地方を変える女性たちの活躍をロングインタビューで紹介する当連載。2016年3月に開始し、これまで17人の女性たちが登場したが、この度、書籍『地方を変える女性たち』として発刊された。これを記念して、今回は、藻谷浩介さんの特別メッセージを同書より転載する。平成大合併前の約3200市町村すべてを訪れた藻谷さんは、徹底した現場主義と緻密なデータ分析で知られている地域エコノミスト。ベストセラーとなった『デフレの正体』『里山資本主義』等の著書でかねてより女性の就労と経営参画の重要性を説いている藻谷さんに、改めて「なぜ地方で女性の力が必要なのか」をテーマに寄稿してもらった。

藻谷浩介(もたに・こうすけ)
藻谷浩介(もたに・こうすけ)
1964年山口県生まれ。88年東京大学法学部卒業。米国コロンビア大学経営大学院卒業。日本開発銀行(現・日本政策投資銀行)参事役等を経て現職。日本の全市町村をくまなく回り、地域振興、地域経済再生をテーマに精力的に研究・著作・講演を行っている。政府関係の公職多数。主な著書に『実測!ニッポンの地域力』(日本経済新聞出版社)、『デフレの正体』『里山資本主義』(共に角川oneテーマ21)、『和の国富論』(新潮社)他多数。最新刊は『世界まちかど地政学』(毎日新聞出版)、『完本・しなやかな日本列島のつくりかた』(新潮文庫) 
(写真:芯)

能力から考えれば女性活躍は当然
リーダーが男ばかりなのは不公正

 海外を回っていると、日本というのは大変によくできた社会であるということに改めて気づきます。すべてにおいて効率がよく、サービスがよく、信頼と安全がある。ですが一点、他国に比べておかしなところがあります。政治の世界でも企業社会でも地域の諸団体でも、諸外国に比べてリーダー層、幹部層に著しく女性が少ないのです。

 何かの原理主義を奉じているとか、何か特殊な宗教的理由があるのであれば、まだ分かります。しかし、イザナミとイザナギが力を合わせて日本を創ったというのが日本神話でして、男の神様が天地を創造したという一神教の世界観に比べ、日本は最初から男女共同参画でした。英語は、heにsを付ければsheになり、manにwoを付ければwomanになるという、女性が男性の派生形であるような単語の構造になっていますが、日本語では“おとこ”も“おんな”も対等の語ですし、男女問わず“人”という言葉でくくるのが普通です。

 同じく日本神話で一番偉い神様は天照大神で、女神です。文字記録に残った最初の権力者は卑弥呼で、女王でした。日本語の非常に大きな特徴は、直線ではなく柔らかな曲線を多用するひらがなですが、これを考えたのは女性。最初の小説を書いた紫式部も女性でした。日本の歴史の中で徒手空拳の身分から天下を取ったといえば、古くは源頼朝、次いで豊臣秀吉ですが、女傑だった北条政子やおねが妻でなかったら、彼らもそこまでできたかどうか。

 このように歴史的に女性が元気に活躍してきた社会だったのに、なぜ21世紀にもなって、背広を着た中高年男性ばかりが偉そうにしているのか、不思議でなりません。

 現実問題として、男女の差よりも個人個人の個性の差のほうがずっと大きいものです。度胸が据わっているか、創造的か、責任感があるかといったことに、個人の差はあっても男女の差はありません。ですから結果を出せる人材を自然体で選んでいれば、政界でも財界でも地域でも、女性がどんどん幹部やリーダーになっていなければおかしいですよね。そうなっていないのは、公正な競争が行われていないから以外にありません。東京医科大学の入試で言語道断の女性差別があったように、リーダー選びの際に意識的に、あるいは無意識に女性を排除する慣行があるから、男ばかりが物事を決める立場になっている。人権面から考えてもよくないですが、有能な女性を排除する分だけ、無能な男性でも地位に就きやすくなり、結果として政治や企業や地域団体のパフォーマンスが落ちるという問題も見逃せません。

消費者マインドがないと売れない
高感度な女性たちがキーとなる

 「中高年男性ばかりをリーダーにしているから、政治や企業や地域団体のパフォーマンスが落ちる」と書きました。政治の世界で起きてきた分かりやすい問題は、少子化問題への取り組みの遅れです。日本の政治はこの半世紀近く、ざっくりいえば「景気対策」ばかりに集中し、若い世代が子どもを産み育てにくくなっていることに対して有効な手を打ってきませんでした。その結果が、GDPは増加基調なのに、毎年の出生者数が過去45年間で半減してしまった、という現実でした。

 出生者数が減れば、20年後からは若者が、40年後からは中年までもが減り始める。多年の事態放置の結果、日本はもうそういう状況に陥っています。「人口減少は地方の話で、東京はまだ栄えている」というのは、全くの思い込み。数字を確認すれば、首都圏でも増えているのはもう65歳以上だけです。だからこそ首都圏でも、ラッシュは年々楽になっていますし、外国人観光客が増えなければ、商業も大変なことになっていたでしょう。

 それどころか、今後30年間の人口予測を見れば明らかなことですが、これから高齢者がさらに増えるのは過去に若者を集めてきた都会で、若者を都会に出す側だった地方では高齢者の増加が先に止まります。多くの過疎地では既に高齢者が減り始めており、高齢者福祉にかかっていたお金を子育て世代支援に回す余裕が生まれ始めているのです。しかしそのことに気づいていない過疎自治体も多いですね。幹部から上が中高年男性ばかりで、今どき「インフラ整備で都会に追いつけ」という発想から全く抜け出せていないのです。

 企業にも同じ問題があります。特に大企業では、決定権を持っているのが男性ばかりであるために、「BtoC」(Business to Consumer)の世界で国際競争に負ける例が増えてきました。家電が典型ですが、消費者の中心である女性が求めているのはデザインとシンプルな使い勝手なので、男性開発者がダサいデザインに無駄な「機能」を詰め込んだ商品は、そっぽを向かれてしまっています。それでも技術力は健在なので、「BtoB」(Business to Business)の世界ではまだまだ強いのですが、価格競争が激化していて儲からない。工場で働いているのはロボットばかりで、所在地域の人口は増えず経済も活性化しない。

 これからの日本を支える柱の一つが、日本文化や地域の特産品を売りにした集客交流業であるのは明らかです。それに合わせて農業も工業も6次産業化していかなければならないのに、中高年男性が取り仕切っているのでは、生産はできても消費を喚起できない。感度のいい消費者が、生産側に回って意思決定しないと、世界に売れる商品はできません。

 感度のいい消費者は、日本では圧倒的に、男性ではなく女性です。女性の感性に訴えれば、人口減少でも消費は喚起できます。プロ野球がいい例で、女性社員の企画を次々通す広島東洋カープや、オーナーが女性の横浜DeNAベイスターズは、劇的に集客や関連商品売上を増やしました。

 昨年(2017年)に日本が、中国(+香港)から、5兆円を超える史上最大の黒字を稼いだのはご存じでしょうか。米国、台湾、韓国、シンガポールからも毎年、膨大な黒字を得ています。反対に日本が赤字になっている国はどこかというと、化石燃料産出国以外では、過去10年間以上一貫して、フランス、イタリア、スイスなのです(注)。スイスからは高級時計、フランス、イタリアからは服飾、ワイン、チーズなど、高額な手作り商品を輸入しているのが理由です。これを逆にいえば、日本には資金力とセンスのある女性消費者が多いということ。同じマーケットを開拓したいと思えば、生産側にある日本企業こそ、消費者として高感度なセンスを持つ女性たちを意思決定できる立場に置くことが重要なのです。

(注)2017年財務省データによる。

地方だから大変なのではない
地方だからこそチャンスがある

 フランス、イタリア、スイスが対日黒字を稼ぎ続けていることを紹介しました。それでは、これらの国で主力輸出品を生産しているのは、都会でしょうか、地方でしょうか。ワインやチーズを考えても分かりますが、すべて地方なのです。スイスにいたっては、最大都市でも日本の県庁所在地程度の大きさしかありません。地方の企業が、地元らしさを生かして商品を開発し世界的に販売している、つまりグローカルに行動できている点に強みがあります。

 これに対して日本ではいまだに、マスコミが典型ですが、東京中心のナショナルな世界と、地方のローカルな世界の二項対立で物事が捉えられていて、「グローバル競争にローカルな魅力を生かす」という視点が、地方にも欠けているし、東京にはもっと欠けている。

 ですが、地方でも、九州や四国、北海道といった遠隔地では、次第にグローカルに行動する地場企業が増え始めています。それに対し東日本の各地は、人口4000万人と世界最大の首都圏マーケットに近過ぎて、その存在にスポイルされていますね。

 外国人の延べ宿泊者数を都道府県別に見れば、わずか7年前はどの県も同じく少なかったものが、この数年で大きな差が出来てしまっています。東北や北関東の伸びが低く、九州や北海道の伸びが著しい。日光を持つ栃木県や、大宮のある埼玉県の外国人延べ宿泊者数は、福岡県や長崎県に客を取られがちな佐賀県に抜かれているのです(注)。これは企業の意識と対応努力に大きな差があるからに他なりません。

(注)2017年観光庁データによる。
都道府県別外国人延べ宿泊者数(2017年1月~12月)
都道府県別外国人延べ宿泊者数(2017年1月~12月)
(資料:観光庁)
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 外国人客への対応と、高感度な消費ニーズに対応した「BtoC」への対応。話は違うようで、本質は同じです。顧客を見た経営、マーケットインの経営を行えず、供給側の思い込みを貫いて軍隊的に突っ走る経営、プロダクトアウトの経営を行っているほど、対応が遅れていくのです。そしてそうした企業ほど、女性の意思決定への参画が遅れています。本当は時代に合わない企業は競争の中で淘汰されていくものですが、首都圏という巨大市場の存在が、彼らの延命を助けてしまっている。私は全国を日々回って観察しているのですが、市場の縮小に先に直面した地方の企業の中にこそ、むしろ新たな市場を積極的に開発しようと、組織ぐるみのイノベーションに挑戦している企業は多い。そして、そうした新しい意識を持つ企業の多くが、女性をリーダーとして活用しているように見えるのです。

東京の大企業で働いても何も残らない
未来に残す地域をつくる女性たちに期待

 日本の田舎の代表ともいえる山陰の島根県(松江や出雲大社のある県)と、東京都を比べてみましょう。女性にチャンスがあるのはどちらでしょうか。

 25~39歳の女性の就業率(非正規を含む)を比べると、島根県は9割を超えて日本一で、それに対して東京都は7割を割って全国最低レベルです(注1)。若い女性が働くと子どもが減ると思い込んでいる人がいますが、島根県の合計特殊出生率(女性が生涯に平均的に産む子どもの数)は1.87と1.9に近く、沖縄に次いで2位。それに対して東京都は1.22で全国最低です(注2)。つまり、働きたい女性にとっても、子どもを育てたい女性にとっても、ましてや両方やりたい女性にとってはなおのこと、東京は暮らしにくく、島根は暮らしよいのです。

(注1)2015年国勢調査結果より計算。
(注2)厚生労働省が発表した2015年の合計特殊出生率を、東北大学大学院高齢経済社会研究センターが再計算したデータによる。

 事実、島根県の各地には、面白い地域おこしをやっている女性がたくさんいます。そうしたロールモデルに影響を受け、都会から島根県に移り住む若い女性も、実は密かに増えています。先日も島根県の離島で、東大を出て6年間大企業に勤めてから退職し、移住してきた若い女性に会いました。彼女は引きこもりに来たのではなく、新たな自分の可能性を試しつつ、ゆくゆくは自分で起業するために来たのです。東京で

 「BtoB」の国際競争の袋小路に迷い込む大企業の社員をやっているよりも、地方で自分の感性を磨き、「BtoC」の国際競争に自ら身を投じたほうが、将来性もやりがいもある。何より、自分のやったことがそのまま地域に残る。大企業で社畜をやっていると、身を粉にして何をやってきたのか、最終的によく分からない人生になってしまう。このシンプルな事実に気づく若い女性が、静かに増えています。

 軍隊的な大組織で利益ばかり追求するのに慣れた中高年男性は、儲けて昇進することには必死になれるのですが、「子孫に残す価値を生み出したい」という感覚が欠けています。今だけ・金だけ・自分だけが大事で、未来や子孫に向けた思いがない。それに対して、私が出会った女性リーダーの多くは、常に次の世代、次の時代のことを考えて動いていました。今こそ、そうした女性リーダーをもっともっと増やすことが求められているのです。

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