工場跡地に進出してきた立命館大学と連携しながら公園や道路など地域に必要な基盤施設の整備を実現したのが、大阪府茨木市である。2015年4月に防災公園として開設した岩倉公園は、市で所有・管理する公園でありながら、大学との境界を感じさせない。一体的な造りが実現した経緯を追い、その意義を探る。

岩倉公園と立命館大学キャンパスの配置図(資料:学校法人立命館)
岩倉公園と立命館大学キャンパスの配置図(資料:学校法人立命館)
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 大阪府茨木市、JR茨木駅からほど近くに位置する岩倉公園には大きな特徴がある。隣接する立命館大学の大阪いばらきキャンパス(OIC)と一体的な空間を実現した点だ。

 公園と大学キャンパスとの間には確かに、それらを二分する明確な境界は見当たらない。舗道の造りはもちろん、敷地境界の両側に並ぶ植栽にも一体感を持たせた。「植栽が同じように育つよう、同じ土壌を用いた」。学校法人立命館のキャンパス計画室副室長として新キャンパスの整備計画づくりに携わった立命館大学理工学部准教授の武田史朗氏は、工夫の一例を挙げる。景観をそろえ、境界が意識されたときにむしろ違和感を覚える造りを目指したという。

 しかも、公園の周りに整備された大学の建物1階に入居するテナント店舗は公園側に開いている。公園と大学キャンパスとの間の境界を意識させないばかりか、公園と建物とが一体であることを一段と強調するように設計されている。

 その一体感は、公園内部の遊具広場でも意識されている。「景観上、大学キャンパスの持つ知的な雰囲気に合うように遊具を選択した」。茨木市都市整備部次長・都市政策課長の田邊武志氏はそう振り返る。それは例えば、遊具の色に表れているという。通常は利用者である子どもの興味や注意を引くという狙いから原色系が用いられるが、この広場では落ち着いた赤茶系の特注色を用いている。

公園側に開かれたキャンパス建物(A棟)の1階(写真:茂木俊輔)
公園側に開かれたキャンパス建物(A棟)の1階(写真:茂木俊輔)
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立命館いばらきフューチャープラザの1階には公園に面してカフェやレストランが入居。公園との境界を挟んで両側に配置した植栽は、土壌を含めて同種のものにそろえた(写真:編集部)
立命館いばらきフューチャープラザの1階には公園に面してカフェやレストランが入居。公園との境界を挟んで両側に配置した植栽は、土壌を含めて同種のものにそろえた(写真:編集部)
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景観の一体感に配慮し、落ち着いた赤茶系の特注色を用いた遊具広場(写真:編集部)
景観の一体感に配慮し、落ち着いた赤茶系の特注色を用いた遊具広場(写真:編集部)
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大学の知的・人的資源に市は期待

 公園と大学の一体整備を目指した市の狙いはこうだ。「大学が立地するということはまちづくりに役立つ知的・人的資源を得られるということ。ハードよりソフトの時代を迎え、まちづくりの中心に人を位置付けている市としては、学生や教員と市民が交じり合える環境が欲しかった」。田邊氏は力説する。

 目指す方向は大学側も同じ。「地域に対して開き、地域とつながれるようにするという考え方は、どのキャンパスにも共通。キャンパスと公園が一体に見えるようにすることを心掛けた」。武田氏は振り返る。実際、立命館では新キャンパスのコンセプトの一つとして地域・社会連携という言葉を掲げている。

一体的な空間として整備された岩倉公園と、隣接する立命館大学大阪いばらきキャンパス。写真は2015年5月に開催されたイベント「いばらき×立命館DAY」の様子(写真:学校法人立命館)
一体的な空間として整備された岩倉公園と、隣接する立命館大学大阪いばらきキャンパス。写真は2015年5月に開催されたイベント「いばらき×立命館DAY」の様子(写真:学校法人立命館)
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 大学も地域との連携に力を入れる時代。とはいえ、誰もが自由に利用できる公園との間に境界のない造りを採用するには、一定のリスクも想定される。どのような経緯でそうした造りを実現できたのか――。まずは公園整備までのいきさつを振り返ろう。

大学進出をまちづくりの好機に

 JR茨木駅に近いサッポロビール大阪工場の跡地約12.2ヘクタールを学校法人立命館が取得することを正式決定したのは、2010年11月。そこに京都市北区や滋賀県草津市のキャンパスと並ぶ新キャンパスを整備する構想を打ち出した。

 既成市街地内でこれだけ大規模な工場跡地を開発するともなれば、アクセス道路の整備が欠かせない。立命館にとって、地元茨木市との連携は避けて通れなかった。一方で、「巨額の資金を調達する狙いから、土地の一部を市に譲渡することを考えた」。学校法人立命館財務部次長の森山哲朗氏は、市との二人三脚を念頭に置いたという。

 市にとっては、地域の課題にメスを入れる好機だった。田邊氏は「周辺一帯は古い市街地で空地に乏しく、防災上の課題を抱えていた」と解説する。災害時の安全確保に役立つ広さを持つ空地を、財政負担に配慮しつつ整備する道を探った。

 立命館と市は協議を経て2011年12月、新キャンパスに向けた協定を交わす。そこでは、

(1)立命館は2015年4月をめどに大阪茨木新キャンパスを開設する
(2)市はキャンパス整備に併せて防災公園街区整備事業を実施する
(3)同事業の市街地整備部分に立命館が建設する市民開放施設に対して市は財政支援する
(4)市はキャンパス整備に関連する公共施設の整備・改善に努める

 ――などの取り決めが行われた。

 (2)の防災公園街区整備事業は、都市再生機構(UR都市機構)の「防災公園街区整備事業」を活用した。地元自治体の要請に基づいて防災公園と周辺市街地の整備改善とを一体的に肩代わりし、防災公園は最終的に自治体に引き渡すものだ。自治体はその施設費や用地費をUR都市機構に対して、最長5年の据え置き期間を経たうえで最長20年にわたって割賦償還することが認められる。そのため、公園を自ら整備するのに比べ、財政負担を平準化できるというメリットがある。公共投資額約89億4700万円のうち約36億9100万円は国の社会資本整備総合交付金で賄う。

 立命館は、取得した工場跡地約12.2ヘクタールのうち防災公園街区整備事業を実施する約3ヘクタールをUR都市機構に売却し、URは防災公園と、協定(3)の「市民開放施設」に当たる「立命館いばらきフューチャープラザ」の敷地となる市街地整備部分を整備した。

 この防災公園街区整備事業で整備された約3ヘクタールは、最終的には市がUR都市機構から買い取った。防災公園部分は市立岩倉公園となり、市街地整備部分は市が立命館に無償貸与した。「立命館いばらきフューチャープラザ」の建物は立命館が建設した。

 「立命館いばらきフューチャープラザ」の建設費について、立命館は金額を明らかにしていないが、市と立命館が交わした協定に従って30億円を上限に建設費の2分の1以内の範囲で市から支援を得ているという。市は国からの交付金約5億7000万円を含めて30億円を立命館に財政支援している。

 立命館は当初の狙い通り事業資金の一部を確保できた。一方、市はUR都市機構に対して、防災公園の施設整備費は事業期間内に支払ったものの用地費は2020年度から34年度までの15年間にわたって無利子で割賦償還していく。

大学のホールや図書館などを市民に開放

 防災公園街区整備事業の残り半分の敷地に建つ「立命館いばらきフューチャープラザ」は、前述のように市民にも開放する施設だ。地上5階建てのこの建物は、席数1000席のグランドホールに加え、400人、150人規模の計3つのホール施設、大学開講中は教室として用いる教学施設、OICライブラリー(大学図書館。1100席・図書収容能力80万冊)、音楽練習施設、研究・産学官連携施設、カフェ、レストランなどで構成する。そのほか地域交流施設「まちライブラリー」(テーマに沿った本を持ち寄って交流を図るイベントなどを開催する施設。会員カード実費負担のみで利用は無料)、商工会議所のオフィスなども入居する。

立命館いばらきフューチャープラザの2階。このフロアにはOICライブラリーのエントランスや、1000席のグランドホールなどがある(写真:茂木俊輔)
立命館いばらきフューチャープラザの2階。このフロアにはOICライブラリーのエントランスや、1000席のグランドホールなどがある(写真:茂木俊輔)
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 レストランやカフェは誰でも利用できるほか、ホール施設、教学施設、音楽練習施設、ライブラリーについても、学内の利用を最優先に位置付けながらも、一般にも開放している。市内在住・在勤などの市民向けには、一般料金より割安の市民料金を設定。例えばライブラリーの登録料は一般向け年間3000円に対し市民向け年間2000円に抑えている。立命館大学の他のキャンパスでも一般向けに開放しているライブラリーはあるが、そこでの年間登録者は100人程度であるのに対し、ここOICでは市民の利用が多いことから登録者は約800人にものぼるという。

 一般に開放している施設の中でも、とりわけホールは市にとっても望まれる施設だったという。田邊氏は「収容人員400人規模のホールを備えたホテルが取り壊され、1000人規模のホールを持つ市民会館が老朽化などを理由に閉館してしまった。同規模のホールを市として確保したかった」と事情を話す。

 見方を変えれば、大学による「立命館いばらきフューチャープラザ」の整備によって、茨木市はホールや図書館など市として必要性のある施設を確保できたとも言える。建設段階では財政支援しているものの、管理運営段階ではコスト負担は強いられない。「大学と一体の利用なので、施設の稼働効率は高い。いまの時代に合ったやり方ではないか」。田邊氏はこうみている。

災害時の大学施設の利用はこれから

 防災公園街区整備事業の用地、合計約3ヘクタールを工場跡地内のどこに配置するかは、市やUR都市機構の意向を踏まえて立命館が決めた。工場跡地内に東西・南北の二軸を想定。JR茨木駅からキャンパス内に向かう延長線上の南北軸を「学びの軸」に、市街地からその西側のキャンパスに向かう延長線上の東西軸を「市民交流軸」に位置付けたうえで、防災公園街区整備事業の用地はその二軸で構成される北東部分、地域住民が一次避難地として利用しやすい場所に確保した。

公園の北から南を望む。手前から奥に向かって「学びの軸」が延びる(写真:茂木俊輔)
公園の北から南を望む。手前から奥に向かって「学びの軸」が延びる(写真:茂木俊輔)
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 岩倉公園の防災公園としての機能としては、まず、一次避難地として避難者が座り込めるように芝生を敷き詰めた広場がある。最大6600人の利用を想定している。平常時には駐輪場として利用する非常用トイレ、災害時にはテントを張って救護施設に充てる防災パーゴラなど防災関連の設備も配置している。

岩倉公園は一次避難地として利用される。1人当たりの単位面積から計算して、最大6600人の利用が想定されている(写真:茂木俊輔)
岩倉公園は一次避難地として利用される。1人当たりの単位面積から計算して、最大6600人の利用が想定されている(写真:茂木俊輔)
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岩倉公園の防災関連設備。平常時は駐輪場として利用する非常用トイレ(左)と、災害時はテントを張って救護施設に充てる防災パーゴラ(右)(写真:茂木俊輔)
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岩倉公園の防災関連設備。平常時は駐輪場として利用する非常用トイレ(左)と、災害時はテントを張って救護施設に充てる防災パーゴラ(右)(写真:茂木俊輔)
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岩倉公園の防災関連設備。平常時は駐輪場として利用する非常用トイレ(左)と、災害時はテントを張って救護施設に充てる防災パーゴラ(右)(写真:茂木俊輔)

 防災公園である以上、災害時には地域住民が一次避難地として利用する。そのとき、大学キャンパス内の施設も併せて利用できるようになることを市は期待する。「防災公園に設置した防災パーゴラだけでは限界がある。負傷者や乳幼児・高齢者の一次避難を考えると、施設の一部を救護施設として提供してもらうことが望まれる。地域住民と学生とが互いに助け合うことも期待したい」(田邊氏)。

 一次避難地とはいえ、防災公園に避難してきた地域住民からすれば、その先に広がる大学キャンパスの空間や設備、そして人的資源にも頼りたいに違いない。公園とキャンパスとの間に境界がないなら、なおさらだろう。ただし、この点についてはまだ協議途上だ。

 防災公園の開設前、2014年4月には、市と立命館、そしてJRの線路をはさんで大学キャンパスと反対側に位置するイオン茨木ショッピングセンターを運営するイオンリテールの3者間で、相互連携協力による災害に強いまちづくりに関する協定を結んでいる。

 市とイオンリテールでは以前から、災害時の物資提供に関する協定を結び、災害時対応を想定した防災イベントを共同開催してきた。一方、ショッピングセンターと大学キャンパスとの間では非常用発電設備による電力を相互に供給し合うことを取り決め、その電力をさらに防災公園にまで供給する取り組みが計画されている。3者間の協定はその延長線上に位置付けられる。

 ただ、大学側がこの協定に基づきどのような態勢で臨むかは、まだ明確ではない。森山氏は「地域住民の受け入れは想定しているが、具体的にどこでどの程度受け入れるかは市と協議していく」と慎重だ。

公園管理には大学一体型の難しさも

 防災公園の話題に戻ろう。公園と隣接する大学キャンパスに一体感があるのは、計画上は望ましいが、管理運営に支障はないのか。互いに連携の意識は高いものの、かたや市が管理し、誰もが出入りできる公園施設、かたや学校法人が管理し、将来的には8000人規模を目指そうという大学キャンパスである。

 計画段階で懸念されたのは、植栽の維持管理だ。立命館の森山氏は「植栽の維持管理が同じレベルでできるのかという心配はあった。予算が異なれば、雑草の手入れにも差が出かねないからだ」と振り返る。

 開設からまだ1年余りということもあって、植栽の維持管理に関して懸念されたような問題は生じていないという。ただ、岩倉公園と大学キャンパス内の植栽などの管理を効果的、効率的に実施し、良好な景観を維持するという観点に立った管理協定に基づき、その業務に関しては今年度から立命館の関連法人に委託先を切り替えている。残念なのは、公園内の広場に敷き詰められた芝生がほぼ失われてしまった点。養生期間が十分に確保されないまま、公園利用者が相次いだことが原因とみられている。

 大学キャンパスとひと続きという特性もあって、管理面では通常の公園にはない苦労もあるようだ。それは、決められた場所への駐輪を促したり夜間における騒音を戒めたりする現地での注意書きの多さからも伝わってくる。「管理する領域があってないようなものだけに、公園管理者としては大変」。市の田邊氏は大学キャンパスと一体的な造りを採用したことの良さを評価しながらも、本音を漏らす。

岩倉公園の出入り口付近には、注意書きが少なくない。大学キャンパスと一体的な造りだけに、管理には難しさもあるようだ(写真:茂木俊輔)
岩倉公園の出入り口付近には、注意書きが少なくない。大学キャンパスと一体的な造りだけに、管理には難しさもあるようだ(写真:茂木俊輔)
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 防災公園の開設から1年たち、管理面での難しさを抱えながらも、大学キャンパスとの一体的な造りというハード面の連携関係を、まちづくりというソフト面にまで発展させていこうとする動きも出てきているという。「大学と市でこの一帯のエリアマネジメントを考えていくような研究会を開こうという話が浮上している。第1回の集まりを10月くらいに実現できればいい」。立命館大学の武田氏は期待を寄せる。公園と大学キャンパスが一体的な造りであることを将来に生かそうとするなら、建設段階だけでなく運営段階にまで踏み込んでいかざるを得ないからだ。

 下地は整いつつあるようだ。2012年8月、大学と市に地元の茨木商工会議所を加えた3者は、連携協力に関する協定を締結。まちづくり、産業、観光、学術研究、教育、文化、国際交流、スポーツなど、幅広い領域でさまざまな連携関係を築いてきた。

連携関係を市街地の活性化にも生かす

 2015年度にはそうした連携関係の下、大学キャンパスと防災公園の開設時に、それらの施設を一体的に活用したイベントを3者共同で開催した。2016年度は市と商工会議所が主催から後援に回ったものの、前年度同様、5月にこのイベントを開催している。学内や地域で活動する団体や企業などが、公園に面する場所に設置したステージでさまざまなパフォーマンスを演じたり、大学と地域のつながりを知ることをテーマに市民向けのブースを出展したりした。

いばらき×立命館DAYのプログラム。地元の店舗や団体も数多く参加した(写真・資料:学校法人立命館)
いばらき×立命館DAYのプログラム。地元の店舗や団体も数多く参加した(写真・資料:学校法人立命館)
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 イベントプログラムにも連携関係が生きる。その一つである「防災運動会」は、市が大学の協力を得て主催する市民講座「まちづくりラボ」の受講生約20人が中心になって企画・運営するもの。田邊氏によれば、今年度は借り物競争や玉入れなどの競技に防災意識の向上につながるひと工夫を加えたものを仕掛けたという。

 大学との連携関係の下、市がその成果として期待するのは、中心市街地の活性化である。市は現在、改正中心市街地活性化法に基づく中心市街地活性化基本計画を策定中。その策定作業では、大学キャンパスを対象区域内にあえて組み込んだという。田邊氏は「活性化を志す起業家が誕生するなど、大学の知的・人的資源をまちの活性化に生かすことができれば」と展望を語る。市では「今年度は基本計画の素案を作成し、来年度は財政支援を受けられるように基本計画に対する国の認定を受けることを目指す」(田邊氏)。

 まちづくりの将来を見据えながら、田邊氏は大学キャンパスの整備が市にもたらす意義を説く。「企業立地が税収増や雇用増をもたらすのに対し、大学立地は知的・人的資源を呼び込める」。防災公園街区整備事業の実施によって、市には確かに一定の財政負担が生じた。それは、見掛け上はハードへの投資とはいえ、その実はまちづくりの将来を担う人への投資と位置付けられるのかもしれない。

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/15/434169/072800104/