獲った魚を消費者に販売する「6次産業化」に着手

――萩大島船団丸として最初に取り組んだのはどんなことですか。

坪内 魚の自家出荷ですね。獲った魚を梱包して消費者に直接送る「6次産業化」に取り組もうと考えました。この方法は生産者が価格決定権を持つことができ、消費者と直接やり取りすることで、生産物をより高い値段で売って利益を上げられるメリットがあります。

 たとえば、アジやサバの漁で、スズキやイサキなどの魚が混じっていたとき、そのまま市場に水揚げしても1箱1000円くらいにしかならない。そんな魚を「鮮魚BOX」として顧客の要望に応じて活け締めして詰め合わせれば、小ロット少品種でも、都会の飲食店などを中心に高い値段で売ることができます。

 農林水産省が「六次産業化・地産地消法」に基づく認定事業申請を受け付けるという情報があったので、申請を出して2011年3月14日に事業計画書を提出して、5月26日に中国四国地域内で認定事業者第1号になりました。

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萩大島船団丸では、萩沖の日本海で獲れた魚を漁獲後にすぐに活け締めし鮮魚を箱詰めにして「鮮魚BOX」として発送する(写真提供:坪内知佳)

――計画を実行に移す段階で、どんな課題がありましたか。

坪内 漁協の反発ですね。漁師が獲ってきた魚は漁協が管理する市場(=漁協)に水揚げされて、仲買人や卸業者を経て、小売店・飲食店へと流通します。魚の流通は漁協がすべて取り仕切る仕組みになっているので、漁師が勝手に消費者と取引するのは困るわけです。

 漁師としても、船や網にかかる膨大な資金の融資を受けるのは漁協からだし、漁で必要な燃料や氷、箱などの資材も漁協が管理しているので、漁協と対立することは漁が成り立たなくなる不安がありました。

 でも、ここで変わらなければ萩大島の漁業どころか、日本の漁業の未来はないという確信が私にはありました。だから、どうにかお互いがWin-Winになる方法を考えたわけです。結局、獲れた魚の大半は市場に回し、自家出荷する分は漁協と仲買人に手数料を払う。逆に私たちの水揚げが少ない日や禁漁期間は市場から買って、自家出荷分を賄うということで折り合いをつけました。

――漁協との関係づくりに成功したことが大きなポイントだったわけですね。

坪内 自分たちの思いと違うからといって、今でのやり方をすべて否定することは地方ではすべきではないと思っています。長い間、そのやり方でやってきた理由があったんだろうから、いかに歩みよるかが大事ですね。儲けるだけが目的ではないし、今まであったものを全部やめて新しいものを取り入れるやり方では“地方再生”にならないと思うんです。

――漁師さんが「鮮魚BOX」を作ることは、意外と大変だったようですね。

坪内 漁師が獲った魚を船上で処理して、注文通りの魚を入れてお客様に直送する。それだけのことですが、漁師はもともと魚を獲ることだけが仕事だったので、梱包や伝票書きなどの細かい作業なんかしたことがなくて、最初はなかなかうまくいきませんでした。氷が解けて魚が水浸しになったり、逆に凍ってしまって使い物にならなくなったりして、クレームの嵐でした。

 「魚が傷つかないように丁寧に扱って」「伝票の文字は読めるように書いて」「ガムテープを張るときは、相手が開けやすいように端っこを二つ折りにしてつまみを作って」とか、細かく指示しました。でも、そんなことしたことない人たちがやるからこそ、ガムテープのつまみを作る一手間が価値になる。今は魚を箱詰めしたらスマホで写真を撮って顧客にLINEで送り、それから発送しています。

――漁師の方が直接、顧客とやり取りするんですね。

坪内 漁師のための6次化ですから。私が営業先を開拓し、営業を担当していたのですが、実は漁師が直接営業するようになってから顧客とトラブルが続いて、120軒あった顧客が一時期半減したんです。漁師はお客さんの対応をしたことがありませんから…。今では約400軒のお客様がいます。漁師たちを取引先であるフランス料理店に連れて行って、フルコースを食べさせたことがあります。自分たちが獲った魚が最終的にどういう形になるのか、実際に見て食べると、漁をするときの気持ちが違ってきます。買い手のほうも、飲食店の料理長が多いのですが、「俺の魚はこの船のこの漁師さんから買う」という思いがあって、いい魚を手に入れるためにいろいろな要望を伝えてくれる。顧客を巻き込むことで、より質の高いビジネスになっていると思います。