地域・農家と壮年熟期層のマッチング施策

 静岡県の総合計画には8つの重点施策があり、「健康寿命日本一の延伸」もその1つに掲げられている。この背景として、日常生活に支障がない期間を指す健康寿命が静岡県は女性が全国1位、男性は同2位(厚生労働省・2013年発表)と、元気な高齢者が多いことがある。保健統計をみると、全国ベースでも現在の65歳以上の人の身体能力や健康データは、10~15年前と比較し5~10歳程度、若返っているとの報告もある。

 県が実施した県内の約1万4000人の追跡調査では、毎日の運動(歩き)、食生活(バランス)、社会参加(誰かとの交流がある)の3つの習慣を持つ人は、そうでない人に比べ長生きであることが分かったという。このうち、自力では難しい社会参加を支援する取り組みとして2016年度から「ふじのくに壮年熟期活躍プロジェクト」事業がスタートした。川勝平太・静岡県知事の「76歳まで高齢者とは呼ばない。社会で活躍してもらう」との長寿化方針が強く後押しした。

 同事業で狙う効果は、介護予防と認知症予防。65歳以上の人たちに社会参加してもらうことで、県の健康寿命をさらに伸ばすことができる。社会でいきいきと活動する人が増えれば、地域や県全体の活性化にもつながる。また医療費の削減にも寄与する副次的効果も期待できる。

 具体的には、県が企画し各市町で「社会参加促進フェア」を実施する。内容は社会参加の重要さを伝える講演で、ここで自分がやりたいプログラムを見つけてもらう。さらに、フェアで各種講習や体験会の参加を募る。ミカン収穫体験は、この中に組み込まれていた。このほかにも大人の社会見学バスツアーなどもあり、実施にあたっては、県と市町との連携だけでなく、シニアクラブ、NPO、企業なども参画している。

 ミカン収穫体験では、浜松市で介護保険事業を手掛けるLCウェルネスが企画や運営を手助けした。

シニア層の就農展開は20年前から模索

 LCウェルネスの美野孝子社長は、20年前から高齢者の就農を実現させようと試行錯誤してきた。きっかけは、親交のあった東京都の介護施設で聞いた問題の解消策だった。定年後に家で閉じこもる人が増え、「何とか夫を外に連れ出すことができないか」という夫人の相談が多く寄せられていた。そこで思いついたのがミカン農家での一時的な就農だった。

LCウェルネスの美野孝子社長(写真:海部隆太郎)
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 一方、農家では、農作業の合間に老人介護を行う。その大変さを現場で見てきただけに少しでも収穫期に人手を増やすことにつながれば、農家の介護負担を減らせるとの思いもあったという。農家の人手不足は全国的にも深刻な問題で、農業就業者の平均年齢も60歳代と高齢化している。外国人労働者に頼らざるを得ないが、移転も多く、長期採用が難しいという事情もある。

 「ミカンの収穫期は11月前後で、機械化はできず人海戦術しか方法はありません。難しい作業ではないので初めての人でも、すぐにコツがつかめるのでとっつきやすい。時給ももらえ、農家に泊めるという仕事環境を整えれば実現できると考えました」と見野社長は語る。

「観光農業」を視野に

 静岡県は、2017年度もJAみっかびの協力を得て、ミカン収穫体験を実施する方針だ。参加を募るのは今年度の3市以外で、県西部の市町を候補としている。

 見野社長は、将来的にはミカン収穫以外にも対象を広げ、期間と場所を変えて季節ごとに就農できる仕組みを構築したい考えだ。静岡県の農産物は品数が豊富で、それぞれ収穫期が異なる。今後は、ミカン収穫以外の農作業も含めて、継続的なシニア層の就農について、移動や宿泊を含めたシステム化を目指している。

 そのアイデアとして「観光農業」を提案する。「ツーリズム感覚で高齢者が参加することで『サンシャインツーリズム』と名付けています。農業だけでなく、林業も水産業も含め1次産業で観光、体験、交流、労働、物流、販売までに関わり、ここで定年後の生きがいを見つけてもらう」(見野社長)という構想だ。

 遠方からでもツーリズム感覚なら、移動に時間がかかっても大きな問題にはならない。宿泊など課題は残るが、「それでも知恵を出してシステムを作れるはず」と強調する。シニア層の就農が本格化するには時間がかかりそうだが、実現を目指す取り組みは着実に進んでいる。