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地方で活発化する“人”への投資

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【遠野市】キリンビール、富士ゼロックスと協働、まちづくり人材育成を公民連携で

元田 光一=テクニカルライター【2017.3.24】

岩手県遠野市が抱える課題は、高齢化や人材流出による人口減少、基幹産業の衰退だ。人口3万人以下の小規模自治体が、自力でそうした課題解決に取り組みことは難しい。そこで、遠野市では民間企業と協働し、彼らが持つマーケティングや情報発信の力を借りて課題解決に取り組んでいる。

写真1●ホップの収穫は竹竿の先端に取り付けたカマでカットするなど、他の作物と比べて手間がかかる(写真:キリンビール)

 河童や座敷童子などが登場する「遠野民話」など、民話の里として知られる岩手県遠野市だが、昭和30年代には約4万7000人いた市民が、2016年末には約2万8000人にまで減少した。遠野市の基幹産業である農業に目を向けると、1987年に日本一の生産量を誇っていたホップ農家は、ピーク時の239戸から減少が止まらず、2015年にはわずか37戸となった。ホップ栽培は高所での手作業が多く、機械化を進めにくい。厳しい農作業を伴うことから、なり手が少なく、後継者不足に悩まされている(写真1)。農場の面積もピーク時の112ヘクタールから34ヘクタール(2012年)まで落ち込んだ。

 こうした状況を受け、遠野市では以前からホップやビールのプロモーションに取り組んできた。その一つが2006年から遠野市とキリンビールが共同で推進している「TK(遠野×キリン)プロジェクト」。キリンビールが持つマーケティングや情報発信のノウハウを活用し、遠野産ホップや遠野市の食材をPRするプロジェクトである。ホップ栽培は基本的に、ビール会社との契約栽培。遠野市では1963年からキリンビールが各農家と契約を結び、全量を買い取っている。

 TKプロジェクトでは、遠野市の自然や食材、観光情報を全国に発信。ビアガーデンやホップを使った料理会、ホップ収穫祭などを定期的に地元で開催している。2016年には横浜で開催されたビールの祭典「オクトーバーフェスト」など、県外のイベントにも積極的に参加している。

 ただ、プロモーションだけでは必ずしも問題を解決できない。遠野市産業振興部商工観光課の菅原康氏は、2013年に開催された契約栽培50周年を祝うイベントに集まったホップ農家の年齢構成を見て、危機感を持った。「このまま高齢化が進めばホップ農家はさらに減少の道を辿り、10年後は産業として生き残れないかもしれない」(菅原氏)。キリンビールとしても、質の良い国内産ホップを安定的に確保するために、遠野市のホップ栽培を絶やしたくない。自治体と企業の思いが一致した。

 両者は今まで通りPRをやるだけでは本質的な問題は解決できないと考え、TKプロジェクトの見直しを模索。そして2016年、新たにNext Commons(遠野市)が加わり、次の50年を見据えた新たな取り組み「醸造する町Brewing Tono」を立ち上げた。

ホップの里からビールの里への変身するための人材を育成

 Brewing Tonoで目指すのは、ホップの栽培だけでなくビールの醸造までを地域の産業として育成し、ビールづくりを文化として遠野に根付かせること。「ホップの里からビールの里へ」。そのための総合的な取り組みを推進すべく、遠野市、キリンビール、遠野アサヒ農園、ふるさと公社、Next Commonsなどをメンバーとしたまちづくり協議会を設立し、活性化を図ろうとしている(図1)。

 協議会は、人を集めるための取り組みを考える「あそぶ部」、ビール醸造や消費の活性化を考える「つくる部」、これらの取り組みを外部に伝えていく「広げる部」で構成し、それぞれで活動を進める。

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図1●計画中のまちづくり協議会の概要。体制や分類は仮称。

 例えば「つくる部」では従来のホップ栽培にとらわれず、ホップの多品種栽培や世界に向けたブランド化を目指す人材や、ビールのつまみとして相性がよい作物の生産、クラフトビールの醸造など、ビールに関するさまざまな可能性に挑戦する人材の育成に注力する。

 「つくる部」でホップ栽培を支える新たな人材は、ホップ収穫祭や全国で開催された「新・農業人フェア」といったイベントでホップ栽培に興味を持ち、2015年から2016年にかけて遠野に移住してきた人々である。彼らの農業指導を行う遠野アサヒ農園の吉田敦史氏も、2008年に遠野にやってきた移住組の一人。キリンビールが支援した「東北復興・農業トレーニングセンタープロジェクト」(2013年4月~2014年3月)への参加がきっかけとなり、現在TKプロジェクトの中で地域のリーダー的な役割を果たしている。

 吉田氏はホップ栽培の指導のほか、ビールのつまみとなる農作物の開発や推進にも努め、ビールを中心とした多様な食文化の創造を目指している。また、野菜生産や加工品製造などを組み合わせた年間収支の立て方も指導している。現時点では年1回のホップ収穫だけで収入を賄うのは難しく、「ホップ生産者自らがビール製造まで行える筋道を立てようと、一緒になって頑張っている」(吉田氏)という。

 遠野市はBrewing Tonoにおいて、各種イベント対応や会計事務、申請手続きなどの役割を担い、広く市民や交流人口をファンクラブという形で組織化していく計画だ。ある程度のノウハウの蓄積と資金繰りができれば新たな協議会を組織し、「行政や企業ではなく、自走するところまで持っていきたい」(菅原氏)と将来像を語る。

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