が小さいディールも、しっかりウオッチしています。

 新しい産業が立ち上がるときは、いち早く市場を開放して民間を入れ、ガッツを出したところが世界を制覇できるのです。

東急グループの使命やモラルにフィットしている

 東急電鉄の確固たる地盤が、東北にあるわけではない。地元から見れば新参者。そんな会社が仙台空港の事業に参画する意義は何だったのか。

 これまで官が担ってきた空港の運営を民間が手がけることは、社会的な意義が大きいと考えています。しかも、東急グループが持っているいろいろなスキルをうまく生かせる。例えば、安全を守る仕事、地域の発展を考える仕事、商業施設を運営する仕事などの経験です。

 仙台空港を30年、オプションの延長を含めると最長で65年という非常に長い間、預かる事業です。東急電鉄はレールを剥がして逃げるわけにはいかない会社。そういう企業の使命やモラルなどもフィットしていると、提案書をつくっていて改めて感じました。東急グループにとって東北の地は、これまで事業展開がさほど積極的ではなかったのですが、仙台空港の運営に関わっていくことは、とても自然な感覚です。

PFIとM&Aを同時並行でやる感覚

 コンペで民間事業者を選んだ空港のコンセッション方式は、仙台空港が初。前例のないなかで、各グループとも試行錯誤しながら提案書をまとめた。

コンセッション方式を導入した仙台空港(写真:国土交通省東北地方整備局)
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 一号案件だったので、国や県も含めて、わからないことがたくさんありました。お互い悪意はないけれど、ミスコミュニケーションもあった。REITとして国内で初めて上場した日本ビルファンド投資法人も、こんな感じだったのかなと思います。大変な時間と人手がかかりました。

 コンセッション方式はPFI法にのっとったものです。ところが、従来型のPFI(民間資金を活用した社会資本整備)事業とは全く異なる性格を持つものでした。グリーンフィールド、ブラウンフィールドでいうと、初めてのブラウンフィールドのような案件です。しかも、旅客ターミナルビルなどを所有する第三セクターの株式譲渡もついていた。PFIとM&A(合併・買収)を同時並行でやらなければならなかったのです。

 前田建設工業や東急コミュニティーなど、従来型のPFI事業について知見のあるメンバーがいてよかったし、東急電鉄や東急不動産などREITをよく知るメンバーがいてよかったとも思います。さらに、東急電鉄でM&Aを手がけた経験者もいました。ハイブリッドなチームでないと、できなかったでしょう。

提案では網羅性と具体性が問われた

 仙台国際空港株式会社の構成企業は下表の通り。業種も社風も異なる各社がどのように役割を分担し、何人が提案に関わり、どれくらいの空港を視察したのか。

 提案段階において、前田建設工業は施設計画やライフサイクルコストを主に担当しました。豊田通商は貨物を一手に、東急電鉄は安全の観点で。ただ、各社の守備範囲だけではなく、相当密接に一体となって検討しました。最後は、各社の部長クラスが週末も出社して朝から一日中議論しました。

 アドバイザーを抜きにすると、コンソーシアムのメンバーだけで最盛期は50人くらいでしょうか。大所帯です。2014年の夏ごろから検討を始めました。一番大変だったのは、2015年に入って2次審査の提案書をまとめた時です。

 提案書は、ものすごく網羅的なことを要求されます。網羅的である半面、それぞれの具体性も問われる。全体のストーリーが通っていないといけないし、具体策の粒感もある程度そろっていないとおかしい。パートごとに担当者が提案書のドラフトを書いたのですが、全体をつなぎ合わせてみると粒感が全然合っていないとか、こことあそこで言っていることが違うとか、途中段階ではいろいろありました。

 例えば、安全の面では東急電鉄の担当者がドラフトを書いたのですが、他社の人から「このコンソーシアムは東急電鉄が代表企業で売りのところなのだから、もっと踏み込んで自慢話を書かなきゃ駄目だ」と言われました。

 ヒアリングしたところだけで、海外が16空港、国内が7空港。見ただけのところはもっとあります。

当初5年間は相当ストレッチした目標

 空港会社の旅客数、貨物量の目標は、5年後に410万人、1万トン。30年後に550万人、2万5000トンだ。宮城県が以前から掲げている「600万人、5万トン」の目標には届いていない。

 宮城県の野心的な目標に比べると、やや抑えた数になっています。コンペなので正直どうしようかなと、(宮城県の目標値に)合わせちゃおうかなと思ったときもありました。しかし私たちは、きちんと需要予測したうえで、厳しいけれども汗をかけば実現できるだろうという数字を提案した。600万人、5万トンを諦めているわけではありません。

 コンセッションの事業は有期限なので、設備投資の償却を考えると、事業の開始当初にどかんと投資しなければなりません。事業期間の最初に投資した以上は、頭からアグレッシブに営業して旅客数を増やしたい。当初5年間は相当にストレッチした目標ですが、頑張ります。

プライマリー・グローバル・ゲートウェイに

 空港会社が掲げたコンセプトは「プライマリー・グローバル・ゲートウェイ」。東北在住で飛行機に乗る人や東北に来る人に一番に選ばれる空港になる、東北で最も重要な航空貨物の拠点となり、荷主にも一番に選ばれるという願いを込めた。これを実現するための施策の柱は3点。1点目は路線を増やし航空需要を増やす、2点目は空港活性化と設備投資、3点目は高いサステナビリティーの実現だ。「路線を増やし航空需要を増やす」施策について、岩井氏は次のように語っている。

仙台空港の外観。どこにでもある地方空港だ
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 今、東北6県で海外に出ていく旅客の3分の2が成田空港と羽田空港からです。海外から東北に入ってくる旅客も、6割が成田空港か羽田空港を使っています。東北は人口が900万人もいて、ハンガリーと同じくらい多い。成田空港は滑走路をもう1本増やさなければならないほど過密な状態です。一方、仙台空港は3000mの滑走路を持ち、まだまだ容量に余裕がある。

 英ロンドンのガトウィック空港は滑走路が1本だけですが、年間3000万人を運んでいる。仙台空港の旅客数は2014年度の実績で324万人。単純に比較できませんが、仙台空港は容量の10%しか使っていないということです。

 国際線は、アジア4時間圏の直行便を拡充したいと思います。特に東アジアのハブ空港に飛ぶ路線を誘致したい。国内線は、フルサービスキャリアの路線の維持と機材の大型化です。LCC(格安航空会社)の新規路線も拡充したい。

 「LCC専用空港にするのですか」という質問をよく受けるのですが、決してそのようなことはありません。フルサービスキャリアも大事なお客様です。ビジネスのお客、それに団体のお客、貨物については、フルサービスキャリアが重要です。機材の大型化や貨物に効き目のあることについて、短期的にはフルサービスキャリアの力を借りるしかありません。

 料金の施策と施設整備の基本的な考え方は、航空会社と空港が同じ方向を向いて、ともに働くことが大事です。新規就航時には料金を割り引きし、旅客数減少時には航空会社の負担を軽減する料金体系にしたい。施設整備についても、航空会社や旅客の負担が極小化されるように考えています。

東急電鉄、前田建設工業、豊田通商などのコンソーシアムが提案した仙台空港の主な新設・改修計画。現在、LCCの旅客数は全体の16%だが、LCC向けの搭乗施設や就航しやすい料金体系にすることで、30年後は51%に伸ばす(資料:仙台国際空港)

 路線誘致と需要喚起は表裏の関係にあります。需要の喚起は、地域一体で取り組んでいかなければなりません。海外や西日本の人から見れば、東北という目的地は一つ。宮城県も山形県もない。東北一体でプロモーションをやることが大事です。

 空港会社単独ではできないような、大仕掛けのプロジェクトを東北に誘致することも必要です。例えば、巨大な物理学の実験施設、リニアコライダーを北上山地に建設する計画があります。世界から超一流の研究者が来ることになるので、空港ビジネスのみならず、地域にとって大変な刺激になるはずです。こうした取り組みは、自治体や東北経済連合会、東北観光推進機構などと一緒に働きかけていこうと思います。

綿密なマーケティングで路線誘致

 国土交通省が事業者選定後に公表した提案の審査講評には「路線誘致のターゲットが明確に設定されているものを高く評価した」とある。提案にどこまでの実現性を盛り込んだのかについても聞いてみた。

 航空会社に飛んでいただくために、チームをつくって綿密なマーケティングをしようと提案しました。データベースを構築して、このフライトはどれくらい人が乗っているとか、経由便でどれくらいの人が流れているとか。国内の空港は、まだほとんどできていません。

 中国の大手航空会社だと、就航都市数はおよそ300に達します。北京や上海を拠点に300もの都市に飛んでいるとなると、仙台空港への路線を新たに開設しようなんて自発的に検討してくれない。仙台空港が「飛べば需要はあるよ」とセールスに行かなければならないのです。海外の空港会社なら、どこでもやっています。

 提案段階では、就航の確約までいかないですよ。我々のマーケティングとして、こういう営業姿勢、こういう料金体系、こういう施設整備にすれば、就航してもらえると確信している、だから旅客数が増える、という提案をしています。すでに海外の航空会社20社と意見交換しました。具体的な営業はこれからですが、窓口や担当者はわかっています。

岩井 卓也(いわい・たくや)氏
仙台国際空港 社長
筑波大学第三学群社会工学類卒業後、東京急行電鉄に入社。2002年東急リアル・エステート・インベストメント・マネジメント執行役員資産開発部長、2012年東京急行電鉄渋谷開発事業部事業計画部統括部長などを経て、2015年同経営企画室PFIプロジェクト推進部統括部長。同年11月の仙台国際空港株式会社設立とともに同社の社長に就任
この記事は、日経不動産マーケット情報「仙台空港・岩井社長(1)渋谷再開発から東北活性化へ」(2016年2月3日)を転載したものです。日経不動産マーケット情報のウェブサイトでは、

・仙台空港・岩井社長(2)改修の目玉はエアサイド店舗(2016年2月4日)

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