本当の豊かさは「沖縄の地の利や素材を生かした産業をつくってこそ」

――地方で女性が起業する場合、行政に望むことはありますか。

 女性は起業をすると同時に、子どもを産み育てるという、生まれながらに与えられた大きな事業もあります。その2つを両立するためには、子育てしながら不安なく働ける環境をじっくり社会整備する必要があります。また、女性に限らず地方の競争力を高めるためには、文化・伝統で差別化していくことも大切です。豊かさを考えたとき、経済的豊かさと文化的豊かさは車の両輪だと思ってきました。人生は紆余曲折ありますが、芸術や心動かされるものに触れることで勇気づけられたりします。文化的に豊かであることは精神や思想の成熟につながります。私も沖縄に産業を興したいとひたすら走る一方、沖縄を題材にしたミュージカル「マサリー」を制作するなど文化支援も行ってまいりました。

 新薬開発とミュージカル制作に共通するのは、「沖縄の地の利や素材を生かした産業や文化をつくってこそ、沖縄の本当の豊かさにつながる」という思いです。

――地方のために事業をしたいと思っている女性起業家の卵のためにアドバイスをお願いします。

 どんなゴールにしたいか考え、ゴールを見ながら進むことが大事ですね。私たちは地元のために何かをしようとするわけですが、競争するのは地元だけではありません。世界へ発信して行きましょう。そのためには広い視野を持って歩んでいただきたいと思います。

(写真:河野哲舟)
(写真:河野哲舟)
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取材を終えて

奥さんに取材するのは2回目。最初は、筆者が、日経ウーマン編集長時代に、「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」を授与させていただいた時でした。「万にひとつ」という新薬の開発を成功させた創薬ベンチャーのトップとして脚光を浴びていました。それから10年以上たち、昨年、歴史ある琉球新報賞受賞との報を受け、再びお会いしました。「沖縄ならではの産業を興したい」という強い思いは変わらず、現在は、沖縄由来の植物を生かした新たな事業に注力されています。沖縄に来ると中国・台湾が近いことを実感します。まさに日本とアジアを結ぶハブとなりえる拠点です。奥さんはその地の利を生かし、中国市場も見据えて精力的に事業を展開します。「沖縄のために」「痔で苦しむ患者さんのために」「認知症という社会課題の解決のために」――奥さんの明確な事業ミッションとパッションが、様々な人の心を動かしていることを改めて感じました。

麓幸子(ふもと・さちこ)
日経BP総研 フェロー
麓幸子(ふもと・さちこ) 麓幸子(ふもと・さちこ) 1984年筑波大学卒業。同年日経BP社入社。88年日経ウーマンの創刊メンバーとなる。06年日経ウーマン編集長。12年ビズライフ局長。日経ウーマン、日経ヘルスなど3媒体の発行人となる。14年日経BPヒット総合研究所長・執行役員。15年日経BP総合研究所副所長。16年執行役員。18年現職。2014年法政大学大学院経営学研究科修士課程修了。文部科学省、内閣府、林野庁、経団連・21世紀政策研究所研究委員などを歴任。筑波大学非常勤講師。一男一女の母。著書等に『女性活躍の教科書』『なぜ、あの会社は女性管理職が順調に増えているのか』(日経BP社)、『企業力を高める―女性の活躍推進と働き方改革』(共著、経団連出版)、『就活生の親が今、知っておくべきこと』(日本経済新聞出版社)などがある。