性能発注による土木施設の包括民間委託契約の取り組みを進めているのが、東京都府中市だ。
市の中心部を通る「けやき並木通り」をはじめとした延長3.5kmの道路の維持補修や151本の街路樹のせん定、207基の街路灯の保守などを2014年度から3年間の契約で委託している。
市は、公募型のプロポーザル方式で選定した前田道路・ケイミックス・東京緑建JVと契約を結んだ。
市が従来の維持管理に必要だった金額をもとに想定した年間上限額4182万6000円(税込み)に対し、受託金額は1年当たり4168万8000円(同)。委託範囲が狭いこともあり、費用面での削減効果は小さい。
「仕様の押し付けでは続かない」
要求性能は、路面であれば、「利用者が通常の想定範囲内で使った場合に、利用者の身体や財産に著しい影響を与える可能性がある場合に補修を要する」というような内容だ。
こうした性能表記では、市が考える水準とJVが考える水準に差が生じるケースもある。ただし、市は要望を受け入れてもらうだけが全てだとはみていない。
「仕様を押し付ける格好では、受託者が利益を確保しにくくなる。それでは包括民間委託の仕組みが続かない」(府中市都市整備部管理課の小林茂課長補佐)。
性能の具体的なすり合わせは、新たに案件が生じるたびに市とJVで確認してきた。両者の手間は大きい。ただし、その数は次第に減りつつある。
調整の実績が増してくれば、両者の考えが近付くので、こうした手間は減少するはずだ。それだけに、委託期間が短ければ、そうした効用が継続しにくい。
「クレームは約半減」
市による1年数カ月間の取り組みから判明した最大の効果は、道路利用者からの要望の減少だ。
包括民間委託の開始以降、市やJVに寄せられたクレームは、市が道路を維持管理していた頃に比べて大幅に減った。「きちんと集計できていないが、約半減した。こまめな巡回が効いている」と、小林課長補佐はみる。
こうした成果を受け、小林課長補佐は今後の方針を次のように続ける。「導入効果などをこれから検証していくものの、基本的に17年度以降も制度を継続し、エリアや期間を拡大していきたい」。
経営難を理由に構成企業が交代
とはいえ、この契約でも大きな問題が生じていた。それは契約先の経営破たんだ。
実は前田道路JVは14年12月、契約当初からのJVの構成員を入れ替えた。JV内で唯一、府中市に本社を置き、植栽のせん定などを担う東京緑建を第一造園(府中市)に変えたのだ。
経営に行き詰まった東京緑建が、「破たんする前に『どうすれば迷惑にならないか』と市に相談してきた。夢にも思わない申し出だった」と、小林課長補佐は振り返る。
東京緑建は、市内でも有数の造園工事会社だった。市は契約までに経営状況を確認していたものの、問題は見当たらなかった。
突然の申し出に戸惑いつつ、市はJV側に代替の会社を探すよう求めた。ただし本来は、JVとはその構成員が破たんしても残った会社がカバーできるような仕組みだ。
市はリスク対応策の検討へ
今回も契約上は東京緑建を除くJVとして継続することは可能だった。事業者にとっても、「残った企業が再委託を行って対応できればもう少し楽だった」(前田道路第一営業部の西村米雄PFI・PPP推進課長)。
それでも、市が代わりの会社を求めたのは、東京緑建が抜けると市内に本社を置く会社の参加という入札参加条件を欠くためだ。
市は、この仕組みの将来の担い手として、市内の事業者に期待を掛けている。試験的な取り組みに市内事業者が参加しなければ、育成や評価は難しい。
今回の契約で交代した企業はJVのスポンサーではなかった。加えて、東京緑建は事業が続けられない旨を事前に申し出た。業務の切れ目が顕在化しなかったのは、そのためだ。
しかし、これがJVのスポンサー企業であったり、前触れなく破たんしたりするとなれば、日常的な維持管理が行き届かなくなり、住民サービスに支障を来しかねない。
市ではこうしたリスクへの対応策を、次回の包括民間委託業務の発注までに検討する。少なくとも現段階では、市が直営で舗装の簡易な補修などに対応できる最低限の体制を維持する必要があると考えている。
記事は日経コンストラクション2015年8月24日号特集「インフラマネジメント、壁の向こう側」の一部を再構成
日経BP社は11月24日、書籍「インフラマネジメント最前線」を発行した。同書では、国内外で進むインフラ維持管理の先進事例を、詳細な図やデータなどとともに紹介している。
この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/15/434167/120100011/