「大成功」よりも「失敗しない」こと。
堅実な経営が成功のカギに

――改めて、ゼロから400軒の顧客を持つまでになった、萩大島船団丸の成功の要因は何でしょうか。

坪内 失敗する要因を徹底的に排除すること。何か問題が起こったとき、そこで諦めたら終わり。どうしたらクリアできるか、いろいろな方向から考えればいいんです。

 私はビジネスにおいて無謀なチャレンジはしません。一歩踏み出すときには、必ずセーフティーネットを置きます。自分たちが絶対に転ばない道の上しか歩かなければ、大赤字や倒産はないと思うから。10憶円、100憶円の売り上げがなくてもいい。500万円、1000万円でも十分なんです。その中でどうやって100万円の利益を出すかが大事で、そこを堅実に歩むことを考えています。「大成功」よりも「失敗しない」ことのほうが大事かな、と。身の丈に合わない商売をしたり、ムダな投資をしたりしなければいいだけ。常に地に足をつけておくってことです。

 だからこれまでも想定内のことしか起きていませんよ。「想定外のことが起きたらどうするんだ?」というのが船団長の口癖なんですけど、私はいつも「起きたときにどうにかするから」と言っています。漁師たちと何度取っ組み合いのケンカをしても、この仕事を辞めようと思ったことはありません。

――「私がどうにかする」と言うので、みんなが坪内さんを信頼していますよね。

坪内 実際、どうにかできるようなことしか起きてませんしね。送った魚が凍っていたとか、箱が破れていたとかがあっても、代品を出せば済むし、お客様に謝りに行くにしても、交通費さえあれば事足ります。

――坪内さんが目指すビジネスの核となる理念は何ですか。

坪内 子どものころの体験が原点にあります。出身地の福井県は中小企業の経営者が多いところ。「あそこの社長が保険金をかけて首を吊ったらしい」なんて話がよく耳に入ってきたんですが、そのたびに「人って何のために働くんだろう」と考えていました。人は豊かになるために働いてお金を稼ごうとしているはずなのに、ビジネスに失敗したら自ら命を絶ってしまうことに矛盾を感じていたんです。私はそういう人が一人でも少なくなるような世の中をつくりたい、それが正しいことだと証明できる大人になりたかった。

(写真:大槻純一)
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――2014年に株式会社GHIBLI(ギブリ)を設立しました。

坪内 萩大島船団丸は国の認定事業者で、漁業を離れた活動が自由にできないので、さまざまな可能性に挑戦できるように、会社を作りました。漁師たちが漁に出られない期間に給料を払うことで、生活を安定させるためでもあります。

 今は、全国から萩大島船団丸の視察に来たいという団体や組織のニーズに応えるスタディーツアーと6次化事業の立ち上げや運営ノウハウを全国に展開するコンサルティング業務を行っています。

 「GHIBLI」というのは、サハラ砂漠から地中海に向かって吹く熱風のこと。海に向かって吹く強くて熱い風のイメージが、彼らにぴったりと思い、名づけました。

――スタディーツアーというのは?

坪内 萩大島船団丸の現場を見ていただいて、漁師飯を食べるツアーです。萩大島の漁業の歴史や現状についてもいろいろとお話させてもらっています。これまで400人を超える全国各地の漁業関係者、行政の方などが参加しています。先日も福島・いわき市の漁師の方々がスタディーツアーに来られました。

――いわき市の漁師の方々とはどういう経緯でつながりができたのですか。

坪内 2014年に復興サポーターとしてNHKから現地での事業展開の打診を受けたのがきっかけです。東日本大震災による原発事故以来、福島の沿岸漁業は自粛中で、現在は再開に向けた試験操業が行われている状況です。私は月に1回いわきに通って、本操業になったら福島の魚をどんなふうに売っていくか、漁師さんたちと戦略を練ってきました。

 東日本大震災が起きたのは、私たちが6次化の事業計画を提出した時期で、まだ何もできていませんでしたが、海をなくすつらさを考えると、とても人ごととは思えませんでした。被災した漁師さんたちのために、同じ漁師として何ができるか。それは、安心してお金が稼げて継続できる漁業を確立して、日本の水産に明るい未来を示すことだ、と私たちは話し合い、頑張ることができた。交流を通して、一緒に日本の漁業を再生できたら、と考えています。

取材の前日より萩大島船団丸にスタディーツアーに訪れたいわき市の漁師の皆さん。「何年もかけてやってきたことをいっぺんに習得できるわけではない。少しずつ教えていただければ。こういうつながりができて本当によかった」といわき市漁協協同組合理事の吉田和則さん(坪内さんの左隣)。(写真:大槻純一)
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――クラウドファンディングで資金調達しての漁師民宿を計画されていますね。

坪内 「鮮魚BOX」やスタディーツアーに続く、新たな漁師の仕事として考えているものです。最近、一般家庭で魚離れが進んでいます。漁師民宿を利用することで、魚を食べることが身近になり、100年後の海、魚を食べることについて考えてもらうきっかけになれば、と。生産者と消費者がつながることが地方創生の一つの形になると思います。包丁もない家庭も増えているといわれますが、魚の捌き方も漁師が指導し、海をもっと身近に感じてもらうことで消費拡大に繋げたいと考えています。