サポート付き体験型農園「マイファーム」を全国展開するマイファームは、2011年に社会人向けの農業ビジネススクール「アグリイノベーション大学」を開校、受講生は700人を超えた。2016年には大阪府からの委託を受け「農業経営」に特化したビジネススクール「大阪アグリアカデミア」の運営にも携わる。これら事業に一貫しているのは「未来の農業を支える人材づくり」だ。

 マイファームは2011年11月、滋賀県野洲市で「アグリイノベーション大学校」を開設した。社会人向けの農業ビジネススクールで、農業技術をはじめ、経営・アグリビジネスまでを体系的に学ぶことができる。2012年からは千葉県東金市や横浜市、2014年には名古屋市などでも開講し、現在では関西地区、関東地区、東海地区の3校で合計約180人が学んでいる。

アグリイノベーション大学校で学ぶ生徒たち(写真:マイファーム)
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 学生の対象は農業に従事することを目指す社会人。生産から加工、流通、アグリツーリズムなど農業に関わる幅広い分野を学べる「総合コース」(1年)と農業技術を中心に学ぶための「農業技術専攻コース(ファーマーズコース)」(1年)がある(下の囲み参照)。

アグリイノベーション大学校の概要
アグリイノベーション大学校のウェブサイト
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週末を利用して学ぶことができる社会人向けの農業ビジネススクール。農業技術をはじめ、経営・アグリビジネスまでを体系的に学ぶカリキュラムを提供している。座学での講義のほか、農場で実技を学ぶ。2011年11月に設立・開校し、すでに約700人が卒業している。「総合コース」(1年)と「農業技術専攻コース(ファーマーズコース)」(1年)がある。

■運営主体

マイファーム

■開校場所

・関東地区
 千葉県東金市、横浜市(農場)
 東京都千代田区、世田谷区(座学)

・東海地区
 愛知県東郷町(農場)
 名古屋市(座学)

・関西地区
 滋賀県野洲市、京都府城陽市、大阪府門真市(農場)
 大阪府吹田市(座学)

■カリキュラム内容の例

・農業技術
 農業概論、栽培学、土壌学 、肥料学ほか

・農業経営/アグリビジネス
 農業経営・アグリビジネス概論、 生産と販売、就農の基礎知識 、非農家からの新規就農ほか

・養蜂学
 内検の仕方 、ミツバチの生態 、蜜源樹調査ほか

 「総合コース」は入学金、授業料を含め50万円以上の費用が必要で、「農業技術専攻コース」でも30万円近い費用がかかる。軽い気持ちで受講する金額ではなく、本気で農業を目指す人が集まってくる。講義や実習は週末に行われるため、通常仕事を持っている人も就農に向けた準備ができる。就農を希望すれば、農地情報の提供や農地賃貸契約のアドバイス、農作物の販路開拓支援、農業生産法人などへの就職先の紹介などのサポートも受けられる。

 アグリイノベーション大学校はこれまでに約700人の卒業生を送り出した。進路は「就農準備」が26.6%、「農業への新規参入」22.0%、「農業界に従事」14.7%、「アグリビジネス起業」9.6%と、約73%が農業関係に従事している。なかには卒業1年目で早くも自立できるようになった人もいる。

アグリイノベーション大学校の座学の様子(写真:マイファーム)
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体験農園から経営ビジネススクールまで

 マイファームの就農支援事業は「アグリイノベーション大学校」だけではない。様々な人たちが、段階に応じて農作業の技術や知識を学べるように複数のステップを用意している(下の図参照)。

マイファームの就農支援などに関する事業
(資料:取材を基に編集部で作成)
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 まず最初の入口は、関西を中心に全国で100カ所ほど展開している「体験農園マイファーム」だ。自治体などから“場所の提供”を受けるだけの市民農園に対して、「体験農園マイファーム」は、農機具の貸し出しや栽培アドバイスを受けることができ、より気軽に農作業に親しむことができる。「自産自消(自分でつくって自分でたべる人)」を増やし、農業に親しみを感じる人を増やしたいという西辻社長の思いからスタートした事業だ。

体験農園マイファーム(写真:マイファーム)
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 体験農園で農作業の楽しさ、野菜のおいしさを実体験して、本格的に農業を目指したいと思った人には、週末開講の「アグリイノベーション大学校」がある。さらに、農業の道に進んだ後、経営力をつけたい人のための新しいステップと位置付けられるのが、農業経営のビジネススクール「大阪アグリアカデミア」だ。2016年9月に大阪府とJAグループ大阪が共同で設立し、マイファームが運営を受託している。既存の農家や農業を始めて間もない人を対象に、さらに“次のステージ”に進んでもらうための人材育成機関だ(下の囲み参照)。

大阪アグリアカデミアの概要
大阪アグリアカデミアのウェブサイト
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「農業経営」に特化したビジネススクール。すでに農業に従事している「プロ」を対象としており、リーダー養成コースとスタートアップコースがある。2016年9月に開校した。

■運営主体

大阪府、JAグループ大阪

■受託事業者

マイファーム

■開校場所

JA大阪センタービル(大阪・淀屋橋)

■カリキュラム内容の例

<リーダー養成コース>
・農業概論(日本および海外、大阪府の農業情勢など全般)
・経営マインドの習得
・精神的農業経営者の経営理念
・リーダーシップ論
・発想・想像力の向上

<スタートアップコース>
・栽培・経営戦略
・経営診断・分析
・農業経営に必要な最先端技術の習得
・簿記・財務管理
・販売実習

 「大阪アグリアカデミア」は、農業の成長産業化を狙う大阪府とJAグループ大阪(大阪府内のJAや関連組織の総称)が協力して進める「農の成長産業化推進事業」の一つとしてスタートした。すでに農業に従事している「プロ」を対象に、リーダー養成コースとスタートアップコースを設けている。運営を受託するマイファームのほか、連携企業としてヤンマーアグリイノベーション、ソフトバンクグループで農業センサーを事業化しているPSソリューションズが参加した。

 大阪府としては、大消費地が近い都市農業のメリットを生かし、農業の規模拡大のために経営感覚に優れた農家の育成を図ることで、大阪農業を活性化する狙いがある。様々な民間企業と連携することで、農家のチャレンジ意欲の喚起、経営マインドの強化とそのための農業経営手法の習得などを支援していく考えだ。

大阪アグリアカデミアを含む「農の成長産業化推進事業」
(資料:大阪府)
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農地の流動性を高めて農業参入を促す

西辻一真社長(写真:川井直樹)
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 西辻社長は、農地の「流動性」にも風穴を開けようとしている。農地は、これまで簡単に賃借や売買ができず、流動性がないことが耕作放棄地の増大につながっている面がある。適正な評価、価格の目安がないことなどがネックとなって、農地を取引する市場が形成できていない。そこで2016年5月にソフトバンク・テクノロジーと農地情報の利活用サービスの提供を目的に提携し、7月には共同出資で「リデン」を設立した。

 マイファームには耕作放棄地などのデータが蓄積されている。ソフトバンク・テクノロジーが持つICTノウハウを生かして、遊休農地などを検索できるサイト「農地の窓口」をオープンした。ソフトバンク・テクノロジーが農水省の委託事業で開発した「全国農地ナビ」とも連携している。対象農地の調査、コンサルティング、行政手続きの代行といったサービスも提供する。農地の情報を広く流通させることで、将来的に農地を売買する市場が確立し、新規就農者の拡大や企業などによる大規模農業化につながることを期待しているという。

 西辻社長は、マイファームやアグリイノベーション大学の取り組みを通じて、農作業に親しむ人、新規就農者を増やし、さらに既存の“プロ農家”の営農指導や経営改善、農地の流通改革まで、農業のすそ野から山頂までを活性化させようとしている。今後は就農者の産品を扱う実店舗だけでなく、ECサイトの開設なども計画しているという。

 そもそも、西辻社長がこの道に入ったのは、生まれ育った福井で耕作放棄地が増えていくのを目にしたことがきっかけだった。自ら担い手になろうと大学で農業を学び、「農家になる道を探していた」という。就職した会社を1年ほどで退職し、農家を目指して、つてを探していた。「いずれはこの事業を誰かに託して、自分も今度こそ農家になるつもりだ」と話す西辻社長。「今の事業は、自分が農家になるためにやっているのかも」と笑う。

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/021600055/022200003/