「誰も困らない関係」をつくり上げる

 小島さんは、「農業界はずっと人手不足。農村に関しては空き家問題もあります。かたや仕事も家もない方がいる。それをうまく結び付けられたらお互いにメリットがあります」と語る。小島さんが言うところの「誰も困らない関係」ができるのだ。

 この後「チーム畑」に取り組んでいく過程で「ホームレスの就農の可能性を確信した」小島さんは、2011年に藤沢の農地に場所を移して就農支援プログラムとしてこの取り組みを発展させる。2013年8月には事業化、NPO法人「農スクール」として活動を本格化したのだ。

●農スクールとは
「農スクール」は、働く場所を求めるホームレス、引きこもり、生活保護受給者と人手が足りない農家を結び付ける。さらに、メンタルヘルスの問題を抱える人にも対応できるという考えだ(資料:農スクール)
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 現在は、神奈川県藤沢市に合計で1町歩(約1ヘクタール)を超える農園をかまえ、ホームレスや引きこもり、生活保護を受給する人たちを研修生として受け入れている。研修生は、個人で直接申し込んでくる人もいれば、自治体経由で他のNPO法人などから紹介されて来る人もいる。研修期間はおよそ1年間、3カ月を1ターンとして進められる。研修生たちは、この藤沢の農園で週に一度の農作業を通じて、社会とのつながりを再構築していく。就農の意思がある人には小島さんのネットワークを通じてその人に合う農家を紹介し、就農の手助けをする。

●農スクールのプログラムチャート
働けない状態にいる人たちは、畑で農作業をすることで段階的に社会復帰をしていく(資料:農スクール)
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 農スクールでは、最終的には就農や就労に結びつけることを目標にしている。実際に、研修を受けたことで社会との関係を取り戻し、就農や就労を実現させる人は多い。「農スクール」が2013年にスタートして以来、72人が研修を受け、そのうち31人が就農もしくは就労している(31人のうち13人が就農)。就労率は43%と高い。2016年の生徒も8人中4人が就農した。この中には10年以上引きこもりを続けていた人も含まれるという。

●農スクールの「就労率」
2016年までに31人が就労した。2016年は8人のうち4人までが就労している(資料:農スクール)
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 小島さんは、農業が持つ癒やしや再生の力を確信している。「畑で見る朝日や夕日は本当にきれい。見たこともない虫に遭遇して自然の力に感動したり、みんなで汗を流して育てたものが収穫できたり、みなさんがみるみる変わっていくことがわかります」と目を輝かせる。就農についても、「本人が本気でやりたいのであれば必ず就農できると思う。本気なら誰しもが農家になれる」と力強く語る。研修生たちは、小島さんやトレーナーからの指導を受けて週一度の農作業に励む。畑仕事に集中することで癒やしを得ながら、自分たちの生きる意味、働く意味、そして社会との関わり方を見出していく。