「水産だから」「田舎だから」人材が来ないのではない。
未来に光をつくるのが経営者の役目

萩大島船団丸には漁業に関心のある若い世代が全国からIターンで参加してくる(写真提供:坪内知佳)
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――漁業は後継者不足が大きな課題ですが、坪内さんはIターン希望の若者を次々と連れて来るそうですね。

坪内 私が引っ張ってくるというより、向こうから来るんですよ。「実は漁師になりたかった」「1次産業に携わりたかった」という若者は意外と多い。でも、「1次産業は儲からない」「漁業は危ないからやめろ」と親に言われている。ところが、私たちがテレビで紹介されるようになると「ここならいいんじゃない?」となる。

 要は「未来がある」ということが見えることが大事なのではないでしょうか。漁業は後継者がいない衰退産業だからとあきらめるんじゃなくて、戦略的にこうやっていこうというものがあれば、仲間は増えていく。「水産だから」「田舎だから」人が来ないわけじゃない。先に光が見えていることが大事なのだと思います。人材を集めるには、経営者が戦略とビジョンと夢をどれだけ語れるかにかかっている、と常々思っています。

――では、今後のビジョンを教えてください。

坪内 47都道府県にこの仕組みを水平展開したいと思っています。自然とともに生き、自然の恵みを大切にしながら生きてきた日本の良さ、幸せを各地の浜で再生させたいと取り組んでいます。北海道・噴火湾と高知・須崎では既に展開済みです。福島・いわきを含め、計画中のところは増えているので、発表できる段階になったら随時広報していこうと思っていますし、漁業だけではなく、農業や林業を含めた1次産業全体の連携を考えています。

 目指しているのはフェアトレードなんです。生産者が適正な価格で販売できること、資源管理を含めてすべてにフェアな商品開発及び販売をしていきたいです。フェアトレードによる日本の1次産業再生ですね。6次産業化が目的ではなく、誰かが泣かない、みんなが笑えるビジネスができればいいと思っています。

 地方創生の成功のカギは、納税と雇用と消費がものさしです。人々がお金を稼げる産業づくり、雇用の創出、消費の拡大、この3つを実現するにはどうすべきかを考えれば、達成できると思います。萩大島船団丸は自家出荷でしたが、展開する場所、モデル、売るものによってやり方は全く異なると思います。だからただコピーを作ればよいのではなく、1カ所ずつ、あなたたちはこういうプランでやりましょう、というのを作らないといけないですね。

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会社は自宅の一角に。社長のデスクの壁には一人息子から贈られたかわいいバースデーカードが張られていた。魚や漁業関係の本がたくさんあった。(写真:3点とも大槻純一)
<インタビューを終えて>
取材のため部屋にいわき市の漁師さんが8人入ってきました。屈強な身体にいかめしい表情の皆さんの存在感に思わず取材する身がひるみました。お話しすると皆さん優しい笑顔となりましたが…。〝坪内さんはこんな男性たちを束ねているんだ…〟改めてその手腕に驚きました。漁師が水揚げした魚を活け締めし、鮮魚を箱詰めにして発送する。坪内さんが萩大島船団丸でしたことは「これだけのこと」に見えるかもしれませんが、そこに日本の漁業の仕組みを大きく変える幾多のチャレンジがあったのです。漁師の価値観や行動を変えて、自分一人でゼロから顧客を開拓し、漁協とも共存するような仕組みをつくる。著書には血のにじむような日々が綴られています。「なぜ、そこまで?」「島の豊かな生活を息子たちに残したい。日本の刺身文化を守りたい。ただそれだけです」。そのビジョンが一灯の明かりとなって島を照らしているのだと思いました。
麓幸子(ふもと・さちこ)
日経BP総研 マーケティング戦略研究所長・執行役員
麓幸子(ふもと・さちこ) 麓幸子(ふもと・さちこ) 1984年筑波大学卒業。同年日経BP社入社。88年日経ウーマンの創刊メンバーとなる。06年日経ウーマン編集長。12年ビズライフ局長。日経ウーマン、日経ヘルスなど3媒体の発行人となる。14年日経BPヒット総合研究所長・執行役員。15年日経BP総合研究所副所長。16年現職。2014年法政大学大学院経営学研究科修士課程修了。内閣府、林野庁、経団連・21世紀政策研究所研究委員などを歴任。筑波大学非常勤講師。一男一女の母。著書等に『女性活躍の教科書』『なぜ、あの会社は女性管理職が順調に増えているのか』(日経BP社)、『企業力を高める―女性の活躍推進と働き方改革』(共著、経団連出版)、『就活生の親が今、知っておくべきこと』(日本経済新聞出版社)などがある。