「金がないこと」が公民ともに当事者意識を育てる

「口熊野マラソン」のチラシ。2017年は2月5日に開催され、4662人(フル:2593人、ハーフ:2069人)が参加した(資料:上富田町)
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 「小出町長は、民間の商業感覚に近い。スポーツセンターも文化会館も、放っておけば維持費だけで何千万円もかかり、役場の財政が苦しくなるから、町長も役場の職員もコストをなんとか回収しようと一生懸命です」。そう説明するのは地元を代表する企業であるヤマヨテクスタイルの山下社長だ。小出町長は自ら日本サッカー協会に足を運び、Jリーグの柏レイソルやなでしこジャパンのキャンプを誘致し、補助も得た。また、プロ野球のウエスタンリーグ(2軍)の公式戦も呼ぶことができた。

 これらの誘致活動の特徴は、運営に町の補助金を使わないことだ。「町役場は財政の範囲でしか動けないから、常に『できるかぎり協力してほしい』と町民や地元企業に発信しています」(小出町長)。

 実際、毎年行われる「口熊野マラソン」の運営は1000人近くの町民のボランティアで支えられている。また、ウエスタンリーグの開催・運営についても「子どものためにと言われて、十数年間、招待券の購入などで支援しています」(山下社長)というように、地元企業のサポートを受け、補助金なしで運営されている。

 言葉は悪いが、これだけこき使われ、資金援助を求められ続けて、企業や市民は文句を言わないのだろうか。

 小出町長は笑顔で答えた。「地域の行事には役場の職員がボランティアとして必ず率先して参加するので、町民も企業も自ら進んで参加してくれる。私も職員も、後ろだてはしても介入はしない。町のことは、押し付けられてするものではないんです」。

 「小出町長は、何をするにも地元企業、住民の青年部、商工会議所の人たちに協力をお願いして、企業も住民も行政に巻き込みます。どんなイベントでも全員参加で、すべて成功して今日に至っています」(山下社長)。

 決して強制するのではなく、「お金がないから」とボランティアや資金援助など自主的な協力・支援を願い、企業や住民を巻き込むことで、結果、まちづくり(町政)を住民や地元企業の“自分ごと”に変えているわけだ。企業や町民はまちづくりに参加した達成感を得るだけでなく、イベントの実績や取り組みの成功で上富田町に誇りを持ち、愛着を深めることになる。結果、「住み続けたい町」になり、人口流出を食い止め、人口増加につながるという構図だ。

 この戦略が「教育」面でも生かされたとき、上富田町には「移り住みたい町」の評価も加わることになる。