運営費は個人や企業のサポーターからの寄付が中心

「(研修生は)言葉と気持ちが真逆のことがよくあります」と語る小島さん(写真:高山 和良)
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 もちろん様々な背景を持つ人たちだけに難しいことも当然ある。メンタルヘルスや社会性の問題を抱えている人も少なくない。2008年以来の紆余曲折を経て、小島さんが設けたのは三つのゴールとそれを達成するためのルールを守るということ。

 3つのゴールとは、(1)「各人が土と向き合うことで、自分自身とも向き合うことを目指す」、(2)「農作業を通じて、自分のいいところを見つける」、(3)「つらいときに支え合えるような仲間作りを心がける」ということだ。このゴールを達成するために、「挨拶をする、時間を守る、休むときは連絡を入れる、畑に来るときは飲酒しない」といった、いくつかのルールを設定した。それも上から押し付けるのではなく、研修生と一緒に決めていくようにする。

 小島さんは、こうした枠組みを作った上で、研修生一人ひとりに向き合い、日々のちょっとした変化にも気を配る。さらに、「ワークノート」という研修生がその日の作業を振り返って付ける業務日誌を活用して、普段接していても気づかない微妙で潜在的な変化にも注意を払う。ワークノートに書かれたいくつかのポイントをデータ化して分析することで、言葉には表れない気持ちの変化までが見えてくるという。「言葉と気持ちが真逆のことがよくあります」と小島さん。

 事業を継続的に続けていくために収益は重要だ。費用についても「一人の研修生を3カ月指導するために約3万円かかる」(小島さん)。こうした費用は、研修生を紹介するNPO法人などからの支払いでまかなうほか、個人や企業のサポーターからの寄付に頼っている。引きこもりの場合は保護者からの寄付をお願いしているというが、ホームレスや生活保護を受けている個人からは研修費用は受け取っていない。紹介者からの支払いがないケースもあり、その場合には小島さんの持ち出しになってしまうこともある。農スクールの事業単体での台所事情は苦しい。

 小島さんのきめ細かな対応や、事業収支の面での苦労を見ると、「農スクール」で取り組んでいる事業はおいそれとマネできるものではない。しかし、小島さんは、最近になって国が農業と福祉の連携を後押しする制度を整えていることで、他の志のある人や自治体や団体に同様の取り組みが広がることを期待している。

 厚生労働省が2015年にスタートさせた「生活困窮者自立支援制度」では、生活困窮者に対する就労訓練事業を行う社会福祉法人や生活協同組合など一部の事業者に対して、内容も地域によって違ってくるが、固定資産税や不動産取得税などの一部を非課税にする措置や、事業を立ち上げる時の経費の補助、自治体による商品の優先発注といった支援がある。生活困窮者というのは、生活保護に至る前の人たちを指す言葉で、「農スクール」の研修生たちのような、引きこもりやニートといった長期未就労者やホームレスなどを含む。

 また、農林水産省でも、いわゆる「福祉農園地域支援事業」という、福祉農園の全国展開を支援する事業を進めている。平成29年度の予算でも、同様の施策が取られていて、「農山漁村振興交付金」の中に、福祉農園を支援する枠が設けられた。こちらはNPO法人、民間企業、一般社団法人なども申請できる。